【短編小説/朗読】 おまじない❤️レシピ
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【概要】
あらすじ
もうすぐバレンタイン。
今、巷では「恋が叶うおまじない❤️レシピ」が話題になっていた。
私は本命もいないから作らないけど、高校のクラスメイトには挑戦する人もいるみたい。
SNSでもかなり話題になっているけれど、バレンタイン当日のレシピを使った報告が、何かおかしい。
「恐怖」「チョコレート」「告白」がお題の三題噺です。
表紙はこちらのフリー画像を加工しました→ https://pixabay.com/ja/
情報
朗読、一人読み用台本
性別不問
上演時間 約20分
【本文】
バレンタインデーの一週間前。
コンビニには目立つところにラッピングされたチョコレートが並び、百円ショップには製菓材料がどんと置いてある。
私も女子高生らしく、もちろんこのイベントに参加する。世間の空気や友達の同調圧力やお菓子業界の戦略にノッて、踊ってやるのだ。
クラスメイトと手作りの友チョコを交換する約束があるけど、残念ながらと言うべきなのか、特に本命のチョコをあげて告白でもしちゃおうかと思える男子は、いない。
さあ、今年はどんなお菓子をつくろうか。
クラスメイトの女の子たちで構成されているラインのグループチャットも、最近はバレンタインの話題が多い。
『これ、知ってる? 今SNSでバズってるチョコのレシピ』
ピロンというメッセージの着信音と共に、レシピと完成品の写真が一緒に載った画像が送られてきた。
『知ってる、知ってる! ウチも見た! 恋が叶うおまじないのレシピでしょ?』
『うん』
『有名な占い師が公開したっていう?』
『占い師だっけ?』
『その人がヨーロッパ旅行? 修行? で教えてもらったんじゃなかったけ?』
『それよりさ、今年のバレンタイン日曜じゃん?』
『ごめーん! 誰か課題やった人〜!!』
『われがやっていると思うか?』
話が逸れていきそうだったので、流れてくるメッセージを読むのはさておいて、そのレシピとやらを検索してみることにした。
おまじない、かぁ。消しゴムに好きな人の名前を書いて、その人に拾ってもらうと両思い、とか、枕の下に写真を入れて寝るとその人の夢が見れる、とか、小学生の時に流行ったっけ。
私ももれなくやったし、当時は結果にどきどきなんかもしたけど、高校生にもなっておまじない、なんてねぇ。
とはいえ、バズっているとなるとちょっと気になる。眉唾だっていいじゃない。信じるものは救われる。
私は久しぶりにツイッターを開いた。
《今年は恋するおまじないレシピでチョコつくるわ》
《元画像どこ。続きあるっぽいけど見つからん》
《この先は有料みたいなとこにあるらしいけど》
《無料分で問題なくチョコ作れる》
《作る! って決意の呟きしかみつからねぇ》
《恋が叶う♥️おまじないレシピ♥️
彼の心を奪う♥️チョコ
彼の胃袋わしづかみ♥️チョコ
ほっぺたが落ちちゃう♥️チョコ
作り方はリプにつなげるよー》
《レシピ見たけど、超普通じゃん。おいしそうだからつくるけど。おまじない要素は皆無じゃない?》
《作りながら萌え萌えきゅん♥️て愛情いれとくわ(真顔)》
ちょっと検索したくらいじゃ、なんの情報にも行き当たらない。
本命いる子はこれに挑戦したりするのかな? 普通に美味しそうだし、友チョコ、これでいいか。
あーでもそうすると、他の人とカブっちゃう?
