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『11月20日』

トランスジェンダー女性俳優モノローグ(一人芝居台本)


『11月20日』本文

作:奥村ひろ

(三脚に固定したスマートフォンに向かって話す)

え~っと、ふぅ。よしっ。

「お互いに生き延びましょう!」

私たちトランスジェンダー当事者同士では、よくある別れの挨拶です。
頭に、「次に会う日まで」が省略されています。

何を大袈裟なと思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、私たちからすると全くもって冗談ではないのです。

目の前にいる友人と別れる時、もうこれが最後かもしれない、と不安になる時があります。
相手がいなくなるんじゃない。
自分が消えて、いなくなってしまうんじゃないかって…。

互いに生き延びようって確認でもしないと、今にも持っていかれそうな衝動にかられる、そんな日々を送っています。

毎日性別の違和感と戦いながら疲弊しています。
事あるごとに胸が引き裂かれる思いです。
社会生活を送るのに、弊害が出ている仲間もたくさんいます。

先日職場の仲間に、SNSでトランスジェンダーが差別されてるって知ってる?って聞いてみました。
「えっ?そうなの?なんで、差別されなきゃいけないの?」
彼女は不思議そうに、無邪気に言いました。とっても仲の良い同僚です。

職場はとても居心地の良いところです。
ただ一歩踏み込むと、トランスジェンダーのことは何も知られていません。
関心の外側にいることがよく分かります。

私は運良く職にありつけていますが、友達の…み、あっ、Aさんは面接に通りません。
Aさん見てますかぁ?(笑)
彼女がトランスジェンダーでないか、あるいはトランスジェンダーを排除しない世の中であれば、間違いなく面接には通っています。
何の問題もない良い子です。

今、トランスジェンダーが仕事に就くには、専門職か優秀でなければなりません。
 しかも差別のない職場、というのが条件です。

特別優秀でなくても良い。
気軽にアルバイトが出来ればそれで良い。
残念ながら、それが叶いません。

これが2022年11月19日現在の状況です。

明日、11月20日は第2回東京トランスパレードです。
もちろん私もパレードを歩きます。
小さいですが、こうしてプラカードも用意してきました。

一年に一回みんなと出会い、生きていることを確認する良い機会。
昨年から始まりましたけど、とても良いイベントです。

そして!このタイムカプセル動画が公開されるのが、20年後だそうなので…え~2042年11月20日!

(一息ついて)
2042年11月20日のみなさ~ん、そして私~、こんにちは~!

20年後の私は、この動画を観ていますか?
元気にしていますか?
楽しく暮らせていますか?
夜になったら、死にたいとか思っていませんか?
何よりも、生きていますか?

トランスジェンダーをはじめ性的マイノリティは差別されていませんか?
トランス女性は犯罪者扱いされていませんか?

就職の面接で嫌な思いをしていませんか?
好きな服装、ヘアスタイル、性表現はできていますか?
バスルームやロッカールームは、私たちも使いやすいように整備されていますか?
性別変更に際して、不当な扱いは受けていませんか?

性別にとらわれず婚姻関係を結べる環境になっていますか?

第22回東京トランスパレードはありますか?
できれば、もう必要としない世の中になってればいいなぁ。
でも、あっていてほしい。
で、今話してきたことも、ぜーんぶ過去の笑い話になってれば、今の私も嬉しいです。

それでは来年の2043年11月20日まで、お互いに生き延びましょう!

(スマートフォンに向かって手を振る)
(スマートフォンに近づき、撮影を止める)

ふぅ。終わったぁ。

また20年後にみんなで観ましょう。
それまで、生きていよう…

うぉっ、切れてなかった!

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