踊る楽しさを感じる、そして自らの踊りを自らで作ってみる。
令和2年8月17日から19日に12月開催の第一回文化合宿にむけた事前ワークショップがおこなわれました!
参加:45名(国分中央高校ダンス部・高校生ミュージカル「ヒメとヒコ」キャスト・劇団ニライスタジオ)
場所:国分中央高校ダンス部練習場
講師:松永太郎(演出家)・楢原じゅんや(ミュージカル俳優)
楢原じゅんや| おおすみかのや文化合宿実行委員会委員
8月17日〜19日までの3日間、高校生と共に演目作成のワークショップを行いました。
音楽も出来立て、踊りもどうなるかわからない状態でのスタートとなりましたが、事前に高須の刀舞の視察をして、それを基盤に『みんなで作る』というワークショップ。
3日間を通して一番感じたことは…
学生のイマジネーションは「ガチガチに固まった大人達の頭と比べものにならないほど成熟している」でした。
大人と一言で表すのはこれまた問題ですが、いろいろな経験をしてしまったがゆえのガチガチ感は大人特有と言えばそうでもあります。参加した学生の頭の中身はどうなっているのか、それはとても気になりました。
では何故学生達が大人より劣って『みえる』のか、私自身がこのワークショップを通して見えたものをお話ししたいと思います。
いくつかのファクターをあげつつ3日間を回想してみます。
まず熱量。
学生のエネルギーは独特である。何がしたいのかハッキリとしていない子。目の前の事を一生懸命やりたいが、やり方がわからない子。何故か怒っていたり、どこか斜に構えていたり、かと思えばのめり込んだり。自分の心がどこに居るのかわからないのにエネルギーだけは溢れてくる。やり場のない気持ちをどこにぶつけようか迷っている子もいました。自分を出せる子はまだいい、しかし自分が一体何をしたいのかどうなりたいのかそもそもがわからない。そんな子もいました。しかしみんなが総じて持っていたものそれは熱です。その熱は冷めません。なぜなら彼らはそこに生きているからで、その熱量は人を圧倒し得るものだとわかりました。
導くことの難しさ。
学生のイマジネーションを最大限に引き出したいと挑みましたが、掛け算を知らない子供に掛け算をしろ!とは無理難題。足し算から始めて、それをこうしたらどうだろうか。それなら結果として掛け算なんだという導き方。そんなことから始めたつもりでした。プロフェッショナルの現場であれば、『ここは適当に踊ってくれ』となりますが、そうもいかないのが事実。頭の中でイメージしていることを体現できる生徒は少ないですが、それでも何かしら生み出してみたらどうかという打診を続けていくと、不思議ですね。思ってもみなかった、定型などまるでないような動きが出てくる。どうしたらいいのかわからないながらも、持てっているすべてを全力でぶつけてくる場面には目を見張りました。その型を外れた(プロとしてはとても羨ましい)ものをではどのように『魅せていくか』その指南は出来るのではなかろうか。彼らから生まれてくる『何か』を全力で拾いたい。そんな思いで3日間過ごしました。
探究心の現れ
個人的な話ですが素直に受け入れる気持ちというのは大人になった現在、中々難しく感じる時があります。それを彼らは全くの素でやっていた。振付を受け入れる時、彼らは何を考えていたでしょうか。先生や講師が言うことをまず真似する、学ぶ。彼らはそういう局面で、単純にそれしか考えていませんでした。そしてそれを追求しようとしていた。自分が知らない事をガシガシ言ってくる大人の声を、その動きをどうにか自分のものにしようと最大限の集中力を発揮しながら、ついてくるのです。登っていました。彼らは山を登ろうとしていた。山を登るときには自分の足を、自分自身を信じるしかない。諦めたら山は登れない。山を登る事を後ろからサポートしていくのが今回のワークショップでの私の役目だった気がしています。
また、登っている途中の未完成の美しさを私たち大人に教えてくれました。体裁など繕っていない。無我夢中で、一生懸命な姿。出来るできないは問題ではないんだと逆に教えられてしまったのです。
もちろん山頂にたどり着いた時の感動は素晴らしいでしょう。しかしそれは途中の苦しかった時間があってこそ。ひたすらに歩き続け、彼らは3日間自らの意思で自らの思想をその時にしか生まれない表現を体現しようとしていた。登り続けていました。
私が彼らに教えたのは基礎だけです。もっとこうしたら伝わるかもしれない。基礎を蔑ろにしてはいけない。古くから続く日本の伝統芸能も、海外の踊りも、基盤から作り上げてきた人達がいてこそ。その基盤をもらいつつ、新しいものを作ろう!そう呼びかけました。すぐには出来ないことも彼らの吸収力によってどんどん変化していった。新しいものが生まれる時、産みの苦しみはあるでしょうが、私は彼らと接した3日間で新しい作品が近い将来生まれるだろうと確信しました。
それぞれの夢、現在の立ち位置、彼らが目指すものはなにも文化だけではありませんでした。高校を卒業したら、美容師の学校に行きたい、卒業したら農業をやりたい、さまざまな話を聞きました。その夢があり、今がある。文化創造に携わりながらも、別の夢を追いかけている子も少なくありませんでした。だけど、この3日間は彼らにとって夢を追いかけるきっかけになったんじゃないかと思っています。新しいものを自分の故郷で生み出して、自分の街をまた好きになる。そんな事もこのワークショップでは出来たのではないかと思っています。
おこがましい話ですが、3日間のワークショップがそれぞれの夢へと繋がる橋のようなものになったかなと。それぞれがそれぞれの人生を豊かに生きるために、文化は必要な事であり、殊に無心で踊るという経験は人間の根底にある残された本能だと思います。
遠い昔から音楽と踊りは共存してきました。祈る時に人は身体を使って、全身全霊で祈る。これこそが芸能の発端ではなかったでしょうか。
そんなワークショップを経て、これからも彼らに、地域に、貢献していけたらと思うのです。具体的な内容よりも本能を磨けるワークショップでらありたいなと本心から思いました。その為に今私が持っているもの、伝えられる技術云々を惜しみなく伝えていけてたらと思っています。
とても有意義なワークショップになりました。ヒメとヒコの演出家である松永太郎さんとの出会いに感謝して
楢原じゅんや
群馬県出身。J-JAM企画
大学時代NY州で3年間を過ごし、Clark Academy of Performing ArtsでMatthew Clark氏に各種ダンスを師事。帰国後ミュージカル俳優として活動。役者としての力量は堅実で、力強いダンスには定評がある。殺陣も〇。和もの作品から海外作品まで幅広い分野に対応できるマルチプレイヤーとして舞台を支えている。2017年には舞台『Brilliant Cat ”S” ~怪盗Sの真実~』の演出を手掛ける。ワークショップ企画なども定期的に実施。後進の育成にも尽力している。2020年は鹿児島県において中高生の指導にあたるなど活動範囲を広げた。また2020年よりショートムービーの製作にも乗り出した。高校生の時に初めてみたミュージカルが、人生を大きく変えた。きっかけ、チャンスはいつ訪れるかわからない。子供達へなにかしらのきっかけが作れたらいいと思って参加している。