第六章 作戦をたてる③(球妖外伝 キジムナ物語)
森の奥のガジュマルの木の下では、ブナガヤが顔を膝にうずめています。
(つらそうだな。大丈夫か?)
火の玉がブナガヤに心配そうに声をかけました。ブナガヤはゆっくり顔をあげました。
「……なあ、なぜキジムナにはお前の声が聞こえなかったんだ?」
(……)
火の玉は黙って何も言いませんでした。
「なぜ答えない?」
とつぜん闇夜の森をヤンバルクイナの声が切りさきました。
「キョキョ!ブナガヤ」
ブナガヤは怖い表情で、目の前にあらわれたトゥイをにらみました。
「キジムナの次はおまえか……。二度とここに来るなと言っただろう」
トゥイはあわてて首を振ります。
「ちがうよ!かんちがいするな。おれはキジムナを裏切ってきたんだ。おれもブナガヤのやり方に賛成だよ。いっしょにチョウを守りたい」
「……ここから出ていけ」
ブナガヤは冷たく言い放ちました。
「ブナガヤ!あそこにチョウが飛んでいたよ。案内するからついてきて」
「……嘘をつくな」
「本当だよ!ここからすぐ近くだから、ついてきてよ」
「……どこにいる?」
トゥイについていくと、ブナガヤは小さなシジミチョウが一匹、ソテツの木のそばにいるのを見つけました。ブナガヤはチョウをつかまえると、ガジュマルの木に戻り、カゴの中にチョウを入れました。トゥイは得意気に騒ぎました。
「ほらね!おれの言ったとおりだろう?」
ブナガヤはじろりとトゥイを見ました。
「もう帰れ」
「わかったよ」
トゥイはあわてて暗がりに走っていきました。
ブナガヤがガジュマルの木の下に座っていると、
「キョキョ!ブナガヤ」
またトゥイがあらわれました。
「……帰れと言っただろう!」
ブナガヤが怒鳴るとトゥイはあわてて答えます。
「ちがうよ!またチョウを見つけたんだ。案内するからついてきて」
「……どこにいる?」
「キョキョ!ここから少し離れたところだよ」
トゥイに案内されて、少し離れたところへ行くと、ブナガヤは小さなシジミチョウが二匹、ソテツの葉っぱの近くでひらひら飛んでいるのを見つけました。
ブナガヤはチョウをつかまえると、ガジュマルの木に戻り、カゴの中にチョウを入れました。トゥイは羽根をばさばさ動かしました。
「ほらね!おれはチョウを探すのが上手だろう?」
ブナガヤはじろりとトゥイを見ました。
「いいからもう帰れ」
「わかったよ」
トゥイはあわてて暗がりに走っていきました。
ブナガヤがガジュマルの木の下に座っていると、
「キョキョ!ブナガヤ」
またまたトゥイがあらわれました。
「おまえいい加減にしろ!」
ブナガヤがイライラして怒鳴ると、トゥイはおびえながら答えます。
「怒らないでよ!おれはチョウの居場所を教えているだけだろう?」
ブナガヤはため息をつきました。
「……どこにいる?」
「キョキョ!ここからだいぶ離れたところだよ」
トゥイに案内されたところに向かいながら、ブナガヤは言いました。
「今度は遠いな……」
トゥイは答えました。
「だいぶ離れたところって言っただろう」
ブナガヤは小さなシジミチョウが三匹、ソテツの葉っぱに止まっているのを見つけました。ブナガヤはチョウをつかまえようとして、急に怖い顔になりました。
「なぜ、さっきと同じソテツがここにある?」
「ひぇーっ!ばれた」
ソテツは叫び声をあげると手足をはやして、あわてて逃げていきました。いつの間にかトゥイの姿も消えていました。ブナガヤは怒りをあらわにしました。
「くそっ!だましたな!」
ブナガヤは、めらめらと真っ赤に燃える火の玉に乗って、猛スピードでガジュマルの木に戻りました。
ガジュマルの木にはキジムナがいて、からみあった枝をほぐそうとしています。木の下ではアメ幽霊としゃれこうべとイナフク婆が上を見あげていました。
「戻ってきたわ!キジムナ急いで!」
アメ幽霊が叫ぶと、キジムナは顔を真っ赤にして力をこめました。
「うーん」
「やめろ!」
ブナガヤが叫んだとたん、キジムナがつかんでいたガジュマルの木の枝がバリバリとはがれ落ちました。壊れたカゴのすき間から、無数のチョウチョがいっせいに外に向かって飛びたちました。
解放されたチョウたちは暗闇のなかで美しくきらきら輝きました。
「きれいね」
アメ幽霊としゃれこうべとイナフク婆は、夜空に広がって飛ぶチョウの群れを見つめました。
地面にへたりこんで、ぼんやりとチョウたちを眺めていたキジムナは、無数の小さな火の玉が飛んでくるのに気がつきました。
「わっ!」
キジムナは飛び上がって火の玉をよけると、いちもくさんに逃げ出しました。
「よくもやったな!」
ブナガヤはキジムナのあとを追いかけました。
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