【朗読】森の賢者
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【概要】
あらすじ
お城のお庭に住まう 森の賢者と呼ばれるフクロウと、フクロウに弟子入りする黒猫のお話。
ファンタジックな、童話風の朗読台本です。
情報
朗読台本
性別不問 一人向け(複数人による分担可)
上演時間 約10分
【本文】
大きなお城の素敵なお庭の片隅に、一羽のフクロウが住っておりました。
王様のご命令でお城へと連れられてきたこのフクロウは、とても広々と過ごしやすい住まいを与えられ、大事に大事に扱われておりました。ただ、そこは大きな鳥かごのようになっていて、お庭から出る自由はありませんでした。
このフクロウが、王様に特別大切にされるのには、もちろん理由があります。
彼は、森の賢者でした。人の言葉を話し、魔法を使い、未来を占うことができるのです。
王様はことあるごとに森の賢者をたずね、助言をもらったり、魔法の力を借ります。
ただそれは、森の叡智を独り占めしているとも言えました。
ある夜、黒猫が賢者を訪ねてきました。
黒猫は鳥かごの外からこっそりと呼びかけました。
「賢者様、賢者様、ようやくお会いすることができました」
「やあ、黒猫さん。お待ちしておりましたよ」
「おかしなことをおっしゃいます。お約束などしていませんのに」
「これは失礼を。ご用件はなんでしょうか?」
「弟子入りのお願いに参りました! 立派な魔法使いになりたいのです」
黒猫は、しゃんと背筋を伸ばしました。
「森の賢者様に弟子入りしたいと 遠路はるばる森を訪ねましたのに、聞けばお城に仕えているというではありませんか。そこで、衛兵の目を盗んでこのお庭まで忍び込んできた次第です」
「なるほど。なるほど。
しかし、弟子入りは大歓迎なんですけれどねぇ。ご覧の通り、私は今、人間の王に仕える身。あまり自由がきかないのです」
「それで構いませんとも!」
「では、またこの時間に訪ねていらっしゃい」
黒猫は言われた通り、毎夜 賢者を訪ねました。
そして賢者は、知恵や技術を少しずつ、教え授けました。
「今夜は雨が降りそうですね」
賢者が空を見ながら言いました。
「ええ。わたしはあまり好きではありません」
黒猫は首をふりふり、身震いをしました。
「そうでしょうね。けれど、水は魔法とは切り離せませんから、あまり嫌わないでくださいね」
「わかっております」
黒猫はこっそりとため息をつきます。
賢者はその様子にふふと笑い、そして言いました。
「雨が降り始めると、考えることがたくさんあります。
それは洗濯物のこと
それは潤う土のこと
それはふるやのもりのこと
雨の日は、晴れの日よりも頭が忙しい。
私たち鳥や獣もですが、特に人間様はあれやこれやと考えて、そして私のところに来る。
雨が降るのか降らないのか、降るならば止ませることはできないのか、晴れているなら降らせることはできないのか。
天の気分など、地上に住まう者がどうにかできるものではないのにね」
「空を舞うことができる、先生でもですか?」
「ひとたび翼を休めれば、空に留まってはいられません。私も、地に縛られているモノの一つですよ」
賢者は、何か考え込むようにふと口をつぐみ、黒猫は次の言葉を待ちました。
「さて……君にも出来ることが増えてきました。お使いをお願いしましょう。
『降り始めの雨しずく』と、『百年乾いた赤土』と、『山にかかる雲の切れはし』を採ってきてください」
「それは、私ではとても時間がかかってしまいます。ここの人間に頼めばきっと、私よりもよっぽど早く、たくさん持ってきてくれるように思いますけれど」
「あなたは立派な魔法使いになりたいのでしょう? ならば、その修行の一つと思いなさい。時間はどんなにかかっても構いませんから。
──それから、このお使いはひっそりと。人間様には気取られないようにね」
「いったい、何に使うものですか?」
「天の気分を、どうにかしようとする魔法です」
黒猫は、頼まれた魔法の材料を集める旅に出ました。
その旅はとても難しく、時に過酷なものでした。
それでも黒猫は、賢者の教えを活かしながら、ついには三つの材料を手に入れました。
いつも訪ねていた時間にお庭に行くと、賢者は嬉しそうに黒猫を迎えました。
「あなたならやり遂げてくれると信じていました。
それでは今すぐにここを出て、森にお戻りなさい。そして、なるべく丘や山になっている場所に向かいなさい」
「せっかく苦労して持ってきたというのに、なぜ追い返すようなことをおっしゃるのですか」
「好機は少ない。今はともかく、言うことを聞いてください」
黒猫はしぶしぶと、お庭を後にしました。
「雨の降り始めは考えることがたくさんある。
それは洗濯物のこと
それは潤う土のこと
それはふるやのもりのこと
雨の日は、晴れの日よりも頭も体も忙しい。
さあ、今夜は雨が降ることでしょう。それはここ百年は見たこともない大雨です。
降りだしてしまう前に備えるがよろしいでしょう。
大事な大事な王様のフクロウのことも、どうぞお忘れなく。溺れる前に乾いた部屋へ」
黒猫は、言いつけの通り、森の中の丘に登りました。
そのうち、ポツリと、鼻先に何かが当たりました。雨粒です。
今夜は雨が降る気配はなかったのに と思いながら、ポツポツからどんどんと数を増やしていく雨粒から逃げるように、黒猫は葉の茂る大樹にのぼり、枝の根元の うろに潜りこみます。
雨は、あっという間に滝のような勢いになりました。斜面にはまるでいくつもの川ができたように、水が流れていきます。
黒猫は不安に眠れぬ夜を、うろの中で過ごすこととなりました。
そして、夜があけると途端に、不思議と雨は からりとやみました。
黒猫がようやくウトウトとしはじめたころに、すぐ耳もとにホウホウと 優しい鳴き声が聞こえました。
「やあやあ、君のおかげで万事うまくいきました。森の賢者が、森に戻ってきましたよ」
大樹の枝に止まったフクロウは、高らかに言いました。
おしまい
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