藤袴を育て、アサギマダラに会い、香りを楽しむ
2022年8月31日 安達榮一
初めに
9月中旬に三鷹市大沢の里古民家で、「藤袴の匂い袋体験講座」が開催されることになり、これに関わる事柄をまとめておくことにしました。三鷹エコミユージアム研究「みいむ3号」の31頁に「万葉の花・フジバカマ」という記事があります。これまでの私の野川の活動が、うまくまとめられていますので、参考にしてください。なるべく写真を使って、皆様に、感覚的に分かって頂きたいと思います。
内容の構成は
野川でのいろいろな出会い
野川の藤袴の保全活動
野川でアサギマダラに会う
藤袴の香りを楽しむ
となっています。
第1章 野川のこと
1野川でのいろいろな出会い
私の活動の主なフイールドは野川でした。約5万年前、古多摩川が、武蔵野台地を削ってできた崖(国分寺崖線)の湧水を集めて、野川は流れています。野川は国分寺市の日立中央研究所の庭園の大池に発し、小金井市、三鷹市、調布市、狛江市、世田谷区を流れて、多摩川に合流する長さ約20kmの都市河川(多摩川の支流であるので一級河川)です。野川の中流域では都立武蔵野公園と都立野川公園の中を流れていて、附近には、国際基督教大学や国立天文台などの大きな緑があり、都市部にありながら、まだまだ豊かな自然が多く残されています。
「みたか野川の会」の調査では、野川で見られた植物約340種のうち外来種数は41%にもなっていて、野川でも外来植物の侵入・定着が目立っています。 特に、特定外来生物に指定されている植物12種のうち、この付近では、4種(アレチウリ、オオフサモ、オオキンケイギク、オオカワヂシャ)が定着しており、要注意外来生物のオオブタクサが繁茂し、特に目立つアレチウリとオオブタクサの駆除は大変やっかいで、景観を損なっています。
「野川遺跡」が、野川の湧水広場の近くにあります。国際基督教大学の先生によって発掘され、旧石器時代の今から39000年~38000年前に旧石器人が野川に住んでいいたことがわかりました。今は埋め戻されていますので、だれも気がつく人はいません。国際基督教大学博物館・湯浅八郎記念館に出土品が展示されています。
野川では、いろいろな生きもの、特に、野鳥、植物や、人々との出会いがありました。ムジセッカ、ベニマシコ、オシドリ、シマアジにも会うことができした。カワセミ、ミクリやサワガニには、毎年会うことができます。ホタルは写真が取れませんがいます。他方、好ましくない外来の生きものも増えてきました。
11年前、羽沢小学校4年生の「環境学習」のお手伝いをしたときには一緒に外来植物のオオブタクサやアレチウリをぬきました。その生徒たちが作詞作曲して、「わたしたちの野川」の歌を学習の発表会で、みんなで歌ってくれました。私は大変感激しました。先生からカセットテープを頂いたので、スライドショウにしてみました。 you-tubeにもアップしました。
2 野川で繁茂するオオブタクサ
北アメリカ原産のオオブタクサは、草丈が3mにもなり、野川の困りものです。それが、(15年ほど前には、)野川にも大繁茂していました。
3 外来植物と取り組むみたか野川の会
2008年、市民大学総合コース(主任講師東京農工大名誉教授小倉紀雄先生の「身近な水と地球環境~コップ一杯の水から考える~」)の仲間と「みたか野川の会」 を作り、河川管理者の北多摩南部建設事務所に防除実施計画書を提出して、外来生物法に基づく防除を実施しました。そのことを証明する「従事者証」を頂き、2008年~2014年の間、外来植物の防除の活動を行いました。作業の結果出た除草ごみは、北多摩南部建設事務に回収をしていただきました。
4 15年前の野川 大沢の里の前 2007年9月17日
活動前の野川の様子です。一面オオブタクサでした。
5 8年前の野川 大沢の里の前 2014年8月9日
活動をして4年たつと、オオブタクサの芽生えの密度が減少してきました。土の中に生きている埋土種子が沢山あったようで、すぐには芽生えは減少しなかつたのですが、4年たつと、それがなくなってきたようです。
6 今年の野川 大沢の里の前 2022年8月22日
ここでは、今でも、オオブタクサは、ほとんど見当たりません。
駆除活動で、いったんは減少したのですが、活動をやめてから数年たつと、残念ながら、また、オオブタクサやアレチウリは、夏季に目立つようになってきました。
第2章 藤袴のこと
7 外来植物駆除活動で出会った「藤袴」
藤袴は、河原の湿った場所に自生していますが、その数は、近年減少しています。東京都では、葛飾区の水元さくら堤自然保護区域で自生しています。 2011年8月の環境講座「野川の外来植物について考える(全3回)」の1回目「野川のフィールドワーク」の際に、その藤袴が、野川に自生していることが確認されました。参加者が話し合って、藤袴の保全をすることにしました。環境講座の講師は、根本正之先生でした。その日は、野川流域から沢山の方が参加しました。
