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お初天神裏参道・ウラサンのために書いた小説<1>

この度、お初天神裏参道、ウラサンのパンフレット内に小説を掲載させていただくことになりました。

物語や文字数の都合で、掲載できないものの、一つの物語としてカタチになたものがいくつかあるので、せっかくなので読んでいただけると嬉しいです。

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ウラサン 小説(タイトル仮)


「だめだー、飲まないとやってられない。ってやつ」

普段はあまりお酒を飲まない私だけど、どうにもこうにもならない時は最近こんなことを思うようになった。
職場のおじさん集団は口ばかり達者で手は動かさないし、後輩も返事こそ良いもののまだ半人前で仕事は遅い。

週末の金曜日。いわゆる華金。
おじさん集団は就業のチャイムが鳴ると同時に何人かで飲みに出かけ、後輩も申し訳ない表情をしながら合コンがあると言い、遠慮なく私に仕事を委ねて外へと出ていった。

22時。
自分以外に誰もいないオフィスで真っ白な天井に向かって息を吐いた。

「私だって予定あったのに」

誰も聞いていないけれど、言わないと代わりに涙が出てしまいそうだった。
瞳から雫をこぼす寸前で大きく目をつぶり、取引先へのメールを送る。いつもより改行が多いのは疲れている時の癖だと分かっている。
最後の一文字を右手の薬指で思い切り打ち込み、ノートPCを閉じた。

仕事は終わった。むしろ終わらせた。
気持ち的に、ライフはゼロ。
もうゲームオーバーのような状態だった。


お腹が空いた。
本当なら飲み会に行くはずだったが、仕事がおさまらず、結局今日は諦めた。
夕方に軽くお菓子をつまんで、あとはコーヒーを飲んだだけ。

飲みには行きたいけれど、ご飯もちゃんと食べておきたい。
定食屋だと飲んでる気分も薄まるし、かと言って女性一人で居酒屋に入るのも少し勇気がいる。
悩んでいてもしかたない。
とりあえず、直接駅には向かわずに、飲食店が並ぶ近くの商店街へと向かった。

何回かランチでは寄ったことがあるものの、頻繁に足を運んだことは無い。
適当に歩いて入れそうなお店を探すが、チェーンの居酒屋やカラオケは時間帯もありどこも酔客で溢れている。入口に近寄っただけで絡まれるかもしれない。

どこかいい場所ないかな。
商店街の白熱灯の光の下、顔を赤らめた老若男女が団体となり道を塞ぐ。無駄にぶつかることは酒、水の中の魚のように人の塊の中を進んでいった。
なかなか目ぼしいお店も見つからないまま人混みを避けることにも慣れてきた時、目の前に突然大きな赤い提灯が現れた。

ここは居酒屋?
そう思いながら提灯の奥を覗き込むと、その先には狭い石畳の小道が続いていた。

ここまでの商店街とは違い、アーケードの屋根は無く、夜空の下で暖色系の明かりが小さな一本道を照らしている。
道の両端には飲食店が並んでいるようだが、道の途中にも椅子やテーブルが置かれ、明るく楽しげな声が横からも上からもその空間を泳いでいた。

入口を見上げるど、その通りの名前が書かれた看板が掲げられていた。

「お初天神裏参道?」

華金の騒がしい現実から、いきなり別の世界に、まるでゲームの世界へ入り込んだように雰囲気が変わった。一週間の疲れを少しだけ忘れる。

わたし の ライフ が すこし かいふく した。

夜空の下で、暗いけれど明るい不思議な小道をわたしは進んでいった。
左右には並ぶ店は全て色が違い、賑やかな店もあれば少し落ち着いた雰囲気の店もあるが、どこも落ち着いた明るさを纏っている。
道は狭く、向かいから流れる人と道を譲り合いながら進まなくてはいけないが、先程までの混雑とは違った。それは行く手を阻む人の塊ではなく、お互いがすれ違うたびに違いがハイタッチでもするのではないか、グラスを持っていれば乾杯をするんじゃないかと思うような流れがその通りにはあった。誰もがその空間を一緒に楽しんでいるようだった。

楽しげな空気の中に、時折甘さや香ばしさを纏った美味しそうな煙が混ざっていることに気付くと、自分のお腹が空っぽであることを思い出した。

決めた。
この通りでご飯食べよ。

ご飯も美味しそうだし、お酒も楽しく飲めそうだ。
女性一人で入っても、そんなに浮かないし気を使わないで楽しめそうなお店もあるに違いない。

小さな通りを何度か往復してみるが、どこも繁盛していた。
いくつか気になる店はあるものの、混雑具合を考えると店員に声をかけることを躊躇してしまう。
一人であることで突如現れる、少し寂しげな気持ちが自分の中に沁みていきそうな、そんな時だ。

「お姉さん、お姉さんやー」

少し大きな男の人の声が、通路へと流れた。周りを見渡すが、誰も気にとめる様子は無い。

「お姉さんやて。そこの一人で立ってるお姉さんー」

もしかして、わたし?
少し不安になりながら周りを見渡すが、声の主らしき人物は見当たらない。
何度も左右を確認し、店先や客席を探してみるが、こちらを見ている人物はいない。
やっぱり気のせいなのか。

「下や。しーた」

下?
言われた通り、目線を下に下げながらもう一度左右を見てみると、自分の目線の左下に小さな階段があり、その段差の途中に短髪でメガネをかけて少しヒゲをはやした、逆さ絵から飛び出てきたような顔をした男性がいた。

「やっと気付いたわ。お店探してるんやろ?ここ、一人なら入れるで?ご飯もお酒も美味しいしオススメ」

そう言いながら、男性は怪しく笑いながら手招きをすると階段を降りていった。どうやら地下にお店があるらしい。

ついて行って大丈夫だろうか。
若干の怪しさを感じながらも、わたしの心は気付けば弾んでいて、足は自然と階段を降り始めていた。

なんだか楽しくなってきた。

まるで冒険だ。
RPGのダンジョンへ飛び込むような。

わたしは逆さ絵の男に導かれるまま、地下のお店の扉を開けた。

つづく・・・?

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この物語は、WEBで連載も案として出ていましたが、読み切りと言う形になりました。

実際のパンフレット掲載の物語も読み切りではありますが、また違う話になっているので、ぜひ実物をご覧ください。

いただいたサポートは取材や今後の作品のために使いたいと思います。あと、フラペチーノが飲みたいです。