見出し画像

男同士で、シラフで話す場が必要だ 〜モバプリ登壇「男性学」イベントレポ(潤)

去る10月20日、那覇市にある浮島ブルーイングにて「 #男性学から考える !男たち、こんな時どうしてる?」というトークイベントが行われた。

相棒のモバイルプリンスが登壇し、なおかつテーマも普段から沖映社でお喋りしていることと直結するとあって、これは行かないわけにはいかない。
ということで張り切って参加してきたので、毎度1,000字ピッタリという誰にもお願いされていないのに勝手に己に課している軛を解いて、好き放題レポを書くことにする。

会場はクラフトビールを醸造・販売しているビアパブで、広々としたスペースに長いテーブル、そしてステージ前にはイスが配置された。開始前からも開始時間を過ぎて暫し経ってからも来場者は増え続け、立ち見する人もいるほどの盛況ぶりだった。
制作をしている「ヨルべ」は沖縄県出身の映画監督、小説家、美術家、写真家などの表現者が中心となって、沖縄を拠点に文化的なイベントの企画・運営などを実施している団体で、沖映社2人にとっても顔馴染みの人たちが少なからずいるので、少しはアットホーム感がある。気がする。

登壇者したスピーカーは音楽・ジェンダー論・お笑い・映画・コミックなどポップカルチャー全般について執筆しているヒラギノ游ゴさん(現在「ヒラノ遊」に名前を移行中とのこと)、「シネマラボ突貫小僧」代表の平良竜次さん、そして我らがモバプリである。
イベントがスタートすると、挨拶もそこそこに早速ステージのスクリーンに以下のキーワードが並んだ。

ホモソーシャル
ミソジニー
トキシック・マスキュリニティ
インセル
バックラッシュ
ケア
ワイルディング
権力(権威)勾配
バウンダリー
ネオリベ

これらの言葉を巡って、スピーカーそれぞれが自身の分野で積み重ねてきた経験と知見とを交えたエピソードトークを披露しつつ、3人で対話していくスタイルでセッションは進行していく。
様々な場所でコンプライアンス監修やジェンダーについての講演の仕事をしていることもあって、基本的にヒラギノさんが用語解説や現在の日本国内のジェンダー認識の傾向などについて説明・注釈を的確な言葉で端的に話していた。

いずれもいわゆる現在の「男性優位社会」を可視化し、見直し、解体するための重要なワードなのだけれど、それぞれの言葉のそれぞれの意味についてはそれぞれで能動的に調べてほしい。

印象的だったのは、冒頭でヒラギノさんがカタカナだらけのこれらの語について「対応する日本語がまだ作られていない、原始の状態」と指摘したことだった。こうしたキーワードを知り始めて、見覚えのある/身に覚えのある様々な現象に言葉が与えられ始めた時、自分が「原始の状態」の海でもがいていた、あるいは息継ぎすら出来ていなかったかもしれないことに気づくこともあるはずだ。
きっとそれがスタートラインなのだけれど、しかし今の日本社会を見渡せばこのスタートラインを引くための地面の整地すら出来ていないように思えてしまう。

トークセッションの中では「権威勾配については“気をつけようがないという覚悟”をもつこと」「差別をする人たちの言動に悪意の有無は関係ない」「男性のケアは“イジり”としてアウトプットされてしまう日本的風潮がある」等等、パンチラインが次々と炸裂していく。
そのほかにも上記キーワードの中には含まれていなかった「自己有用感」についてモバプリが言及し、ファンダムの有害性について竜次さんが『スター・ウォーズ』を引き合いに出して話し、ヒロイックになってしまう男たちが謎に「守る」というワーディングをしちゃうよねと失笑し、様々な方向に話の枝葉が伸びていった。
(ちなみにファンダムについては沖映社でもお喋りしたこのドキュメンタリー映画👇をどうぞ。旧ジャニーズの問題とも直結する内容)

終盤、とあるやりとりの中でヒラギノさんが口にしていた「フェミニズムに対しては、敢えて“アライ”を表明する必要は無い。主体の属性によって立場は変わるけど、基本的に開かれているものだから」という言葉も印象に残った。

男性学的な視点に立って、それぞれのおすすめ映画・ドラマを勧めるコーナーもあり、個性が出ていて興味深かった。メモし損ねたので全部は書けないが、とりあえずモバプリは沖映社の取り扱い作品を発表していた(『夜明けのすべて』勧めてたな)。

まとめでは、これまでの議論や自身の経験と感覚を踏まえて竜次さんが「誰かが傷ついていることに無自覚な自分を知ることが大事」とコメント。次いで、ヒラギノさんとモバプリは「男同士でこの話をもっともっとしないといけない」と口を揃えたのだった。

