『罰ゲーム』
トランスジェンダー女性俳優モノローグ(一人芝居台本)
『罰ゲーム』本文
作:奥村ひろ 原案:河上りさ
あいつは悪魔だ。
友達だと思っていたのに。
確かに私は勝負に敗れた。
ここは地獄だ。
照り付ける太陽がまぶしすぎる。
敗者は勝者の指示に、何でも従わなければならない。
そして今から処刑だ。
我が人生、今日が最後の日となることだろう。
しかし大抵はとんでもないことを命令されて、「いやいや、ちょっと勘弁してよ~」「えっ?だって何でも言うこと聞くんじゃなかったっけ?」みたいなめんどくさいやり取りが発生した後に、ちょっと緩めてもらえるのが世の常じゃないか。
それなのにあいつは、私にとって一番過酷な要求をビタ一文まけようとはしなかった。
灼熱のアスファルトがパンプスを溶かす。
蒸し返す熱気で、ブラウスが体中にまとわりつく。
ロングスカートはちっとも涼しくない。
額から流れる汗に、ファンデーションが落ち…落ちていない!
クッションファンデは、意外と汗に強い。
気配を消せ!
誰にも見られるな。
家族連れやカップル、若者のグループで賑わう歩行者天国。
君たちはなぜそんなに楽しそうなのだ。
ひとふたさんまる(12:30)、2時の方向30メートル先にあいつを発見!
(着信。電話に出る)
あぁ、聞こえる。
つか、随分と楽しそうですねー。
分かった、分かったから。
行きゃいんだろ。
3組だけだぞ。
まずはどれよ。
ん?あれか?
お前いきなり、ギャル5人くらいいるじゃねぇかよ。
マジかー。
お前は人が困ってるのを見るとニヤけるの昔から全く変わってねぇな。
じゃあな、くたばれ!
(電話を切る)
(カフェにて)
ん?
あぁ、うん。
アイスコーヒー美味いな。
このエアコンの涼しさは、家の外に出てこそだよな。
ちょっとボーッとしてる。
今日は疲れた。
疲れたよ。
街に出て歩いてる人に、トランス女性だってことを明かせ。
自分の印象を聞け。
さらに見た目、振る舞いのアドバイスを貰え。
これを言われたときは、愕然としたね。
引きこもりに対して、キツすぎるだろ。
シカトして逃げることもできたけど、お前の言うことだからな。
俺も何か変えたかったんだよ、きっと。
ちょ、俺ってー。
けど昔を知ってるやつに、俺以外を使うのって結構恥ずかしいんだよ。
気を付けよ。
そう、みんな優しかったー。
きっとみんながみんな良い人ばっかりじゃないんだろうけどさ、少なくとも今日しゃべった人の中に悪い人はいなかったよ。
あんなに好意的に接してくれるとは思わなかった。
最初のギャルだってはしゃぎながらもメイク教えてくれたし、次のカップルだって似合いそうな服屋教えてくれたしね。
あの家族連れの父親が同い年でさ、正直この年でそこまで自分らしく生きてるなんてすごいってさ。
嫌味でも馬鹿にした感じでもなかったよ。
今、子どもの学校で、LGBTQの授業があるんだって。
すごいよな。
時代は確実に進んでる。
結局、調子に乗って5組に声かけた。
嬉しくなっちった。
だってネット酷いじゃん。
トランスってだけでぼろくそじゃん。
けど、リアルは違ったよ。
当事者を目の前にして、本音を言えるはずがない、っていう遠慮とか気遣いともまた違うんだよ。
何か普通に接してくれた。
ネットの世界しか知らないのは、こっちも彼ら彼女らも同じなのかもしれないね。
ちょっと自信付いたからさ、今度久しぶりに遊びに行こうよ。
おーい、何でそこで断るんだよ。
お前が私の男友達だってことは、今も昔も変わんないだろ。
おっ、この曲。
懐かしいね。
良く聞いてたよなぁ、聖飢魔Ⅱ(せいきまつ)。
やっぱお前は悪魔だよ。
いや、なんでもない。
ありがとな。
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原案について
この作品は、河上りささんから原案をいただいて執筆しました。
河上りささんは、トランスジェンダーのリアルなど取材して情報発信をする語り部YouTuberです。
りささん、ありがとうございました!