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No.1524 やかん1杯の幸せ
「水枕」と言うと、子供の頃に風邪をひくと氷を入れて枕として当てて貰った、あの茶色いゴム製品の水枕を思い出します。昭和30年~40年代のころ。
また、「水枕」というと、強い印象を与えられた次の句も思い出します。
「水枕ガバリと寒い海がある」
西東三鬼(1900年~1962年)
「高熱で寝込んでいる時に、頭を動かすと水枕が『ガバリ!』と重く暗い音を立てた。極寒の海がそこにある。」
詠まれたのは1935年(昭和10年)、三鬼が35歳の時だそうです。
国産初の水枕は、1903年(明治36年)~1904年(明治37年)に、兵庫県のラバー商会が、布にゴムのりを塗って、枕の形に張り合わせたものだったそうです。その20年後の1923年(大正12年)には、国産初のシームレス(継ぎ目がない)タイプの水枕が開発されたといいます。「水枕」は100年の歴史を有しています。
先日書いたコラム「ゆめたんぽ」(2月16日)を読んでくださった畏友が、水枕のような形状の「湯たんぽ」を与えてくれました。ドイツ生まれの「ファシー(Fashy)湯たんぽ」です。安全で柔らかいボトルと、カラフルでバリエーション豊かなデザインのカバーが人気だとか。地球環境の持続可能性を重視する「サステナブルな湯たんぽ」だそうです。
ファシー社は、1949年(昭和24年)に創業したドイツの会社で、機械部品を製造していたそうですが、1976年(昭和51年)に湯たんぽボトルの生産を開始したことをきっかけに、プラスチック製品に力を注いでいます。来年が湯たんぽ製造50年のようです。
ヨーロッパでの「湯たんぽ」(?)の登場は中世、16世紀のころだそうです。軽石などをストーブで温めて布団の中に入れたり、「ベッドウォーマー」という、温めたフライパンのようなものをベッドに入れたりして、布団を暖かくして寝たそうです。温めた砂を袋に詰めて湯たんぽ代わりにすることもあったようです。19世紀に入り、陶器製や金属製(主に銅製)のものが登場しましたが、一般人の手の届かない代物だったそうです。
現在、ファシー社の湯たんぽの最大の輸出相手国はイギリスだそうで、英国人の生活に密着しています。「Mrビーン」の小道具としても用いられたという記事を見つけましたが、迂闊にも見そびれていたようです。
堅実でつつましいイギリス人気質にもよるのでしょうが、やかん1杯のお湯で暖かく寝られるというのは、彼らの合理主義にマッチしているのでしょう。
形状が「水枕」に似ているだけでなく、素材が医療用途にも使われるという高級な塩化ビニール(PVC)の樹脂で柔らかいので、私に安眠をもたらしてくれる快適な品です。
「ファシー(Fashy)湯たんぽ」は、派手さや豪華さこそありませんが、奇抜な思い付きの「ファンシー(fancy)湯たんぽ」に思えます。やかん1杯の幸せです。畏友に感謝!
※画像は、クリエイター・高橋泉@ismさんの1葉です。「我が家は家族みんなでマイ湯たんぽ!」の説明に、ご家族の個性も思い浮かびます。色とりどりの賑やかなご家族でしょう。お礼申し上げます。