⑬ 脱北者と越北者 僕の元部下も!!

 今、韓国には約35000ほどの脱北者が住んでいます。命をかけて死線を乗り越え、山も超え、川も超え、ジャングルを抜け、谷をくぐり、やっと韓国までたどり着いています。これだけの遠い露呈ですから数ヶ月はかかります。定着後、韓国での生活もままならないですが渾身の力を発揮し定着に成功した人も少なくないです。脱北者の話を聞く度に年甲斐もなくついつい泣いてしまいます。中には無限競争にまみれ、耐えられず北朝鮮に戻った人も320名だったかな?それほどいます。

 実はあまり知られてないですが、自らの意思で北朝鮮に逃げていった人もいます。この人たちは主に軍人ですが将校もいれば兵士もいます。何とその中に僕の元部下もいます。

韓国が北に送るビラ;全員脱北した元軍人です。印をつけている兵士は今は韓国でユーチューバーとなっています。
北朝鮮からのビラです。印がついているのが僕の部隊の兵士です。ちなみにこのようなビラを持ち出してはいけません。なんでお宅は持っているの?と聞かないでほしいです^^

 
 印がついているのが僕の兵士ですが、何と上級兵士でした。訓練が厳しかったのかもしれませんが、上等兵が逃げるのは他には記憶にありません。僕の部隊も北朝鮮の軽歩兵部隊と同じ役割の部隊です。軽歩兵部隊とは野蛮な作戦部隊です。板門店で米軍将校二人を斧で殺したのもこの部隊ですし、いいにくいですが、何人かの日本人拉致に関わった部隊も北朝鮮の軽歩兵部隊だったとも聞いています。兵士が北朝鮮に逃げたから突然騒ぎとなりました。6時起床なのに、
秘書役の担当兵が5時50分に銃弾と手投げ弾、などを持って起こしに来てました。冬の寒い時期だったので、僕は時計を見て、普段は6時起床だから「まだ10分もあるじゃないか」と文句を言いました。「違います、出動です」というので、「どこに?なんで?」と言ったら「わかりません」というのです。兵士らの声は聞こえませんが、重い軍靴が集団で動いている音がしてました。なにかおかしいと思い、自分も完全武装して練兵場の方に向かっていきました。すると、何名かの幹部がいたので「何の騒ぎ?」と聞きましたら、「よくわかりませんがとにかく急いでいかなければいけません」というんです。その間トラックが頻繁に兵士を最戦線(非武装地帯)に運んでました。トラックに乗れなかった兵士はみんな列を組んであるいていきました。最戦線に兵士をおろしたら戻ってきて後半組を乗せるわけです。トラックにやっと乗って下士官に聞いたら、「越北者」が出たので「逮捕しなければなりません」と聞かされなぜか少し安心しました。目的がなにかはっきりしてきたからです。移動中の無線情報ではうちの兵士が地雷を踏んだらしく、死んでいるのか生きているのかもわからないということでした。

 現場についてたらすぐ部隊長から無線連絡が来て、僕に「獲りに行け」というのです。僕はまだ赴任してきて間もないときでしたが、この部隊に志願していっていたので、熱意があるとみなされたようです。

  というように、初任将校の僕に越北兵士を「探して片付ける」という命令がくだされました。非武装地帯に乾パン2袋と銃器、手榴弾などを持たせ、東西南北も知らない僕と、無セン兵と道案内役の下士官一人、計3人で捜索してました。北と南は最短で450メートルしか離れてない地域でした。霧が濃い夜明けだったし、まだ暗く、しかも大地が凍ていたので足跡を見つけることはほぼ不可能でした。そのうち、幸いといいますか雪が少し積もっているところがあったので行ってみると兵士が道に迷っていたのかアチラコチラへと伸びていました。「最低、小銃でも拾ってきて!」といわれ、北朝鮮領域30メートル地点まで入って調べましたが何も拾うことができませんでした。北朝鮮側を南から入るのは地雷誘導線が南方向だけが開いているので非常に危険ですし、朝日で霧も徐々に薄くなり始めました。部隊長から、南の方に下がるように指示され、また南の戻って待機していましたら、乾パンをもう一袋くれるではありませんか。すでに二袋もらっているのにもう一袋?つまり今日は一日の作戦になるぞ!という意味です。結局この兵士は当日には負傷して宣伝放送が流れませんでしたが1ヶ月後に肉声が聞こえてきました。なんと僕の名前を呼びながら「5分も走れば天国が待ってます。南の宣伝に騙されないで北に来なさい」というので、この放送が聞こえるときは実に妙な気分になりました。

 実は大学の1年先輩も北朝鮮に越北しています。日本経由で当時の万景峰号に乗って行ったのですが何と新婚まもない新妻を残して越北したのです。彼は自分は特別優秀だという自覚をなぜかとても強く持っている人でした。会うチャンスが有れば何で越北したのか聞いてみたいです。今は多分政治的な使い道もないだろうから政治犯収容所にいるか、外にいるとしても毎日飢えに苦しんでるのでしょう。アホですね。


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