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イールドカーブ・コントロール(YCC)は実質金融資産税である

はじめに

日銀が2016年9月に導入したイールドカーブ・コントロール(YCC)について、その目的や実態についてこれまでもメディア等で語られて来ましたが、改めて見直すことでその正体が見えてきました。
一言で言えば、タイトルの通り、「YCCは金融資産税である」というものです。
今回は、YCCの狙いと実態について様々なエビデンスから探っていきたいと思います。前提知識として、前回の記事「債券価格はどのように決まるのか? 」を参照されることをお勧めします。


イールドカーブ(YC)の現状

イールドカーブの現状をまず見てみましょう。下図の左から、イールドカーブの理論形状、日本国債のYC、米国債のYC、です。
日本国債のYCは残存期間10年あたりで凹んでいますね。これは、理論的には1点でしかコントロールできないカーブを、無理やり2点でコントロールしようとしているためです。
米国債も歪んでいるように見えますが、歪みは残存期間の短い政策金利に由来しているため、6ヵ月以降は滑らかなカーブとなっています。
何故、日銀はこんな不自然なことをしているのでしょうか?

イールドカーブの理論と実際

国債の発行残高と日銀の保有額

次に、国債の発行残高と日銀の保有額の推移を見てみます。
国債は用途に応じて、建設国債と赤字国債(特例公債)に分かれます。
建設国債の残高はほとんど伸びていませんが、赤字国債(特例公債)の残高は増え続けています。建設国債は、道路や橋、ダム、堤防、港湾などのインフラ整備を目的とした公共事業に使わます。インフラは数十年以上使用されるため、単年度の予算ではなく、数十年の返済期間を持つ国債で賄うことは合理的です。
つまり、赤字国債が問題なのですが、赤字国債の残高600兆円のうち、500兆円を日銀が保有していることになります。
また、日銀の現金紙幣発行残高は日銀の国債保有額と比較すると、1/4程度であることが分かります。つまり、日銀の国債買い入れは現金の発行で賄っている訳ではありません。

国債発行残高と日銀の保有額

日銀のバランスシート

実際の日銀のバランスシートを見てみましょう。
積みあがった資産としての国債は、負債としての預金とバランスしていることが分かります。
一方、発行銀行券は貸出金やETFとバランスしています。
日銀の預金は、各銀行が日銀に預けた預金であるため、国民や企業の預金が原資です。

日銀のバランスシート

資産としての国債は、日銀が市場から買入をしており、ゼロ金利付近の低い利回りで購入しています。つまり、表面利回りよりも低い最終利回りの債券を保有していると考えられますが、理論的には表面利回りより低い最終利回りの債権は残存期間が短くなるにつれ、価値が低下します。

債権価格(資産価値)と残存期間

「日銀は国債を満期まで保有するので、資産としての国債は目減りしない」という主張もありますが、バランスシートで考えた場合、「日銀は借方の預金を使って市場から割高国債を買入しているため、B/S上では目減りしていく」というのが正しい理解だと思います。
では、今後、長期金利が上昇し、国債価格が下落していくとどうなるでしょうか?当然、資産の部の国債は目減りし、そのままでは資本の部がが圧縮され、やがてマイナスとなり、債務超過に陥ります。

国債価格下落の影響

MMT理論は本当か?

MMT(現代貨幣理論)は、一言で言えば、「自国通貨を発行できる政府は財政赤字を拡大しても債務不履行にはならない」という理論です。
しかし、貨幣を発行しても、新規国債の購入には充てられますが、既に膨らんだ日銀のB/Sの改善にはなりません。むしろ、B/Sの改善の目的においては、市場の貨幣を吸収する必要があります。
国債残高を増やし続ければ、先に述べたように、金利上昇の局面で債務超過に陥ります。
つまり、MMTでは、日銀の経営が不健全化する恐れがあります。
そのため、MMTでは政府と中央銀行を一体化させた議論をしようとしていますが、現状の日銀体制には当てはまらないと考えるのが妥当でしょう。
また、新規国債の取得に貨幣の発行を充てることは一般に財政ファイナンスと呼ばれ、財政規律の点で問題があるとされています。円の価値が相対的に希薄化するため、円安が進み、ハイパーインフレーションを起こす危険性も指摘されています。これは、エネルギーの殆どを輸入に頼る日本にとって致命的です。
MMTについては、こちらの衆議院の議事録が参考になります。

YCCの本当の狙い

いよいよ、本題ですが、YCCの本当の狙いは何でしょうか?
日銀が保有する国債の減価分を現預金のマイナス金利(金融機関からの徴収)で賄っているというのが正体でしょう。
つまり、本来預金者が受け取るべき金利分を、国債価格の低い利回り分で相殺している訳です。政府は、国債残高が激増しているにも拘らず、低い利払費で済むという恩恵を享受しています。
これは、実質的に金融資産課税と言えます

マイナス金利による低利回り国債の引当

政府、国民、銀行、日銀の間でどのように利子が回っていくのかに着目するとよく分かります。YCCの導入によって、国民が本来銀行から受け取るべき利子がマイナスされ、日銀、政府へと還流しています。
問題の出発点は、政府の財政赤字で積みあがった国債をどう消化するかであり、日銀が大量に引き受けた状態になりましたが、国債の価格の低下で債務超過に陥る可能性がありました。
B/Sを維持するためには、その国債の価格下落分をマイナス金利で補填する必要があったのです。

YCC導入前後の利子循環構造

では政府・日銀はどうすれば良いのか?

日銀のB/Sから見て、これ以上の国債の買い入れは無理でしょう。
毎年償還される分の買い替えはできるでしょうが、それ以上の資産の増加の原資はありません。現に、日銀の国債保有額の伸びは鈍化してきています。
また、政府もこれ以上赤字国債を積み上げると、日銀以外に引受先を見つける必要がありますが、今の低金利状態で、国債を積極的に買うインセンティブは市場に生まれないでしょう。
基本的にはPB(基礎収支)ゼロを目指し、これ以上国債残高を積み上げないようにするしかありません。
そのためには、特に歳出改革が必要です。
歳出の32%を占める社会保障費、つまり、年金・医療費・福祉に係る歳出を抑制する政策を打つことは政府の責務です。グラフを見ると、特に年金の伸びが異常であることが分かります。
そもそも、年金は支払った掛金に対する保険であって、税金で補填する構造自体に無理が来ているのではないでしょうか。まるで経営赤字を税金で補填される保険会社があるかのようなヘンな状況なのです。

PB悪化と社会保障費の増加

では国民はどうすれば良いのか?

長期金利が安く抑えられていることは、住宅ローンなどの長期借入がしやすい状況でもあります。今後、長期金利が上昇していく前に、住宅ローンを組みことが一つの策です。
また、銀行預金・定期預金ではなく、より利回りの良い金融商品に投資することも大切です。
NISAが導入されたのは、2014年1月ですが、2024年1月から新しい制度に変わり、主に積み立て型と成長型を併用できる点や投資枠が拡大した点で改善されています。
新NISAで、何に投資すればいいのかについては、また別の記事で取り上げたいと思います。


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