バス運転手に挑戦―50代のオジサン運転人生、免許をいろいろとってみた#7
第5章 バスの運転手になった!
仕事が一段落して少し時間ができたので、バス乗務員に応募してみようと思い立ちました。50代も先が見え始めてきた頃のことです。
バスの求人に応募
求人サイトで探しました。ザッと求人が出てきます。
その中で、正社員ではなく、週一などかなり緩い枠で働けるものを探しました。結局、可能性があるのは2社だけでした。
応募しようか悩みました。まったく新しい世界で、何もわかりません。
1社は、トラックが主で、一部、学校の送迎バスを運行している会社でした。もう1社は、バスとタクシーをやっている会社で、「週一からOK」と書いてありました。
さんざん迷ったあげく、勇気を出して、2社めのほうに電話をかけました。
面接試験
「履歴書と免許証をもって、とりあえず、面接に来てください」というお返事でした。
面接の日程が決まり、でかけて行きました。履歴書と免許証を渡し、しばらく待つと、「お入りください」と、応接スペースに通されました。
営業所の所長と副所長の2人が面接をしてくださいました。
所長は女性の方で、履歴書をしげしげと眺めながらこう言われました。
「いろいろやって来られて、ウチなんか、もったいないですね」
「いえ、運転が好きで、特に大型をやりたくて、どこかでバスに乗りたいと思っていたものですから」
いろいろ聞かれたあと、
「それでは、実際に運転していただいて。そこが1番の関門なんですよ」
たしかにそうです。ただ大型2種を持っているだけで、プロとして働いたこともない人を雇うこともできません。
素人が応募してきて、しかも毛並みの違う世界で仕事をしてきて、実際に運転してみて、無理なことがわかればイイ、くらいに思われたのかもしれません。
実技試験
所長の指示で、副所長が実技試験をしてくださいました。
乗ったのは、マイクロバスでした。正直、もっと大きいのに乗りたかったのですが、しかたありません。
副所長の方がこう言われました。
「とりあえず、車庫の敷地内で前進してみてください」
「セカンド発進でいいですか」
「はい」
「ああ、大丈夫そうですね」
副所長の方がおもむろに携帯を取り出し、事務所に電話をかけました。
「大丈夫そうなので、外も運転してもらってきます」
公道に出ました。副所長の方が、
「大丈夫そうですね。そうしたら、幹線道路に出てみましょうか……。採用になったら、いつから来れますか」
そんなやりとりをしながら、一回りして営業所まで戻って来ました。
久し振りのバスで、わくわくしました。
採用決定!
もう一度面接に臨みました。副所長が所長の耳元でささやいていました。
「大丈夫そうですよ。ブレーキングも問題ありません」
採用ですともなんとも言われませんでしたが、
「○○コースをお願いしましょうか」
と所長が副所長に言っておられたので、ああ、採用になったのだなと思いました。
「追って連絡します」
と言われ、帰宅しました。
入社の準備
何日かして電話がかかってきました。
「研修と制服の採寸をしますので、○日に来てください」
副所長から研修を受けました。
支援学校の送迎便の担当でした。
どのような接し方が必要か、何をしてはいけないかなど、かなり詳しい説明を受けました。プロになるといろいろ厳しいんだなと思いました。
次は採寸です。制服は貸し出しで、退職するときにクリーニングに出して返却するシステムになっていました。
見習い研修
数日して、見習い研修が始まりました。
バスの世界は、早朝から動き始めます。早い便になると、午前5時過ぎには回送でバスを動かし始めます。こんなに早いのかと驚きました。
運転手の横に乗って、その後ろに指導員がつく3人体制でコースを回りました。
車椅子を固定する方法、学校関係者や保護者への挨拶、リフトの操作方法など、かなり覚えることがありました。
かつて、運転手同士が運転中に手を上げて合図している光景を目にしましたが、運転操作に影響が出るということで、今はやらないそうです。
しかし実際は、同じ社のバスに出会うと、手を上げて運転手同士、挨拶していました。
道を譲ってくれたときなどは、わかりやすく手を上げて挨拶します。
白い手袋をしたほうがイイと言われました。手を上げて合図をするときに、わかりやすいそうです。
バスは車両が大きいので、交差点でどのあたりに停車するかなど、普通車では考えないことも教えていただきました。
用語も教わりました。
実際にお客さんを乗せて走るのを『実車』、だれも乗せないで走るのを『回送』というようです。
遅れることはあっても、定刻より前には絶対発車してはいけないとも言われました。
気持ちのよい挨拶は基本です。
バス運転手は接客業と言われますが、この点でもプロでなければならないことを教わりました。
続く ―次回は、バス運転手の続き。辞めるまでを書きます。