環境講座ポスター
野川のフイールドワーク報告書
8 藤袴 ①
9 藤袴 ②
藤袴は、キク科の植物です。河川の土手や草原に自生する多年草です。秋の七草の一つで、日本書記や万葉集や源氏物語にも出ており、古くから日本人に親しまれてきました。でも、通説では、中国原産で、古代に中国から渡来して、観賞用や薬草として栽培されていたと考えられています。日本の自生種は、それが逸出して、生き残った株由来と考えらます。また、自生種は、日本原産と考える説もあります。 またよく見かける園芸品種の藤袴は、草丈が低く、花色が濃いものですが、中国原産の別種由来か、交雑由来の園芸品種なのかは定かではありません。これを「コバノフジバカマ」と呼び、区別する説もあります。とにかく分類が難しい植物です9
藤袴は、地下茎が横に長くはって盛んに分岐し、その先で発芽し、茎を立てる。そのため群落しやすいといわれています。茎は1.5mほどの高さになり、葉は対生で、長さ10cmほどの長楕円形をしており、鋸歯があり、普通は深く3裂しています。花期は8~9月。頭花は、散房状に密につき、芳香(私にはよくわかりませんが?フエロモンのもとになるPA(ピロリジジンアルカイド)の香り)があり、一個の頭花は、5個ほどの管状花が集まったものです。総苞はわずかに紫色に染まっています。藤袴の名前は、頭花を上下逆にして、袴に見立てたことによる。
10 藤袴 ③
藤袴の種には、冠毛があり、風で飛ぶので扱いにくい。種は冬に蒔き、春に発芽させる。本葉が数枚出たら、ポットで育成する。その後植栽する。
11 藤袴 ④
藤袴は、関東地方以西から九州、朝鮮半島、中国、ベトナムにも分布しています。
藤袴に似たものにヒヨドリバナがあります。
中国では、古代は蘭、宋時代以降はラン科植物と区別するために、藤袴は蘭草、ラン科植物は蘭花と区別され、現代では佩蘭(簡体字では
佩兰、発音はpèi lán)といわれています。
日本では、藤袴の名前は、日本書記に蘭(あららぎ)で出てきます。 允恭(いんぎょう)天皇の皇后の幼かったころの話で「そこの蘭(あららぎ)を一茎呉れ」と 言われたとあります。
万葉集では、山上憶良の一首のみです。 「萩の花尾花葛花 なでしこの花女郎花 また藤袴朝貌(あさがお)の花」
源氏物語 藤袴の巻で、「蘭(らに)の花」とあります。
いずれも同じ藤袴のことです。
12 藤袴 ⑤
藤袴は、近年、自生地が減少して、環境省のレッドリスト(2020年版)では準絶滅危惧種(NT)です。NTとは、「現時点では絶滅危険度は小さいが、生息条件の変化によっては「絶滅危惧」に移行数する可能性のある種」です。
東京都のレッドデーターブック(2020年版)では、区部、西多摩、北多摩では、絶滅危惧ⅠA(CR)と指定されています。南多摩は、非分布です。なお、CRとは「近い将来においては野生では絶滅の危険性がきわめて高いもの」です。
13 野川の藤袴の保全管理
①野川を管理する北多摩南部建設事務所と協議して翌年の2012年から、藤袴の比較的よく残っている野川の法面の約100㎡(幅約4m弱x長さ約30m)をゾーニングして、都の草刈りをしないようにしました。その代わり市民が除草などの管理活動を行うことにしました。
②2012年秋には藤袴の草丈が約150cmに生育し、花が咲き、さっそく海を旅する蝶アサギマダラがやってきました。
③野川の藤袴の種から苗を育て、2014年から2017年までの間、毎年少しずつ苗を植栽して、増やしてきました。これまでに約50株を植栽しました。
④野川の藤袴の種から苗を育て、
大沢コミセンの花壇
三鷹市星と森と絵本の家の花壇
日立中央研究所の庭園
神代植物公園植物多様性センター
三鷹市自然保全地区(天文台下)
三鷹市大沢の里古民家などに苗を提供しました。
⑤東京都レッドリストへの情報提供
東京都の保護上主要な野生生物種情報記入
シートを提出しました。次回のレッドリスト改定の際に参考にされます。
⑥植物標本の作成
牧野標本館(@東京都立大学)へ標本を提出しました。誰でも見ることができ、長く保管されます。
14 京都での藤袴保全の取り組み
京都では自生種藤袴の保全活動が盛んで、京都市都市緑化協会が指導して、「藤袴三則」を作り、交雑を防ぎ、保全活動を行っています。大原野や水尾の大きな藤袴園や、京都市内での鉢植えの藤袴の保全活動が盛んです。もっぱら挿し枝で増やしています。
15 植栽した藤袴の様子
第3章 アサギマダラのこと
16 アサギマダラに会う