インスタも覗いてみる。
バズっているというくらいだから、さぞ作ってみた画像がたくさんあるだろうと思いきや、そうでもない。ただ、レシピや注意書きが書かれた画像は沢山みかけた。
注意書きにはこう書かれていた。
【これは特別なレシピです。なので、このレシピを扱うときは必ずルールを守らなければなりません。守らないと大変なことになりますよ❤️
・本命以外にあげたらいけません
・このレシピでチョコを作ったことは絶対に人に明かしてはいけません
・味見をしてはいけません
・チョコをあげる時、ちゃんと告白をすること
・製作に取り掛かるまえに、身体を清めること
・チョコを作る道具には新品のものを使うこと
・使った道具や残った材料は白い紙に包み、感謝の言葉を述べながら破棄すること
・疑いの気持ちをもたないこと】
なんだか物々しいし、面倒くさそう。作っていることは絶対に秘密、だから“作ってみた画像”を見かけないのかもしれない。まあ、まだ本番一週間前だけど。
信じているわけじゃないけど、友チョコにこのおまじないレシピを使うことはためらわれて、結局他のレシピを使うことに決めた。これでなくても、簡単で美味しそうなレシピはネット上にいっぱい無料で転がっている。
クラスのグループラインにメッセージが入った。ピロンという音とともに、今私が見たのと同じ画像が表示された。
『なんか、注意書きがいっぱいでめんどくさそう』
『ほんとだー。ていうか、マジで作るならここで宣言してちゃダメっぽいね』
『じゃ、とりあえず作らないってことにしとく』
『うん、作る人誰もいないってことで。表向きは(笑)』
『えー、ウチは作るよ? だって絶対、告白成功させたいもん』
『ちょ! ちゃんと読んだ? バカなの?』
『てゆかあたしはおまじないとか信じてないし、ふつーにこれ美味しそうだから作るよ。簡単なのもあるし』
結局、ちょっと盛り上がったこのおまじないレシピを使う人は、いるのかいないのか。注意書きに従ってみんな秘密ねって感じにはなったけど、やった人がいるなら、効いたかどうかは後で聞きたいな。効くなら、本命ができたときにちょっと使ってみたいし。
そして迎えたバレンタイン前日の土曜日。本命手作り勢の勝負の日だ。
SNSを見ると、手作り勢たちはぞくぞくと行動を開始しているようだった。ラインにも、『今から作るぞ!』と決意のメッセージがいくつも届いている。
私は友チョコを作るだけで月曜日に間に合えばいいから、明日取り掛かる予定だ。
ベッドでゴロゴロしながら、ツイッターでおまじないレシピを検索してみた。ルールを無視したり知らなかったりする人が、作った報告してないかな? と、興味本位だ。
《彼の心を奪う❤️おまじないレシピでつくったよ!》
《おまじないレシピは本物! やばい! 明日は予定あるから今日チョコあげたんだけど、ちゃんとあの通りにやったら、絶対無理だと思ってたイケメン、ゲットできたよ! しかも今カノと別れて! 効果やばすぎる》
《これからあのレシピでチョコ作ります》
こんな文章とともに、美味しそうなチョコレート菓子の写真が、いくつも検索にひっかかった。なんだ、注意事項を無視する人結構多いんだ、なんて思いながら、するすると画面に指をすべらせて投稿を眺める。
──けれど、日曜日。バレンタイン当日になると、投稿の様相が少し変わった。
《おまじないレシピ絶対作っちゃダメ》
《味見しちゃった、どうしよう》
《え……これ、チョコのせい?》
《友達がおまじないレシピでチョコ作ったらしいんだけど、ちょっと信じられないことが起こった》
何? 何かあったの?
正直、野次馬根性だ。何かあったなら面白い、何か起こってたら明日の話題には事欠かない。そんな好奇心で不穏な投稿を中心に、読んでいった。
《あのレシピで作ったってチョコ、もらったんだが、その後彼女と連絡がつかない》
《告白までは無理だったけど、片想いの人にあのレシピのチョコあげた。恋が叶うなんて絶対嘘だよ。彼がお腹痛くなって救急車で運ばれた。私のチョコのせいみたいんじゃん。絶対嫌われた》
《このアカウント主の姉です。代理で書きこんでいます。弟は突然の心不全で緊急入院しています。原因不明で意識が戻るかもわかりません。心当たりもありません。バレンタインにいただいたチョコを食べていた時に急に倒れました。こういう状態なので、弟が主催するイベントは中止させていただきます》
《彼女に毒盛られた疑惑。チョコ食べたら顔がただれた。今皮膚科》
うそだぁ。ネタでしょ? ネタだよね?
