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警告
その日は良く晴れた天気だった。
空を見あげて、以前から行きたいと思っていた場所へ行くことにした。
見知らぬ土地へ行くときは、その土地の神さまに受け入れられた気がする日を選ぶようにしている。
嫌な感じがする日は行かないほうがいい。
必ず妨害されるからだ。
道路が工事中だったり、急に天気が悪くなったり、その土地に住む人ににらまれたり。
なんとなく気分がのらない日に無理やり行っても、ろくな目にあわない。
その日は来てもいいよと言われた気がした。
♢♢♢
駐車場に車をとめると、木漏れ日が差して風が心地良かった。
大丈夫。受け入れられている。
だけど、歩きはじめてすぐにギョッとした。
道の真ん中で、車にひかれたハブが死んでいたからだ。
ハブが出やすいところかもしれない。
生唾をごくりと飲みこんだ。
これは警告だろうかと思って、立ち止まってハブをじっと見つめる。
だけど不思議とハブは怖くなかった。
完全にぺしゃんこになっていて、きらきら光るウロコが美しかった。
進んでも良さそうだと思って歩き続けた。
![](https://assets.st-note.com/img/1668908472787-P1629H0Y6h.jpg)
首里金城町の石畳は16世紀の尚真王の時代につくられた。
戦争で破壊されて一部しか残っていないが、首里城へ続く道で、風情ある景色を見せてくれる。
でも……
でこぼこの石畳は、すっごく歩きにくかった……
油断していると足をくじいてしまいそう……
整備されたアスファルトの道のありがたさを感じながら、急な坂道をふうふういいながら登った。
ここに暮らす人は足腰が弱くなると、さぞ大変だろうな……
大きなガジュマルの木が見えてきた。
そばには赤瓦の古民家がある。
開放されていて、どうやら休憩所らしい。
中をのぞくと床の間に、龍が描かれた丸いものが飾られていた。
![](https://assets.st-note.com/img/1668908314582-nEl0TLwpx4.jpg?width=1200)
これは首里金城町の旗頭(はたがしら)「雄飛」のようだ。
旗頭とはお祭りのときに、長い竿の先端につけられて演武をおこなうもの。
全部で50㎏くらいになるそう……
これをもって演武するなんて、腰を痛めないのだろうか……
![](https://assets.st-note.com/img/1668908587058-LvwypTr1OL.jpg)
古民家の道の左側へ行くか右側へ行くか……
迷いながら、ざっくりした絵の地図をながめていた。
体力を温存しておかないとバテてしまいそう。
目的の場所は右側の道の先にあるのだが、左側の道も見ておくことにした。
石積でつくられた金城大樋川(かねぐすくうふふぃーじゃー)という水場があった。
昔は生活用水として使われたそう。
赤いとんぼが飛んでいた。
さらに先へ進むと仲之川(なーかぬかー)という川があった。
高台にも関わらず水に恵まれていた立地。
だからここに首里城がつくられたのだろう。
![](https://assets.st-note.com/img/1668908944125-EJMvTymTi6.jpg)
ふたたび古民家に戻り、今度は右の道を歩きはじめた。
休日だけど観光客は少なかった。
こんな急な坂道を歩くのは大変だものね……
ふうふういいながら坂道を登って小道へ入る。
この先に見たかったものがある。
石垣の塀には、ピンク色のブーゲンビリアが咲いていて、青い空とのコントラストがきれいだった。
![](https://assets.st-note.com/img/1668908855284-JbTz3lDpP5.jpg)
だけど、木がうっそうと生い茂る場所があらわれると、とたんに空気が変わった。
じめっとしてうす暗い。
大きなアカギが何本もそびえ立っている。
観光客らしき男性は、その場に立ち止まることもなく、足早に通り過ぎて行った。
そうだよね……
こんな怖い場所からは、一刻も早く立ち去ったほうがいいからね……
御嶽(うたき)というものに、どこか怖さを感じるのは、きっとそこに何かがあるに違いない。
子どもと御嶽に行こうとすると、よっぽど整備された場所でない限り、たいてい怖がって近寄らない。
本能で危険だと感じるのだろう。
![](https://assets.st-note.com/img/1668909119102-99xipWbqmP.jpg)
それにしても、この御嶽の怖さは強烈だった。
なにせここは、鬼が殺された場所だから。
不揃いの石でつくられた急な階段の草陰から、今にもハブが飛びだしてきそう。
びくびくしながら急いで階段をかけ上がる。
心拍数が一気に跳ね上がる。
階段の先は開けた場所だった。
目の前に明るい景色が飛びこんだ。
アスファルトの道路に車が走っている。
日常に戻ってきた感じがした。
ドキドキして喉がすごく乾いていたので、水を飲んで一息ついた。
さて。
怖かったけど、御嶽にまた戻ることにした。
まだ十分に撮影できていなかったから。
![](https://assets.st-note.com/img/1668909372754-ghtifQEJaZ.jpg)
うす暗い御嶽に戻り、大きなアカギを見あげながら動画を撮影していた。
とつぜん何かが落ちてきて、目の前の帽子のつばにぶらさがる。
いそいで頭を振ると、落っこちてカバンにひっついた。
カバンを見ると、小さな毛虫がこちらに向かって威嚇していた。
うわー……
毒針の毛を飛ばすチャドクガを思い出した。
チャドクガじゃありませんようにと願う。
カバンをふっても毛虫はしつこかったので、木の枝をつかって毛虫を落とした。
早く帰らなくちゃ……
何だかあちこち痒くなってきた。
鬼が落とされたという崖の写真を撮った。
そんなに高い崖ではなさそうだけど……
打ちどころが悪かったのかもしれない。
手足がどんどん痒くなってきた。
どうやら虫に刺されたらしい。
いてもたってもいられなくて、御嶽をあとにした。
♢♢♢
ハブといい毛虫といい、もしかしたら鬼におどかされたのかもしれません。
この御嶽にまつわる伝説がありますが、詳しい内容は今回は書かないでおきます。
伝説をもとに、いま電子書籍の絵本を作っている最中なので、完成したらご報告します。
無料キャンペーンもやりますので、ぜひ読んでみてくださいね。
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