アサギマダラは、成虫が翅を広げると(前翅長(ぜんしちよう)は)5~6cmほどで、大型の蝶です。翅(はね)の内側は半透明の淡い水色(構造色)で、黒い翅脈が走る。翅の外側は前翅は黒、後翅は褐色で、ここも半透明の水色の斑点が並ぶ。構造色は、翅の表面の微細構造が関わっています。光の干渉で独特の色が出ます。
メスとオスとの区別は、尾に当たる部分に濃い褐色の班(はん)がある場合はオスで、メスにはありません。
マーキング調査によると海を渡り、1000~2000kmの長旅をする蝶も観察されています。日本本土から遠く沖縄諸島や台湾にも飛んで行きます。
日本本土では、春に北上し、秋に南下します。寿命は7か月ほどで、南下の際は、6月産卵、7月~8月に羽化(うか)し、8月下旬から南下します。藤袴の花に吸蜜にくるのは、ほとんどがオスで、オスがメスをひきつけるのに必要なフエロモンを作るのに必要なPA(ピロリジジンアルカイド)をとるためです。飛び方はゆったりと飛びます。
第4章 藤袴の香りのこと
17 令和の香りを楽しむ
「令和」の出典の万葉集の大伴旅人邸での 梅花の歌32首の序文には、「梅」の花と「蘭」 の香りが対比して出てきますが、この「蘭」は藤袴です。
(原文)
于時初春令月 氣淑風和
梅披鏡前之粉 蘭薫珮後之香
(読み下し文)
時に、初春の令月(れいげつ)にして、氣淑(よ)く風和(やわら)ぐ。梅は鏡前の粉(ふん)を披(ひら)く、蘭(らん)は珮後(はいご)の香(かう)を薫(くゆ)らす。
『折しも、新春の佳(よ)き月で、気は清く澄みわたり風はやわらかにそよいでいる。梅は佳人の鏡前の白粉(おしろい)のように咲いているし、蘭は貴人の飾り袋の香のように匂っている。』
(伊藤博氏の現代語訳)
18 藤袴 香料
藤袴は香料として、万葉の時代から、人々に親しまれてきました。身に着けたり、衣服にしみ込ませたりして藤袴の香りを漂わせていたのでしょう。桜餅の葉のような、クマリンの香りです。「令和」の香りとも言える香りです。
藤袴の香りを再現するには、野川に自生している藤袴の葉を乾燥し、粉にしました。それで、匂い袋をつくりました。
19 藤袴の匂い袋の作り方
匂い袋の作り方
野川の藤袴の葉を採取して、1ヶ月ほど乾燥したものを、すり鉢で粉にして、お茶パックに入れてました。そしてそれを巾着袋(ネット販売の既製品)に入れました。すこしめんどうなのは、すり鉢で粗く粉にするところぐらいです。今は、古いミキサーを使って粉にしています。ほのかな、いい香りがします。
20 植物多様性センターの展示
神代植物公園植物多様性センターの受付カウンターの隅に昨年秋から展示されている藤袴の匂い袋です。蜜閉性が良い容器に保管されているので、1年たつてもまだよく匂います。
21 友人からの反応
まちまちですが、いろいろな感想をいただきました。
高貴な香り
下着の引き出しに入れました。
とてもほのかな香りです。
懐かしいような香りがして、いい気分になりました。
封筒を開ける前から、芳香が漂っていました。
やさしい密やかな香りですね。
子どもと一緒に香りを楽しみました。
強くはありませんが、上品な香りがします。
ピアノの譜面台の横において癒されています。
さっそく箪笥で保管することにしました。
とてもいい香りですね。
優雅な気分です。
リラックスできる良い香りです。
匂い袋をいつもカバンに入れています。
奥ゆかしい香りがします
上品な香りがします。
よい香りです。大切にします。
上品で、優雅な香りで、それでいて落ち着きます。
高雅なしっかりした香りが漂っています。
心身洗われる美しい香り
懐かしい藤袴の香り
やさしい、穏やかな香りです。
気分が落ち着く、懐かしい香り、楽しませていただきます。
やさしい香りです。
まとめると
香りの質としては 上品 / 奥ゆかしい / 優雅 / 高雅
受ける気分では 落着つく / やさしい / リラックス / 懐かしい
さて皆様は、どう感じられたでしようか? 私は、人さまざまであると思います。
22 クマリン Coumarin について
芳香族化合物 分子式:C9H6O2
外観:無色または白色結晶、融点:71℃
アルコール、エーテル、揮発油などに可溶
土壌などに残留してアレロパシー(注)の性質を持つ。
これを含む葉や花を半乾きにしたり、粉砕するなどで、死んだ細胞の中で液胞内のクマリン酸配糖体と液胞外の酵素が接触し、加水分解が起こり、クマリン酸が分離、更に閉鎖反応が起こってクマリンが生成し、芳香を発するようになる。
食品添加物としては認められてない。
軽油識別剤として使用されている。
(wikipediaから引用)
注)アレロパシーとは、「ある植物が生産する化学物質によって、他の植物(微生物を含む)がなんらかの作用を受けること」です。