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『緊急コール』
田中さん、体調はどうですか?
あら、調子良さそうね?
顔色も良くなってる。
あら、そうなの?
それは良かった。
ご飯食べられるようになると嬉しいよね。
あ、でもゆっくり食べてね。
まだ体が慣れてないから、急に食べ物が入ってくるとびっくりして拒否反応出ちゃうからね。
はい、OK。
田中さんは救急で運ばれてきた。
誤飲が原因の呼吸困難。
救急隊が駆けつけた時、ご家族は誰もおらず、自力で救急車を呼んだところで意識を失っていた。
救急隊により原因は取り除かれたが、一人暮らしであったために救急隊が家の中にスグには入れず、発見された時には、呼吸困難によるチアノーゼの症状がでていた。
救急隊の判断によりこの病院へ搬送。
処置を経て現在に至る。
ふぅ……。
誰かと話しながら食べれば楽しいはずの食事も、1人ではそうもいかない。
ましてや誤飲などしようものなら、パニックになることも考えられる。
救急車を呼ぶ。
その判断が命をつなぎ止めた。
これからきっと、こういう事案が増えるんだわ。
我が国では高齢化、核家族化が進み、単身世帯が増えている。
困った時は医師に頼るしかない。
それは分かっている。
しかし、医者は神様ではない。
田中さん、ご家族は?
そう、息子さんがいるのね。
今は……海外に?
凄いじゃない。
海外を飛び回ってる仕事ってどんな感じなんでしょうね。
私なんて、海外はおろか国内でだって、他の病院に行くこともないですから。
え?そうですよ~。
休みでも、何かあれば緊急コールで呼ばれちゃうこともあるし、気が抜けないというか、なんというか。
だから、カゴの中の鳥。
みたいなものなんです。
お休みの日?無い訳じゃないですよ。
緊急コールも無しの完全オフの日もあります。
でも、休みの半分くらいは待機休暇ですね。
そうそう、今日はクリスマスですよ?
知ってました?
あはは、さすがに知ってましたか。
他に用事もないですし、クリスマスを寂しく過ごすもの同士、少しお話しましょうか。
あぁ、大丈夫ですよ。
私が呼ばれる時はよっぽどの時なので。
予備要員、みたいなものかな。
呼ばれたら、行かないとなんですけどね。
大変、なのかなぁ。どうなんでしょう。
あんまり考えたことなかったかもしれません。
ただ、こういう仕事してると、時々自分の無力さに打ちのめされる時もあります。
ん?なんですか?
あなたのおかげで生きていられる。
まだ生きていいんだって希望を得られた……。
田中さん、ありがとう。
そうね。医師である私が、意思を強く持たなきゃ患者さんや看護師は不安になっちゃう。
あっちゃ~、呼び出し。マジかぁ。
私行かなきゃ。
田中さん、今日話せて良かったです。
メリークリスマス。良い夜を。
それじゃ!
もしもし?状況を教えて。
クリスマスケーキの配達中の事故!?
それ、外科じゃない!
外科の先生は!?
今、こちらに向かってるのね。
他に動ける人はいないの!?
分かった。
私たちは、私たちの出来ることをする。
希望は、捨てない。
何とかして繋ぐわよ!
終わり
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