会議はやればよいのか―自己啓発・組織運営に効く文化人類学入門#15
第8章 会議の文化人類学
組織は会議を行います。
ところが、会議で決めるという、一見民主的に見える装置が、一歩使い方を間違えるとリーダーの独裁を補強する方向に作用します。
会議をやったというアリバイだけが残って、だれも何も言えなくなる状態です。
組織や会議を機能させるために、文化人類学的視点は役に立ちます。
受け手本位の考え方です。
リーダーが部下の文化に耳を傾ける姿勢、つまり受け手本位であれば、組織も会議もかなり変わるでしょう。
会議をするときに大切な一般原則
会議の一般的原則を確認します。これらのことがなおざりにされると、組織の士気が下がったり、メンバーが傷ついたりします。
第1に、公開性です。
「議事公開の原則」といいます。会議開催の通知は必須です。すべてのメンバーに知らせる必要があります。
第2に、公平性です。
「議長の会議指導の原則」、「議長の表決権不行使の原則」などがこれに当たります。
議長は中立公正な立場を守らなければならず、原則、執行部は議場整理を兼務しません。
執行責任者が議長を兼ねるケースはあります。しかし、マイナス要素もあります。
たとえば、執行責任者が議長を兼ねると、メンバーは感じたことを自由に言いにくくなります。
第3に、自由性です。
「発言自由の原則」(ルールに則った上で)です。
発言を抑制する雰囲気は避け、フロアに自由な発言の機会を保証します。
会議には、自由に発言し合っているケースと、儀式的で本音を言わないケースとあります。
執行部はシャンシャンで終われば、あとは実行に移せばよいので、それで終わらせてしまいたくなるのですが、本音で決めなかったことは組織にとってあまり意味がありません。
なぜなら、会議で決めたあとに実際に動くのはメンバーだからです。
納得していないのに動かなければならない状況が続けば、士気は下がり、業績も低下するでしょう。
ヒント 組織の実態は本音。会議は本音で意見交換するように促す。
第4に、肯定性です。
「可とするほうを諮る原則」、あるいは「賛成者先諮の原則」といいます。
採決する場面で、まず賛成について諮るという意味です。
会議は肯定的であるのが原則です。
たとえば、決めないということを決めたり、提案をやめさせることを決議したり、そもそも後ろ向きの議論は会議になじみません。
会議は、何をどのように実行しようかを話し合い、実行のプランを策定するプロセスです。
情報共有は会議開催の前提
会議の前提は、情報を共有することです。
情報公開ではありません。情報共有です。
公開しても共有してもらえたかはわかりません。
こういった場面こそ、文化人類学のキモ、受け手本位の考え方が必要になります。
メンバーに情報を開示したかが問題なのではなく、メンバーが情報を共有できたかが問題なのです。
どうしたら共有してもらえるのかを考える。これを真剣にやるリーダーがいたら、組織運営ができる本当のリーダーでしょう。
ヒント 情報は開示したというのは言い訳。共有してもらって初めて意味を持つ。
会議の発言の意味
発言者はどういう意味で発言するのでしょうか。
人間は自分一人でベストの解答を出せるほどカンペキではありません。
もしかしたら、自分も間違っているかもしれない。そういう謙虚さがメンバーにあると、会議はイキイキとしてきます。
もしリーダーが、自分の発言を修正する場面を見せることができたら、次からの会議は、さらに活発に意見が出されるでしょう。
会議の発言は、自分が正しいと思うことを言うためではなく、自分の足りないところを確認し、補ってもらうためのものです。
ヒント 会議の発言は、自分の足りない部分を補強してもらう。
リーダーが、最初からこれをやりたいというものをもって会議に臨み、それを追認させようと力むことがあります。
会議の士気は下がり、
「結局、自分のやりたいことをやるためにガス抜きをしているだけ」
と思われて、信頼関係は崩れます。
リーダーがあまり深刻でないと思っている場面が決定的だったりします。
ヒント 追認させるだけの会議は不信を買う。方針を宣言するほうがまだまし。
多数決という未熟さ
多数決という手法は、精神性の観点からすると未熟なやり方です。
民主的成熟は、少数意見に耳を傾けることで成り立つからです。
少数意見に耳を傾けない多数決は数の横暴になります。
未熟な合意形成です。
ですから、小さな意見であっても、その内容を検討します。
かりに提案が実現しなくても、丁寧にやることは必要です。
互いの意見を尊重し、真摯な意見交換がなされ、話し合いの中で合意点が浮かび上がり、あえて多数決などしなくても合意できるのが理想的です。
ヒント 多数決は未熟な手法。本音で意見交換、合意できればそれでOK。
会議外で変えてはいけない
会議で決定したことは、原則変えません。
変えるときには、会議閉会中の手続きを決めておく必要があります。
なぜこのことが大切かというと、時間とエネルギーをかけて会議に集まったメンバーを踏みにじることになるからです。
それをやった瞬間、リーダーは信頼を失います。
ヒント 会議で決まったかは真剣に気にする。当たり前のこと。
どこの会議で扱う案件か
もう一つ大切なことがあります。
どこの会議が何を扱うかについて混乱しない、あるいは混同しないように気をつけることです。
上の会議で扱うべきか、実務的な会議で扱うべきか、これを間違うと組織は混乱します。
本当は実務的な会議で話し合えばよいようなことをいきなり上の会議に持っていったりすると、実務を担うメンバーは自分たちが無視された感じになります。
どこで話し合うべきかは案外大切です。
会議の階層、縦の混乱と横の混乱
上位の会議と下位の会議があるとします。図をご覧ください。
下位組織は、実際に仕事に関わっているメンバーで構成されます。
現場のことが一番よくわかっている人たちです。
上位組織が下位組織に関わりすぎることを
「汚染」(縦の混乱、図のA)
といいます。
たとえば、実際にどのように動くかを検討するのは、現場がわかっている下位の会議のほうがよいはずなのに、それを上位の会議が議論してしまったりする状態です。
横の組織同士が他の部署に踏み込むことを
「混同」(横の混乱、図のB)
といいます。
これも、メンバーに不満が残ります。
有能なリーダーがやってしまいがちなのが汚染です。ついつい実務に首を突っ込みたくなります。
ヒント リーダーは縦の混乱に気をつける。実務に入りこみ過ぎない。
汚染や混同がない組織は、機能している組織です。
文化人類学的視点、受け手本位の発想で組織運営がされたら、リーダー以外からも新しい意見が出され、時代に合わせた柔軟な組織運営が可能になるかもしれません。
続き ―次回は、恋愛結婚文化人類学です。
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