怖くなってテレビをつけてみた。本当にこんなこと──チョコを作ったり食べたりした人に何かが起こっているなら、ニュースになっていてもおかしくない。けれど日曜日の昼間なんて再放送のドラマとかバラエティしかやってない。ニュース速報みたいなものも特に出てこなかった。
ピロンと、ラインの通知音が鳴った。
『ねえ。あれ、作ってる人いる?』
なんで聞いちゃうかな。誰かがうっかり答えちゃったら注意事項破っちゃうことになるじゃん!
『つか、既読少なくない? みんな見てないの?』
『今いない子たちは、ちょうどチョコ持ってって告ってるんじゃなぁい?』
『私はあのレシピじゃないよ、結局』
『ウチ、今から渡してくるよ! あ、これって作ったこと教えることにカウントされる?』
『何も言わないのが正解だったかもねー。ツイッターとかインスタとかやばくない?』
『なに、なんかヤバいの?』
『この話題、しないほうがいいレベル』
『えー! 超気になるんですけどww』
『見たけど、あんなん何とも言えなくない? レシピのせいって決まってないし。信じてないし。あたし、作ったけどなんともないよ』
『ちょ。言ってんじゃん』
『これ、お呪いじゃなくて呪いだったんじゃないの……』
クラスのグループラインはこのあとぷつりと沈黙した。
作ったことを言えば自分か相手に呪いが降りかかるかもしれないからなのか。それとも、連絡ができないような状況になってしまったのか……。
気味が悪くて、この不気味を共有したくて、誰かに電話してみようかとも思ったけれど、それが注意事項を破ることにつながったらと思うと、できなかった。
何か情報を得ていないと不安になってきてツイッターを見ると、さっき見たような投稿がどんどん増えている。それに憶測が加わったり、おまじないレシピに関連すると思われる投稿をまとめる人も出始めた。
もはや怖いもの見たさ。都市伝説でも目の当たりにしている気がした。
《手作りチョコゲット! でも、これ、あのレシピじゃないよな? 食べて大丈夫?》
《やばいことが起こった。職場で義理チョコ配られたんだけど、食べたやつら、みんな胸おさえて苦しそうに倒れた。あのレシピ使ったらしい。俺はツイッターで見てたから、手作りって聞いて一応食べなかったから助かった》
《皮膚科にきたら、なんかすっごい顔がただれた人がいっぱいいて引くレベルだったんだけど、なにか近くで事故でもあったのかな》
《あのレシピ、出来上がったの味見してから胃がヤバい。死ぬかも》
他にもたくさん、まとめを見れば“あのレシピ”が関係してそうな投稿がいくらでも見れた。
自分は手を出さなくて良かったと胸を撫で下ろしつつ、テレビやSNSをずっとチェックしてしまったので、夕方外が暗くなり始めてから、慌てて友チョコ作りを始めた。夕飯を作りたいお母さんに、台所を占拠していることを怒られながら……。
月曜日の朝。今度こそ世の中大騒ぎになっているかもしれないと、テレビをつけて見た。
SNSでは、レシピの呪いの被害者がいたように見えたけど、ニュースでは誰かがチョコを食べて死んだとか、たくさんの人が救急車で運ばれたとか、そんな話題はなかった。
すごく多く見えていたけれど、ニュースになるほどの人数ではなかったってこと?
今はどうなっているだろうと、ツイッターやインスタを開いてみる。おまじないをした人が口を閉ざしたからなのか、口が閉ざされたからなのか、SNSですら話題は沈静化していた。
結局、おまじないのレシピは約束さえ守れば本当に恋が叶う効果があるものだったのだろうか。約束を破った時の呪いの矛先は、チョコを作った人なのかチョコをもらう人なのか、どっちだったんだろうか。なにもかも、よくわからない。
きっと、学校に行ったら少しははっきりするだろう。あのレシピを使ったと言ってる友達もいる。
そして、実際にはなぁんにも起こってなくて、昨日の告白の成果や今日の友チョコ交換がはじまるはず。全員揃って「おまじないレシピ効いた?」なんて、笑って話すんだ。
──話せるよね?
end