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ニーセー石のマジムン

沖縄県の南にある八重瀬町には、小城(こぐすく)という地域があります。

高台にあって眺めがよいところですが、小城にあるこんもりと茂った森の中には不思議な石があります。

その石はニーセー石と呼ばれています。

ニーセー石とはいったい何なのでしょうか?

小城へ行ってみることにしました。

ひと気のない坂道を登っていくと、たくさんの木が生えていました。

風が吹いてざわざわと木の枝がゆれました。

葉っぱの間から小鳥の鳴き声が聞こえます。

森の音楽に耳をすましながら、手を横にのばして大きく深呼吸をしました。

雨が降ったあとの土の匂いがします。

身体の中にさわやかな心地良い気が入ってきて、ひとつひとつの細胞が喜びに満たされました。

歩く途中の道沿いには、いくつもの大きなお墓がありました。

古くて立派なお墓です。

その土地を治めていた昔の王さまたちが、静かに眠っているような気がしました。

このあたりは史跡がたくさん残る歴史深い土地です。

謎が多くて興味深いです。

ニーセー石の案内板が貼られた階段がありました。

さっそく上に登ってみました。

沖縄の山道や草が多い所に入るときは、いつもハブが出やしないかとドキドキします。

自然があたえる得体の知れない不安感は、人間たちを森から遠ざけます。

むやみやたらに森を破壊してしまわないように。

ときには森を神聖なものとしてあがめるように。

立て札を見つけました。

<有形民俗文化財 小城のニーセー石>

このニーセー石は、獅子の形をしていて名前のごとくニーセー(青年)を栄えさせるための守り神であるが、いつ誰が建てたか定かではない。

古老の話では、このニーセー石を建てて拝むようになってから、小城の青年達はさかえるようになったとのこと。

火よけや魔よけの守り神がほとんどの沖縄シーサーの中にあって、青年繁栄の守り神であるこのニーセー石は特異な存在である。

今でも、各種の青年の行事があるときは、集落の役員や青年達がこのニーセー石を拝んでいる。

看板にはこのように書かれていました。

ニーセーとは方言で青年という意味です。

日本語にも青二才(あおにさい)という言葉がありますよね。

青二才について精選版 日本国語大辞典にはこう書かれていました。

(「青」は未熟の意、「二才」は若者の意の「新背(にいせ)」の変化した語) 年が若く、経験に乏しい人を卑しめていうことば。

精選版 日本国語大辞典より

ニーセー石とは青年を守るための石のようです。

どんな石なのでしょうか?

さらに階段をあがると、草っ原の中にぽつんとニーセー石が立っていました。

ニーセー石

長い年月で風化してしまった石獅子は、かろうじて鼻と口が残っているだけです。

寂しげでちょっと不気味なニーセー石。

ニーセー石は何から青年たちを守ろうとしていたのでしょうか?

そんなことを考えながら「ニーセー石のマジムン」という短編小説を書いてみました。

♢♢♢

「ニーセー石のマジムン」は2022年の第34回琉球新報児童文学賞 短編児童小説部門で佳作をいただいた作品です。

準備が整ったのでやっと公表できます。

作品は南涛文学(なんとうぶんがく)第38号に掲載させていただくことになりました。

南涛文学第38号

南涛文学とは?

県外の方はご存じない方がほとんどだと思いますが、30年以上前からある沖縄の文学同人誌です。

故長堂英吉先生が1987年に南涛文学会を創設しました。

長堂英吉先生は1972年に「我羅馬テント村」で九州沖縄芸術祭文学賞、1990年に「ランタナの花の咲く頃に」で新潮新人賞、2000年『黄色軍艦』で芸術選奨新人賞を受賞された沖縄の作家です。

南涛文学のホームページより引用します。

〇 南涛文学創刊のいきさつは、朝日新聞社の東京のカルチャー、
  同人誌「まくた」を目指した。長堂英吉会長
〇 琉球新報のカルチャーの卒業生、OBなどに声をかけた。
〇 創刊から年、4号を目指したが、3号までしか出せなかった。
 その後は、1年に1号となった。
〇 南涛の「涛」という字は「大波」という意味。最初は『南の島』だった。

南涛文学ホームページより http://nantoubungaku.com/rekisi/rekisi.html

南涛文学会の会員には、地域の文学賞を受賞された先輩方が数多くいらっしゃいます。読み応えがある文学同人誌です。

2023年3月に発行された南涛文学第38号には、以下の受賞作が掲載されています。

仲程悦子「蜘蛛と夢子」第27回山之口獏賞受賞作
国梓としひで「夕凪の海」第53回九州芸術祭文学賞 沖縄地区次席
水蝸牛「ニーセー石のマジムン」第34回琉球新報児童文学賞短編児童小説部門の佳作
棚原妙子「四姉妹の旅立ち」第16回おきなわ文学賞随筆部門 佳作

ほかにも富山陽子、新垣絹代、末吉節子、津波信雄、まえだよしこ、仲西智文、上間さちよ、長嶺幸子、具志須磨子、外間千鶴子(敬称略)らの作品が掲載されています。

わたしより歳上で、沖縄県内の実力者がそろった文学同人誌です。

ご興味をもった方は、ぜひ取り寄せて読んでみてください。

沖縄県内では書店や図書館で目にすることが多いのですが、県外にはほとんど出回ることがありません。

ネットで検索をかけても出てこないと思います。

沖縄県外在住の方は、県内にある大型書店もしくは、くじらブックス&Zou Cafe南涛文学会に直接問い合わせてみてください。

発行部数は320冊程度のため数に限りがあります。

欲しい方はお早めに取り寄せることをおすすめします。

国立図書館にも寄贈したそうなので、県外の方は国立図書館に行けば読めると思います。

ちなみにくじらブックス&Zou Cafeはこちらです。

くじらブックス&Zou Cafe

沖縄県の八重瀬町にある可愛らしい古本屋とカフェのお店です。

お近くにお越しのさいは、ぜひ行ってみてください。

#ニーセー石のマジムン
#南涛文学
#くじらブックス

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水蝸牛
人と人との温かい交流を信じて、世界が平和になるように活動を続けていきたいと思います。