9.三題噺「正面、鋼の心、ハングリー精神」
「後輩くんは何食べる?」
正面に座る先輩がメニューを差し出してきた。
「先輩はどうするんですか?」
「私はドリアにしようかな」
「僕はドリンクバーだけで大丈夫です」
「セットで頼めばお得みたいだよ」
「単品でいいです。先輩と違って年中お腹すいてるわけじゃないんで」
「失礼だなあ。私は食べ物に対してハングリー精神旺盛なだけだよ」
「そうですか」
……先輩のはただのハングリーなだけだと思う。
口にしてないのに顔に出てるよと先輩に睨まれてしまった。
怖くはないけど気をつけよう。
僕が食いしん坊だと思っていても気にした風もなく、先輩は堂々とドリアを頼んだ。
あとついでと言ってサラダとサイドメニューのポテトとデザートまで頼んだ。
間違いなく鋼の心の持ち主だ。
「この後夕飯ですよね?」
「もちろん」
当然でしょ? と頬張りながら先輩は言った。
「食べれるんですか?」
先輩はきょとんと首を傾げた、まるで何を言ってるんだい? と言いたげだ。
「後輩くんは何を言ってるんだい?」
先輩はゆっくり味わいながら咀嚼して、予想通りのことを言った。
「これは別腹だよ」
この人は心だけでなく胃まで鋼でできてるんじゃないだろうか。
「おいひぃ〜」
と幸せそうだから水を差すことはしないけどさ。
本当に美味しそうに食べるなあ。
この先輩は見ていて飽きない。
僕のお腹が小さく鳴った。
……何か食べようかな。
帰宅して後悔した。
先輩があまりにも美味しそうに食べるものだから僕もちょっとだけ……。と思ったのが悪かったんだ。
一つ口にしたら男子高校生の欲望なんて正直なもので次々と手が出てしまった。
そして、案の定夕飯は入らない。
先輩がおかしいんだ。あれだけ食べて夕飯が入るなんてさ。
僕が苦しそうにしていると妹が「大丈夫? お兄ちゃん」と顔を覗き込んできた。
「お前はドリンクバーだけにしとけよ。いつか後悔するからさ」
「何言ってるの?」
「……いや、気にしないでくれ」
妹は「おかしなお兄ちゃん」と言いながら部屋へ帰って行った。
その手にはスナック菓子とアイスがある。
女の子の別腹ってすごい。そう思った一日だった。
作者です。
三題噺を書きました。
題目の選定は以下のサイトを使用させていただきました。
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