『Café de renversement カフェ ドゥ ランヴェルスマン』
トランスジェンダー女性俳優モノローグ(一人芝居台本)
『Café de renversement カフェ ドゥ ランヴェルスマン』本文
作:奥村ひろ
大変お待たせいたしました~、カプチーノでございま~す。
ごゆっくりどうぞ。
はい、お手洗いは、お店を出ていただいて…あっ、あ~…あの…お客様は…
このビルの1階に誰でもトイレがございますので、そちらをご利用くださいませ。
いえ、この階のお手洗いは、男性用と女性用でして…
お客様は、失礼ですけど…シスジェンダー…男性でいらっしゃいますよね。
最近は当店にも苦情が来ていまして、男性のお客様の安全に配慮して、シスジェンダー男性のお客様には、誰でもトイレをご利用いただいております。
何卒ご協力をお願いします。
はい、申し訳ございません。
(スタッフ、厨房に引っ込む)
(スタッフ、ホールに聞こえるような声で)
ちょっと、店長~。
何とかしてくださいよ、あのお客さん。
どう見てもシスジェンダーのおっさんなのに、男性用トイレ使わせろって。
ヤバくないっすか?
さすがに誰でもトイレ案内しましたよ。
1階だからめんどくさいけど、仕方ないじゃないですか。
困るのは私じゃなくて、男性のお客さんや店長なんですよ。
やっぱり、男性とシスジェンダー男性のトイレは分けるべきだと思うんですよね。
差別じゃないですよ!怖いから言ってるんです。
実際に性被害も出てるし…男性の安全を考えて言ってるんです。
店長ももっと危機感持ってくださいよ。
ほんと最近あの手の人たちって、声が大きいですよね~。
あっそうだ、昨日面接に来てた女の子どうでした?
えぇ~、あの子シスジェンダーだったんですか!?
最近多いですね、流行ってんすかね。
でも、あの子はシスには見えなかったなぁ。
マジか~、分かんないもんですねぇ、びっくり~。
じゃやっぱり厨房ですよね、さすがにホールはちょっとねぇ。
お客さんの前に出すわけには…いかないっすよねぇ。
はっ、更衣室かぁ、その問題があった!
じゃダメだわ、うち場所ないもん。
えっ?私と一緒?それはちょっと…つか無理!
まっ、不採用でもしょうがないんじゃないっすか。
別に誰が悪いわけでもないし…
(客の呼ぶ声)
は~い。少々お待ちくださいませ~。
うげっ、呼ばれた。
店長、行ってきてよ~。
私やだよ~。
えぇ、仕方ないなぁ。はぁ…
お待たせしましたー。
……。
追加のご注文でしょうか。
失礼?
私が?
えっ、何のことですか…
あぁ、今の聞こえてました?
別に悪気があって言ってるわけではないので…
声が大きい、のは謝ります。
またお手洗いの話ですか…
何度も言いますが、シスジェンダーのお客様の男女別トイレのご利用はご遠慮いただいております。
はぁ…理由ですか…
では、はっきりと申し上げます。
シスジェンダー男性のお客様と、男性用トイレに侵入する犯罪者との見分けがつかないからですよ!
(客、机を叩きながら立ち上がり、怒鳴り声を上げる)
……。
はい、ストップで~す!
残念です。暴言があった場合は途中でも中止となってしまいます。
えぇ、まだまだキツい仕掛けがたくさんありました~!
店長~!
早く来てくださ~い。
(店長、スタッフ、佇まいを正して)
本日は、アトラクション「ジェンダー逆転体験カフェ、カフェ ドゥ ランヴェルスマン」にご来店いただきまして、誠にありがとうございました。
普段マジョリティであるシスジェンダーのお客様が、もしもマイノリティになったら、という世界を体験していただきました。
スタッフによる数々の失礼な言動をお詫びいたします。
大変申し訳ございませんでした。
(深々とお辞儀する)
ただ、今日お客様が耳にした事、体験された出来事は、すべて私たちトランスジェンダー当事者が経験してきたことでございます。
そのことを心の片隅に、ほんの少しでも留めておいていただけましたら幸いです。
とてもつらい体験を共有していただき、感謝いたします。
それでは、またのお越しを心よりお待ち申し上げております。
(笑顔で深々とお辞儀する)
はい、以上になりま~す。
お客様、お手洗い行かれてないですよね。
出てすぐそこにございます。
(笑いながら)
はい、1階に行かなくて大丈夫です!
PDFファイル
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この作品について
この作品は、チーム誰とも『バリアフルレストラン』からヒントを得て執筆しました。
もし、二足歩行者が少数派の立場になったら…
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