【合格体験記】ディープラーニング検定E資格とはなんだったのか
はじめに
去る2018年9月29日,JDLA主催のディープラーニング検定E資格(以下,E資格)の試験が一斉に行われました.
私も受験し合格したのですが,周りからよく
「この資格って,結局なんなの?」
「役に立ってるのか?」
「必須の講座も高いし,それほどの対価があるの?資格ビジネスでは?」
と言われることが多く,E資格の実態があまりにも不透明であると感じたので,自身の思考の整理も兼ねて,いま,改めて振り返ってみたいと思います.
結論から述べますと,E資格はとにかく費用がかかりますが,それでもそんなに悪くないんじゃないかなって思っています.
これから受験される方,すでに受験された方,教育用のカリキュラムに取り入れようとしている方など,本記事が多くの方々の参考になれば幸いです.
目次
1, ディープラーニング検定とは
2, 私の経歴・スキルと,受験の動機
3, 講座の受講(必須)について
4, 試験の内容
5, 合格し,その後何が変わったか
6, 結論
1,ディープラーニング検定とは
ディープラーニング検定とは,公式の説明は下記のとおりです.
その中で,G検定とE資格(E"検定"ではないのは,電気・電子系技術検定試験と名前が重複したから,と言われていますがEvidenceはありません)に分かれます.本記事は,E資格についてのみ触れます.
G検定とE資格の違いについて,公式の説明は下記のとおりです.
図1 G検定とE資格の違い
https://www.jdla.org/business/certificate/
私が受験したのはE資格のみです.
2,私の経歴・スキルと,受験の動機
学部生時代は数学(空間幾何)を専攻しており,その後システムエンジニアとして働き始めてからは,金融系の汎用機の保守・オープン化や,AWS,Azureを用いたクラウドWebアプリケーションの開発などをしていました.
図2 機械学習を学ぶ前の私
受験の動機は,深層学習を体系的に学ぶための定量的な目標が欲しかった,ただそれだけです.
転職を機に,趣味でやっていた機械学習を本格的に仕事の業務で扱うことになったため,まずは理論から体系的に学ぼうとしました.
とはいえコンピュータサイエンスの学問領域はとてつもなく広く,どこから手を付けたらいいかわからなく(とりあえずPRML読んで途方にくれる),ディープラーニング協会が深層学習を扱うエンジニアになるためのシラバスを制定し,その試験を試行することを知り,せっかくなら目標があったほうがいい,という理由で受験を決めました.
図3 PRML
※余談ですが,PRMLは無料公開されています.
https://www.microsoft.com/en-us/research/people/cmbishop/#!prml-book
3, 講座の受講(必須)について
E資格を受験するためには,認定プログラムの受講が必須になります.この講座がとにかくハイコストです.これらは受験費用とは別にかかります.
〇E資格の受験費用
一般 32,400円(税込)
学生 21,600円(税込)
〇講座の受験料
約20万円~45万円
※いずれも,2019/01/09 22:15現在
私が受講を決めた当時(2018年2月ごろ)は3つしかありませんでしたが,いまは7つあるようです.私はスキルアップAIの,東京1期生として講座を受けました.
※当時の比較はこちらです.その内アップデートします.
講座は必要?
誤解を恐れずに申し上げますと,講座を受けなくても試験に合格する学力を身に着けることはできます.理由は,講座を受けなくても,ディープラーニング協会の参考図書をはじめとした素晴らしい書籍や無料のmoocが世の中にはたくさんあるからです.実際講座を受けていても,「あれ?これゼロつくでやったぞ……?」とか,自己学習できることをあえて高いお金を払って学んでいるような負の錯覚に陥ることも多々ありました.
図4 落ち込む私
それでもレベルの高い講師陣や,サポートの方々に直接質問できる環境があったのはとてもありがたかったです.例えば普段は聞けない論文に記載されている計算の途中式なども,元の式から「偏微分して,展開して……」と懇意に教えてくださり,とても理解が進んだこともありました.また,現場で実際に機械学習をやられている方が多いため,本とかでは学べない知見を得られたことも,とても良かったです.
図5 im2colの実装時の私
しかし,もし講座が任意だったら,自己学習より効率が良く質の高いカリキュラムを,多額のコストを払ってまで受講するかと言われれば,私はしないと思います.
