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マクロ経済学分析で手取りの増加は実質GDPを2倍以上増加させることを示す

はじめに

 2024年秋の衆議院選挙で国民民主党が公約に掲げた103万円から178万円への年収の壁(基礎控除+給与所得控除)の引き上げを巡って、与党自民・公明との攻防が続いていますが、2025年度の通常国会に提出した予算案では123万円に留まっており、国民からの反発が高まっています。
 その論点の一つとして、控除額を引き上げ手取りを増やした場合、国民主党はさらなるGDPの成長によって税収増にもつながると主張する一方、与党や財務省は否定的です。
 そこで、内閣府が公表している実質GDPに関するデータをマクロ経済学を使って分析し、国民の手取りを増やし消費を喚起することで、本当にGDPが成長するのか?について検証したいと思います。


検証方法

今回の検証は以下の条件で行いました。
(1)1994.1.1~2024.9の実質GDP(2015暦年連鎖価格調整済み。内閣府データ)が対象。
(2)国内所得を対象とし、海外投資は対象外とする。
(3)手取りの増加が民間消費の増加に繋がる。
変数の定義は図の通りです。

Fig.1 : GDPの定義

 つまり、GDPは民間消費C、政府消費G、投資I(民間+政府)、輸出Xの合計から輸入IMを差し引いた値と一致します。実際にそうなのか?データで見てみましょう。

Fig.2 : GDPの推移

 1994年の当初はGDPとC+G+I+X-IMはややずれていますが、段々とずれは解消し、2004年以降はほぼ一致していますね。
 また、政府消費Gは年々増加傾向にあるものの、投資Iは2009年あたりに落ち込みその後も低迷しています。
 GDPとC+G+I+X-IMは相関のグラフで見てもほぼ一致している傾向が見られます。

Fig.3 : GDPとC+G+I+X-IMの相関

GDPと消費の関係

GDPは国民所得Yと一致します。
さらに、国民所得Yから国民消費Cと政府消費(税収)Gが賄われるので、
YとC、YとGの間には一定の関係があると考えられます。

Fig.4 : GDPとYとCとGの関係

では、実際にそうなのか?データで見てみましょう。

Fig.5 : GDPとC, G, Iの関係

GDPとC、GDPとGには線形の関係が良く見られますね。
一方で、GDPとIにはあまり相関がありません。

乗数効果

 つまり、GDPはCやGで表され、逆にCやGはGDPで表される、という関係になります。これは、誰かが消費した金銭が、誰かの所得になる、ということを意味します。
 例えば、自動車メーカーに勤めるサラリーマンが、スーパーで買い物をすると、スーパーの店員の給料となり、スーパーの店員は自動車を買い、自動車メーカーが社員に給与を支払う、というような循環です。
 すると、そのように経済が回っていくことで、いずれどこかのGDPに落ち着く均衡が存在すると考えることが出来ます。
 その均衡条件では、GDPは次のように表せます。

Fig.6 : GDPの均衡条件と乗数

 つまり、GDPは民間消費(所得非依存)a0、政府消費(所得非依存)b0、投資I、輸出Xの合計から輸入IMを差し引いた値に乗数Kを乗じた値で均衡します。
 乗数Kは民間消費係数(所得依存)a1と政府消費係数(所得依存)b1の式として表せます。

Fig.7 : 乗数

ここで、先ほど求めたYとC、YとGの間の関係式を時変の係数に変更します。

Fig.8 : 時変の民間消費係数と政府消費係数

この時変の係数a1(t), b1(t)を使って乗数K(t)を計算した結果を示します。

Fig.9 : 乗数Kと係数a1, b1の推移

 政府消費係数(所得依存)b1より民間消費係数(所得依存)a1の方が大きく、乗数K(t)はおよそ4.0~6.5の間で変動しています。
 つまり、民間消費(所得非依存)a0、政府消費(所得非依存)b0、投資I、輸出Xを1単位増加させることでその約4.0~6.5倍の追加GDPが生み出されることが分かります。
 当然、その分所得Yが増え、国民の手取りも税収も増加することになります。
 手取りの増加分のうち、0.452倍しか民間消費の増加に回らない、としても
手取り増加分の1.8~2.9倍の追加GDPが生み出されます。
 また、民間消費係数(所得依存)a1と政府消費係数(所得依存)b1との間には特に相関関係は見られません。

Fig.10 : 係数a1とb1の相関

 したがって、民間消費係数(所得依存)a1が変化したとしても政府消費係数(所得依存)b1を通じて効果が相殺することは考えにくいということになります。

時間変化効果

 次に、均衡点の移動ではなく、瞬時的な民間消費Cの変化や政府消費Gの変化がGDPの変化に与える影響を見てみます。

Fig.11 : GDPとCとGの時間微分の推移

 GDPの時間変化dGDP/dtが民間消費Cの時間変化dC/dtや政府消費Gの時間変化dG/dtと関係がありそうです。ここで、時間変化は1四半期(3か月分)の変化とします。
 実際相関関係を見てみましょう。

Fig.12 : dC/dt, dG/dtとdGDP/dtの相関

 民間消費Cの時間変化dC/dtは、およそ2.17倍のGDPの時間変化dGDP/dtを齎すことが分かります。
 一方で、政府消費Gの時間変化dG/dtはGDPの時間変化dGDP/dtと殆ど無相関であることが分かります。
 したがって、減税によって政府消費Gが減少してもGDPに与える影響は殆どありません。

まとめ

以上の結果から、以下の結論が導けます。
(1)民間消費(所得非依存)a0、政府消費(所得非依存)b0、投資I、輸出Xを1単位増加させることでその約4.0~6.5倍の追加実質GDPが生み出される。
(2)手取りの増加分のうち、0.452倍しか民間消費の増加に回らない、としても手取り増加分の1.8~2.9倍の追加実質GDPが生み出される。
(3)1四半期(3か月分)の民間消費Cの時間変化dC/dtは、およそ2.17倍のGDPの時間変化dGDP/dtを齎す。
(4)一方、政府消費Gの時間変化dG/dtはGDPの時間変化dGDP/dtと殆ど無相関であり減税がGDPを減少させるとは認められない。
(5)よって、減税による国民所得の増加を通じて民間消費を増加させることで、一時的税収減により政府消費が減少したとしても、2倍程度の追加GDPの増加が見込める。

 増税のみを志向する財務省という組織は本当に日本に必要なのか?大きく疑問を投げかける結果となりました。血税を使って天下り上納システムを維持することが東大法学部を出たエリートの成すべき仕事なのでしょうか?
 一方、アメリカで2025年に誕生したトランプ政権では、偉大な起業家であるイーロン・マスク率いるDOGE(Department of Government Efficiency)がUSAIDの閉鎖など政府消費を削減する一方で、中間層への減税を行い民間消費を増やすという政策を進めています。
 日本という国を持続可能とするには、大きな政府を志向するのを止め、手取り増加による民間消費の刺激をするべきですね。
 その手段として、基礎控除の引き上げ、ふるさと納税枠の拡充、社会保険料の削減、国内投資限定のNISA枠拡充、など政府が出来る施策は沢山あります。

参考文献

こちらを参考にしました。

#マクロ経済学 #経済 #GDP #手取り #年収の壁 #財務省


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