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『形の無いもの』

《○○》先生、どうも。
今日はすみませんね。
クリスマスだというのに、お時間作ってもらってありがとうございます。

いえいえ、そんな。
独り身だから《○○》先生に声を掛けた訳じゃないですよ。
ほら、今は病院変わられて、落ち着いてるかなと思って。
お話、聞きたかったんです。
取材ですよ。オフですけど。

ええ、記事にするかしないかは俺が決めます。だから、オフィシャルな取材じゃないんです。
オフィシャルならちゃんとしてきますよ。

それでは単刀直入に聞きます。
現在の医療について、どう思われてますか?
制度、体制、全てにおいて。
あぁ、もちろんオフなので、気兼ねなく喋ってもらっていいです。
だからこそ、こういう場所を選んだんですから。

あはは、クリスマスに居酒屋はちょっとマズかったですかね?
でもほら、変にかしこまったところだと本音、話せないでしょ?
それにある程度雑音があった方が目立たない。

これでも意外と、考えてるんですからね!?
《○○》先生には、何度かオフィシャルで取材させてもらって、お話させてもらってますし。
その時から、気になってたんですよ。
何か色々と表では言えない事、抱えてるでしょ?
俺の直感がそう言ってる。

へ?俺の、家族ですか?

あぁ、居ますよ。はい。
嫁さんも子供も。
まだ子供も小さくて、今は冬休みなんで実家に行ってます。
両親も喜んでくれてるみたいだし、息子である俺より孫の方が可愛いみたいですけどね。
一応、正月明けるまでは向こうにいる。
俺もこの後、年末には合流する予定です。

子供ですか?大丈夫ですよ。
サンタクロースとして、やるべき事はやってありますから。

嫁さん?えぇ、俺の仕事については理解してくれてると思ってます。
その方が、あなたは活き活きとして楽しそうだって。
理解ある嫁さんで助かってますね。

家族、ですか。うんうん。

えぇ!?ダメなんですか!?

嫁さんだって理解してくれて、俺はこうして……。

あ、甘え……ですか。

《○○》先生が前に言ってた患者さん。えぇ。確か誤飲で。

そうですそうです。

ひとりで、救急車を。
そう、だったんですね。
でも、その方は旦那さんも居なくて……。
あっ……。俺の嫁さんには、俺がいる。
息子もまだ小さいし、何があるか分かんないですね。
確かに。
さすがに今日はもう間に合わないけど、明日俺も実家に行きます。
《○○》先生、ありがとうございます!
俺、行きますね!

もしもし、俺。ごめんな。
お前ひとりに子供の世話とか、家事とかも任せっきりでさ、ずっと頑張ってくれてて、しかも俺の自由にさせてくれて。
ホント、ありがとう。
明日さ、出来るだけ早い時間にそっち行くから。

ん?おかしなものでも食ったって?

それは大丈夫だ。
今日打ち合わせで話聞いて、色々と思うところもあってさ。
うん。またそっち行ったら話すよ。
じゃあ、また明日な。

あー分かった分かった。
新幹線の時間とか分かったら連絡するから。
おぅ、おやすみ。

家族、か……。
ホント、馬鹿だなぁ俺。
今まで気付かなかった。
俺がこうして仕事出来てんのも、家族の支えがあってこそ。
理解があってこそ。
でも、それに甘えちゃいけない。
嫁さんも子供も、俺の家族なんだ。
俺が、守んなきゃな。

本物のサンタクロースに、なってやるさ。

終わり

5人目 女性へ


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