金額が高いのは必然であると考えます.JDLAの定めるシラバスがあまりに広範囲なため,学習することが多くなる→教材も多くなり講座期間も長くなるためです.しかしそれでも普通の社会人がポンと出せる金額ではないからです.(※でも,JDLAの例題集は講座でしかもらえなかったり……)
なので今後は,リアルの講座がアーカイブされオンライン化が進み,それに伴いディスカウントされていけば良いな,と思っています.そうすれば,JDLAのミッションであるディープラーニング技術者の増加がようやく現実味を帯びてくるのではないでしょうか.
図6 お金
4, 試験の内容
前述した通り,試験の内容は口外禁止されているためお伝えすることができません.内容は,シラバスの通りです.なので,私が抱いた印象のみを下記に述べます.
・最新の機械学習系の論文を追っていないと,解けない問題が出る.
・思ったより,(深層学習ではない領域の)機械学習の設問が多い.そんなマニアックな実装でるんか……って思った.
・とにかく実装力!実装&実装&実装.
・数学・統計はそこまで難しくない.特異値やベイズあたりをしっかり理解しておけば解ける.
・試験はパソコンで解きます.計算用紙とボールペンが与えられます.時間もとにかく足りないので,数学の計算問題は後に回したほうが良いです.
図7 試験の形式が統計検定2級に似てるなと思っている私
5, 合格し,その後何が変わったか
〇変わったこと
・学習アルゴリズムの背景を理解できるので,機械学習を用いる案件で,顧客への説明能力が飛躍的に上がった.
・思うような精度がでない時の,原因と対策を考える力が伸びた.
・(時間はかかるが)論文を理解することができるようになった.理解が難しい時は,なにを調べればよいかもわかるようになった.
・Python(特にnumpy)への深い理解
〇変わらなかったこと
・対外的な評価,影響
→資格自体の認知度が低いこともあり,この資格を持っていることで何かが有利に作用したことはありません.
・深層学習ライブラリに関する知識(講座でも,試験でも問われない領域だからです)
6,結論
「この資格って,結局なんなの?」
広義には,深層学習・機械学習の理論を理解し,それらを正しく実装する能力を有することを対外的に証明するものであると考えます.
狭義には,ディープニューラルネットワークの背景の数理,勾配法,誤差逆伝播,汎化性能をあげたりするための各種テクニック,初期値の決め方などの基礎を正しく理解し,それらを応用したモデルについて書かれた論文を読み解く力や,深層学習ライブラリに依存せずとも,論文に書かれているモデルを実装するスキルを有することを対外的に証明するものであると考えます.
なので,どんな時でも超高性能なモデルを作れるスーパーディープラーニングエンジニア資格というわけではなく,しかし,そのためのアプローチを模索し,前進できるエンジニア資格であると私は思います.
「役に立ってるのか?」
この資格を持っていること自体が何かの役に立ったことは正直一度もありません.それはまだ先の話(認知度の向上,など)かなと思っていますし,来ないかもしれません.それでも,資格の為に勉強した期間や,得た知識は無駄になっていない気がします.
知識の引き出しが大きく増えたことがとても良かったです.前処理も,学習も,評価も,知っている知識の中で戦っていかなくてはならないので,さまざまな角度から多角的にアプローチすることにより,いままでは思いつくこともできなかったアイディアが浮かぶようになりました.
「必須の講座も高いし,それほどの対価があるの?資格ビジネスでは?」
少し余談になりますが,私がTwitterでフォローしている学生,研究者,データサイエンティストの方々はすごい人ばかりで,それらを眺めていると毎日憂鬱になります.
図8 心を病むフロー
E資格を受ける暇があるなら1つでも多くKaggleでサブミットしたほうが為になるとか思う人もいるかもしれません.勿論それは1つの側面を捉えていて,正しいと思います.E資格では実装力はついても実践力は身につかないからです.
これはとても重要なポイントで,E資格はあくまで理論と実装であり,現実世界のデータをつかってどうこう……というなものは,講座にも試験にも一切ありません.
じゃあダメじゃん……と思うかもしれません.
しかし,学習のためのシラバスが定められているだけでも大変ありがたみを感じますし,そのモチベーションとして資格の合格を目指すというのも,とても分かりやすくて良いと思います.
おわりに
つらつらと書いてしまいましたが,結局のところ,E資格は「深層学習初学者が一定の指標にするためにはとても良い制度」であると私は肯定的に考えます.この資格制度自体はとても素晴らしい理念のもと制定されていますので,今後ますますの盛り上がりを見せてくれるよう願っています.そしてできればもう少し安く…….
今後も粛々と自身の知識を積み上げていきたいと思います.