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【DEATH DAYS】イヤホンで聴く映画。

皆様宜しくお願い致します、株式会社okidesign沖田純之介と申します。1995年に映像音楽業界入りし、サウンドデザインを担当させて頂いております。自己紹介や経歴は以下をご覧くださいませ。


長久允監督の作品「DEATH DAYS」のサウンドデザインを担当させて頂きました。この場合のサウンドデザインは、録音部からのセリフと、音楽チームからの音楽、弊社作成の効果音を「映像に合わせてより楽しい物にする」というミッションです。特報が以下にございますのでご覧ください。

楽しい特報ですよね、しかしどうでしょうか、音が普通と違った印象がございませんか?お気づきの方はイヤホンがヘッドホンで視聴された方でしょう。そう、イヤホンかヘッドホンで聞くと、森田剛さんの動きに合わせて音楽の位置が移動するようになってます、しかも左右だけではなく、奥や手前も感じられると思います。

これはバイノーラルという技術を使ったもので、イヤホンで聞いても、上下左右前後が感じられるというものです。ASMRやApple空間オーディオもこの手法を取り入れてますので、ご存知の方も多いと思います。

バイノーラルとはステレオ録音方式の一つで、人間の頭部や、その音響効果を再現するダミー・ヘッドやシミュレータなどを利用して、鼓膜に届く状態で音を記録することで、ステレオ・ヘッドフォンやステレオ・イヤフォン等で聴取すると、あたかもその場に居合わせたかのような臨場感を再現できる、という方式である。

ウィキペディアより

しかし「DEATH DAYS」は普通のバイノーラルではありません。バイノーラルとステレオの混合作品になっており、耳の外に聞こえる音から脳内定位するまでを演出で使っております。通常のバイノーラル作品はイヤホンで聞かないと効果が得られませんが、混合作品にする事により、スピーカーでも普通に楽しめるようになっております。今作はYouTube一般公開なので、より多くの皆様が楽しめる方法を模索しました。

ここから下は少々マニアックな内容です。お時間ある方は是非お読みくださいませ!

とあるシーンのフォーリー録音

このバイノーラル、実は昔からある技術でして、自分が業界に入った頃にはこの手法で作られた効果音CDが沢山ありました。しかしバイノーラルはイヤホンかヘッドホンで視聴しないと適切な効果が得られません。「テレビや映画はスピーカーで聴く物」という常識がありましたので、映像業界では殆ど浸透しませんでした。

今作で使用したイヤホンとヘッドホン

ところが、iPhoneやiPadの登場により、映像視聴方法に変化が訪れます。
リビングにあるテレビで家族皆で映像を見るような事は減り、個人それぞれの環境で映像を見るというスタイルに変わっていきます。
特に日本では個人環境が狭いのもあり、イヤホンかヘッドホンで聴くという環境が育ちました。さらにコロナ禍でこのような個人視聴が一気に増えました。
自分はスタジオやホームシアターを持っており、移動も車なのでスピーカーで音を聴く事が多いのですが、長久監督の「FM999」をお手伝いさせて頂いた時に、「今はイヤホンで聴く人が多いので、それでも楽しめるものにしたい」と監督から指示を頂き、ほぼ同時期に別案件でも「イヤホンで聴けるものを、、」というオーダーが来まして、「世の中はイヤホンで聴く物を探してるのか」と気づけました。

FM999 999WOMEN'S SONGS

そこでイヤホンやヘッドホンで聴く映画や作品をリサーチしまして、何が楽しく何がベストなのかを考えました。
普通のステレオ作品では表現の幅が狭まりますし世の中に溢れてます。YouTubeなどでダミーヘッドマイクを使ったASMRバイノーラルが一部流行しておりますが、この録音方法は映画では使う事が難しいです。またVRなど360度の作品では、臨場感が大切なのでイヤホン試聴のバイノーラルにするのは理解できますが、今作は画面は前のみ。しかも多くの方がスマホ試聴と予測すると、かなり小さい画面になり、視聴者はスマホに付属されたイヤホンで聴く方が多いだろうと予測します。

そこで、今作をバイノーラルとステレオ混合にしたら、楽しめる方が増えるのではないか。と考えました。
バイノーラルは耳の外側、頭の後ろ側の表現が一般的に感じやすく、ステレオだと耳の内側左右で脳内に定位します。混合作品にする事により、耳の外側に定位する音から脳内に定位する音までが演出で使える事になります。