ほぼほぼ2時間ブッ通しのトークが終わり、俺が抱いた感想は「毎週沖映社でやってるぅ!」だった笑。
もちろん、既視感だけで学びがなかったというわけではない。普段話していたことや考えていて、モヤモヤしていた部分の輪郭が明瞭になったり、身に覚えがあって背筋が伸びたような内容も少なくなかった。

とりわけ上述した「男同士で話をしなければならない」というのは、毎週モバプリと向かい合って図らずも実践している。と言っても、別に男性学とかを意識して始めたことではなくて、そもそも楽しいからやったことではあるのだけれど、酒を飲まずに男2人で延々社会のことについて話すというのは、実は世の男どもにはなかなか難しいらしい。
幸い、俺の周りにはコーヒーだけで平気で4〜5時間話ができる友人・知人は少なからずいるし、それをすることに全く抵抗は無い。ちなみにこの日しれっと参加していた沖映社の機材スポンサーでお馴染みの音楽家・川口大輔さんとも、いつも酒無しでも有りでもノンストップでひたすらお喋りしている笑。

そういった状況の中で今沖映社を続けていることは、男同士でシラフで話す場をこの世に1つ作り出しているということになるのだな、などと改めて感じたりもした。
ので、どうにかこの輪を健全な形で拡張していきたいし、そうすることはあの場に居合わせた男たちが意識的に旗を振って対峙した方がいい課題でもある。
(身近にシラフでお茶できる男友達なんかいねえよ!という人はとりあえず、以下の書籍👇など読みながら脳内会議など開催してみてはどうだろう)

とはいえ、イベント会場を見渡すと参加者は女性の方が多いのも事実。その状況が特段会場の雰囲気に大きな影響を与えているわけではなかったのだけれど、時折周りの反応に目を凝らして耳を澄ませてみれば、共感の頷きや笑いの起こるタイミング、唸る箇所が明らかに男女で違っていて、当たり前かもしれないけれど改めて目の前でそうしたビビッドなリアクションを見るのことはなかなかに興味深いものだった。
ちなみに俺の席の目の前に40〜50代くらいのご夫婦とみられる2人組がいて、男性の方はトーク中かなりの時間船を漕いでいた。……まだまだ道のりは長い。

ともあれ、総じてみれば内容はだいぶ「入門編」的なものだったのだけれど、この手のイベントはおそらくほとんど開催されてきていないと思うので、初回の内容としてはこれくらいのトーンが妥当だろう、と個人的には感じた。
もしかしたら物足りないと思った人もいたかもしれないのだが、冒頭でも記したようになにせ今はまだまだ“原始時代”なのだし、繰り返しになるがこうしたイベントに女性の方が多く参加するのが現状という体たらくなので、その塩梅を見誤ると事態はややこしいことになる可能性が高い。

断っておくけれど、決して志を低く持とうと言ってるわけではない。土壌すら整っていない今のような状況でハイコンテクストな話を次々に展開してしまうと、ついていくことを諦めて現状維持に落ち着く人や、ともすれば反動で真逆にいってしまう人も出てくるだろう。
あるいはちょっと勉強してイキりを発動してしまい、上述したキーワードのいずれかを複合的にあわせもったムーブをカマす人だって割といるし、これらのワードや概念をある程度分かった上でもなおミソジニックな振る舞いをしてまさしくトキシック・マスキュリニティを撒き散らす人だっているのだ。

極めてめんどくさいのだが、出来ればそんな細かなところまで目配せしつつ、地道に場を増やし、広げていかなければ、変われるものも変わらないのかもしれない。改めてそんなことを思った。

最後に、ヒラギノさんがオススメしていた男性性についての本のリンクを貼り付けておく。

この本はだいぶ前に買って積読にしてしまっていたので、積読タワーから引っ張り出して今現在読書中。男児をもつジャーナリストが1人称で生活感をにじませながら記す文章は読みやすいけれど、同時に色々な専門家に取材・リサーチした多角的な視点も織り交ぜられているのでかなりの読み応えもある。
ヒラギノさん曰く、この手のジャンルで本を選ぶ時には「弱者男性論」という言葉を使っているものはインセル的陰謀論よりの議論が展開されていることが多いので、避けた方が無難とのこと。

考えなければならないことは多いけれど、考え続けなければ自分の立っている場所を確認することも出来ないし、自分が他者をどう眼差しているのかも分からない。そして自分が何かを発した時に「誰かを踏みつけてしまっているかもしれない」という思考に及ぶこともできない。

本当に労力が要ることだし、日々の仕事や暮らしの中で考え続けるのは大変なことかもしれないのだけれど、疲れたら速度をゆるめてもいいし、立ち止まって休んでもいい。
でも、考え続けること・学び続けることはやめてはいけないと思う。それが文化的に生きるという意味で人間が人間たる所以で、このクソみたいな世界に無自覚に自分が加担してしまう状態を少しでも減らしていくことにもつながると考えている。

気づけばいつものコラム4本分の長文になってしまったので、ここらで筆を置く。

いいなと思ったら応援しよう!