ブナガヤの悩み
球妖外伝(ブナガヤの冒険)第一章②
ブナガヤが腰かけたイタジイの木は、しっとり水分を含んでいました。
木の肌はざらざらと毛羽だっています。爪を立てると簡単にはがれてしまいそうです。
ブナガヤは視線を川のほうに落としました。おだやかな流れの水がさらさらと音をたてています。
「ぴっぴっぴっ・・・」
虫たちの声に混じって、ハナサキガエルの小さな声が聞こえてきました。鼻の先がとがった小さなカエルです。
どう話し出せばいいのだろう?
ブナガヤはいっしょうけんめい自分の気持ちを整えようとしました。
いつも一人でいることが多かったブナガヤにとって、頭の中で考えていることを言葉にして誰かに伝えるのは骨が折れることでした。
そんなブナガヤの気持ちをさっしたのか、トゥイはブナガヤの口が開くのをじっと待っていました。
「あのさ・・・トゥイ。おまえは朝目が覚めたときに、なんだかもうすごく暗い気持ちになってしまうことはないか?」
トゥイは丸い目をきょとんとさせました。
ブナガヤは視線を落としながら話しを続けました。
「絶望感に満たされて世界が終わってしまうような・・・。
そんな感じでなんだろう?
うまく言えないけど、もうとにかく気持ちが沈んで落ち込んでしまうような状態になって・・・。
身体が重くて起き上がれないような・・・ものすごく暗い気持ちになって今日一日やる気が出ない・・・。
そんな気持ちになることって、たまにある?」
ブナガヤはトゥイに聞きました。
「う~ん・・・」
トゥイはつぶやくと目をつぶってくちばしを夜空にむけました。
「うん・・・。おいらにはよく分からないけど、まぁなんだか暗くて悲しい気持ちみたいになったときのことか?」
「ああ・・・まあそんな感じ」
ブナガヤはうなづきました。
トゥイはつぶっていた目を開けました。
「うん、そうだな・・・。まあおいらの場合は、他の鳥がパタパタパタって羽ばたいて空の高いところへ飛んでいくのを見たときだな・・・」
ブナガヤはじっとトゥイの顔を見つめました。
「自分はあんな風に飛べないって思ったり、他の鳥からおまえは飛べないだろって馬鹿にされたときに、ちょっと落ち込むことがあるかもな・・・。
で、そんなふうに落ち込んで寝た次の日は、朝目が覚めたときに頭がぼんやりぼうっとしてすぐには動けないんだ・・・」
ブナガヤは真剣なおももちでトゥイの話を聞いていました。
「でもさ、しばらくぼーっとして動かないでいるとさ、だんだんとおいらのお腹が勝手に動き始めるんだ。グゴー、ギュルぎゅるギュルってね。
多分朝起きて、お腹もいっしょに目を覚ますのかもしれないな。そしてお腹が動き出すと、急に腹が減ってくるんだ。
で無性に、腹減った! なんか食べたい! って思って、それでおいらは動かされるんだ。
おいらは寝床から飛び出して、落ち葉の間に隠れているような小さな虫とか蝸牛とかをパクパクって食べるんだ。
そうするとな、お腹が満たされると、なんだか元気がもりもりと湧いてきて、今日も一日やってやるぜっ! てそういう気持ちになるんだ」
「うん、だからなんだろう? 落ち込んでいるときに、どうやったら動けるようになるかっていうのは、おいらの場合は、お腹に動いてもらってから、それから動くって感じかな?
ま、つまりはさ。感じる? ってことかな。
頭で考えてばっかりじゃなくてお腹の声を聞いたり、他の身体の声を聞く。それに素直にしたがって、動けばいいんじゃないかなっておいらは思うよ」
ブナガヤはだまったまま下を向いていました。
「おいらの言いたいことわかった・・・?」
トゥイはあわてた表情でブナガヤに聞きました。
「うん・・・なんとなくわかった。トゥイ、ありがとうな」
ブナガヤは小さな声でトゥイにお礼を言いました。
トゥイは照れくさそうな表情でぴょんぴょんと飛びあがりました。
「なんだよー。おいらたち友だちになったんだろう? 気にするな!」
すると、急にブナガヤの表情が厳しくなり、緊張した空気になりました。
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