MAGNETICA studio 3DX

このバイノーラルとステレオ混合ミックスを作るにあたり、用意したプラグインは、MAGNETICA studio社の「3DX」。バイノーラルプラグインは長らく「Panorama 6」を使っておりましたが乗り換えました。
モニターとして使用したヘッドホンは、AKG k371。バランス確認でアップルEarPodsマスターチェックとしてHPH-MT8。の3機種です。

このプラグインを使い、イヤホンの外側の音と、前後の奥行きを調整していきます。さらにステレオやモノラルの音も混在するので、調整内容は以下のような形になりました。

森田さんのモノローグは最も大切なので、モノラルで脳内センターに定位。
台詞は映像が付随して認知力が上がるので、映画館で聴くような部屋の響を加えバイノーラル前方の定位。
テーマソングは細かい調整を経ているので、通常ステレオで脳内定位。
BGMは5.1chにアップコンバートし、映像にあわせて上下左右前後に動くバイノーラル定位。
効果音はバイノーラルとステレオを混在させて3D空間を作成。

このような構成になっており、イヤホンで聞くと映画館のような臨場感を得られながら、スピーカーで聞いても楽しめるという音作りにしました。

1話目の冒頭、耳の認知感度を上げる為に、耳の外側に大きく動く音を用意しました。「10.9.8.7、、、」のセリフで、イヤホンの外側左右に音が移動するのがわかると思います。「あ、普通のステレオではない」とここから作品に突入して楽しんで頂けると嬉しく思います。

2話目の中盤、石橋静河さんが寝ながら喋るシーンがありますが、ここは脳内定位をさせたいのでモノラルです。この前までがバイノーラルなので、モノラルが頭に響く様な音に感じられたハズです。

最終話の「やっと死ねる」の後では、音楽が上下左右で回転してます。これはメリーに合わせて動かしており、意識が遠くなる幻聴というイメージです。

使ったチャンネルは画面に収まらない程

サウンドデザインで注意したポイントとして、出演者の演技は当然ながら、シナリオから読みとって制作されたカメラワークとライティングから、音のイメージを多く頂けました。さらに映像や音楽だけでは表現しきれない心情などの部分を効果音で多少補い、観る方の意識が外れない事も注意し、監督と出演者、各パートのメッセージを深く読み取り、分かり安く伝える音の作りにしました。
是非いろいろなイヤホンやヘッドホン、スピーカー等で聞いて頂き、長久監督作品にどっぷり浸かってください。この作品が必要な方に届くと嬉しいです。YouTubeで無料アーカイブされてますので、いつでも観に行けますよ。

最後に、このようなチャレンジの場を作って頂いた、長久允監督と企画MOSS様に感謝でございます!


短編映画『DEATH DAYS』 29日 24時(30日0時)から3夜連続公開。

短編映画 『DEATH DAYS』 (デスデイズ) 自分が死んでしまう日「デスデイ」を、 生まれたときから皆知っている世界。
この物語は、その世界で生きる とある男の人生を描いたものである。
Short film ” DEATH DAYS “ This is the story of one man’s life, set in a world where everybody knows the day they will die: their “DEATH DAY”.

<公開日>
【第1話】2021年12月29日24:00~
【第2話】2021年12月30日24:00~
【最終話】2021年12月31日24:00~(元旦
0:00〜)
※配信後、同チャンネルにてアーカイブされます

<MOSS公式 YouTubeチャンネル> https://www.youtube.com/channel/UCIzS...

<キャスト>
森田剛  前原滉・佐藤緋美・まもる。(もも)・せめる。(もも) 小沢まゆ・カトウシンスケ・渡辺陽万・吉村心・のえ・小坂井徹・野上信子 街裏ぴんく・根本隆彦・うらじぬの 石橋静河

<スタッフ>
企画・製作:MOSS
監督・脚本:
長久允
プロデューサー:MOSS・鈴木康生・兼平真樹
撮影:
武田浩明
照明:
前島祐樹
サウンドデザイン:
沖田純之介
美術:Enzo・後藤レイコ
装飾:安藤千穂
キャスティング:元川益暢
スタイリスト:小山田孝司
ヘアメイク:古久保英人
助監督:古田智大
録音:小林武史
音楽:山田勝也・小嶋翔太
編集:曽根俊一
カラリスト:根本恒
アートワーク:
間野麗
制作プロダクション:株式会社ギークピクチュアズ・株式会社ゴーストイッチ
宣伝:株式会社ゴーストイッチ

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