沖縄経済の単位構造系

沖縄経済環境研究所にて「沖縄における農林水産業の単位構造系に関する実証分析」なる小論を報告した。論文投稿後の1次査読後に研究所員と匿名レフェリーの前で報告会を行う。例によって、プレゼン資料は投稿論文より大部になる。なぜなら専門外の所員もいるので基本の説明資料も作成するからだ。なので論文に掲載されない図表など備忘録的に、ここに記載しておく。

単位構造系とはKEOスクールの重鎮、故尾崎巌先生のアイディアによる。産業連関分析は需要側から見ることが定石(?)だが、1単位の生産に必要な投入量という供給側からみるというのは抜群のアイディアではなかろうか。

この概念に初めてであったのは、わが生涯唯一の恩師である富永先生(琉大名誉教授)から借りた、黒田昌裕『実証経済学入門』日本評論社(1984)を読んだのがきっかけ。「第19章 構造変化の内生化」で単位構造系が説明されており、その出典が尾崎巌「経済発展の構造分析(三)」『三田学会雑誌』73(5)(1980)だった。当時、農学部修士だったので農業経済研究を見ると2名ほどこの手法をとりあげていて、中でも故藤田夏樹東大教授の論文が目を引いた。

尾崎論文は、産業別のマップが面白かったので修士論文の片手間に十進BASICでコードを書き、色々図示して、特に文章にすることなく過ごした。最近、来間泰男沖国名誉教授の『沖縄の覚悟』という本で、マルクス経済学の研究者だったことを後悔しているような一文を読んで、そういえば経済の計量経済から農学修士に進んだので、農学部の教官や学生と沖縄農業の技術・生産力の議論をして、その技術や生産力とは何ぞや、単なる定義か、実証可能な対象なのかという議論になって、全くもってちんぷんかんぷん(水掛け論ってすごいなと思った)だったことをふと思い出して、最近、論文にしてみた。同時にたまたま経産省の資料で、情報産業のユニットストラクチャーの絵をみたので、そういえばと思い出して昔のコードを引っ張り出して再度RUNした。十進BASICはやっぱり日本の宝。

単位構造系とはユニットスストラクチャー、ユニットシステムの訳で、次のような感じのものである。

論文には未掲載だけど、結構いい説明資料だと思っている。システムとストラクチャーの使い分けはこんなイメージだという解釈をしている。
ユニットシステム=産業部門数×ユニットストラクチャー
とややこしいので定義しておく。

幸い沖縄県は基本表を公開している。
◆沖縄県公表用基本分類(行部門458×列部門367)より、行部門と列部門を照合し、364部門表に統合
◆全国は取引基本表 基本分類 (509部門×391部門)を照合し、388部門表に統合
◆沖縄及び全国の2015年産業連関表基本表中における農林水産業部門及び農林水産関連部門は、全国表388部門中76部門、沖縄県表364部門中71部門
◆農林水産業部門は、耕種13部門、畜産6部門、林業3部門、水産業3部門である。関連部門は、農産加工、食品製造、公共工事、流通関連等多岐にわたる。

昨日、ホワイトデーだったので菓子類を計上してみる。

右上の黒●は実際の半径10の円、白〇は見やすくするため2倍したもので、図の円は2倍している。それでも点状のものが多数分布する。見方としてはお菓子1単位作るのに必要な他産業部門の投入産出表的なものだが、それより発生付加価値額(計100)のほうに注目。
自部門であるお菓子部門が48.1、卸売りが11.9、この2つで60、なので他部門が40になる。付加価値の配分が他部門に広く行き渡ることが重要だろう。付加価値側の経済波及効果の定量化+可視化といえなくいもない。
地域表では、そっちのほうが重要だと思う。
ちなみに全国は

自部門であるお菓子部門が39.6、卸売りが10.3で足して49.9と自部門の付加価値が沖縄と約10違う。それだけ全国は他部門に行き渡るということ。
ちなみに論文には載せなかったけど、過去の2000、2005、2011も計算していて、2005は図の通りで、そう大きな違いはない(と思う)。お菓子を作る製造工程=生産技術が沖縄と全国で大きく異なるということはなく、ケーキや、焼き菓子、煎餅とか技術にマクロ的な計量可能な差があると考えるほうに無理がある(ミクロは分からん)。そもそも「生産力」違うというときの生産力って何?労働者1人当りの生産量か生産額か、パーキャピタか?それはそれで意味あるが、マルさんのいう『生産力』『技術力』はそれでなないんでしょ(修士の頃、この部分の話が全くかみ合わなかった、今もだけど)。

尾崎先生の、このアイディアのすごいところは、現実の産業連関表はユニットシステムを生産額の大きさで加重して合計したものということと、この基本構造系が時間的に安定しているならば、見かけ以上の産業構成比がどんなに変わろうが、基本的な構造関係は変化していない、とこれでもかこれでもか日米の産業連関表で自動車とかセメントとか使って実証的に議論していくところ。

そして基本構造から「invariant」と「variant」な部分を抽出し、産業の『構造』にメスを入れるのである。ここでいう構造とは言うまでもなく『産業間の相互関係=産業連関』である。先のマル系の人は『構成比=構造』と解していた(本人はそうでないといいつつ、その通りの議論をするのでとても困った)。その昔、篠原先生か鳥居先生の本で、『産業構造』の定義はそれを論じる人の数だけあるって批判していたけど(ハーシュマンの引用だったかも)、とにかく明確な定義とそのアイディアにはとても魅了された。

先端部門の製造業や情報関連の産業部門はともかく、伝統的な農林水産業とその関連産業は時系列に並べても大した変化はなく、沖縄の技術的後進性は、全国との比較で、「invariant」な部分を検証すればよかろう、というのが論文の主旨です。『技術』とか『生産力』という概念をもてあそぶのでなく、とりあえず測ってみて、可視化して、定量的に、そこから直感的に判断する、というスタンスをとりました。沖縄農業の問題を『技術的後進性』『脆弱な生産力』という表面的な数字で語るのではなく、全体を『構造』として鳥瞰すると、沖縄と本土の『技術的後進性』『脆弱な生産力』は「invariant」な要素に大差なく、むしろ『生産構造』とはあまり関係なく規模という「variant」な部分ででほとんど説明つく、というのが結論です。とりあえず『技術』とか『生産力』といったマルクス系の論者の曖昧模糊な(お前はマルクスの理論を知らんのだとばかりに上から見下すような)論理でなく、計測して実証分析をしたら早いだろう、というのが趣旨です。沖縄は復帰から50年近くたった今も、当時の議論がとまっているんだけど、自分なりに、こういう落ちをつけてみた、というわけです。
とはいえ産業連関表といえども加工統計の一つにすぎず、SNAとか使って生産関数を計測すると異なる結果がでるかもしれない。2000年頃にこれをニューラルネットを使って、生産要素の入力と生産額の出力の関係を定式化し、沖縄と全国でニューロのユニットが発火するか否かの比較をしたけど、マル系オンリーの某学会で、これは経済学ではないといって、論文掲載を拒否られたので、沖縄経済学会に投稿したな。今は右を見ても左をみても、当時やったことが当たり前のようになってるようだが。
とはいえ産業連関表を使う理由は、マルクス系の人も労働価値説とか計測するときによく使っているからで、単位構造の式を共有できるのでなかろうか。

なお産業連関表から沖縄と全国の「variant」な違いは以下の基本指標に析出される。なんか似ているような、結構違うような・・・。なので単位構造系に変換、出力する。単位構造系は基準化された産業連関表の原単位なので、それを使って、さらに色々違った分析を展開できる。


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