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#7 ひとりエーゲ海のすすめ。など無い

初めて一人旅でリゾート地に行ったのは、ギリシャのエーゲ海でした。

僕が海外一人旅を愛するのは、独力で進むしかない冒険感や、かけ離れた環境で自己を見つめなおす時間、予想もしない展開や出会いのエンカウント率の高さ、これらがあるからです。

その時僕はちょうどギリシャの首都アテネに戻ってきたところだったのですが、ギリシャ北部にあるメテオラという巨大奇岩群のドラクエのようなエリアから、国境を越えて謎に満ちた国家アルバニアを訪問してきた直後で、自身の旅人ゲージが非常に高まっていました。

そこで、予定には無かったのですが、せっかくギリシャくんだりまで来たんだから、白と青の織り成す建物、コバルトブルーの海、照り付ける太陽―― エーゲ海の島にも行ってしまおうと思いました。


アテネのピレウス港からどでかいフェリーに乗ってまだ明け方の暗い海に向かって出港し約8時間。

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エーゲ海のサントリーニ島に到着しました。

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まるでケーキの上に塗られたクリームのよう。

サントリーニ島は、地図で見ると明らかな、中央部が噴火で吹き飛んだ火山島であり、エーゲ海の他の島は港から白い町が拡がっていくのに対して、この島は隆起した崖の上に町が広がっています。

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そこは誰もが一度は憧れる、白と青の織り成す建物、コバルトブルーの海、照り付ける太陽。そのおとぎ話の世界のような風景の浮世だった感じときたらありませんでした。

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周囲は、ファミリーやカップルや若い女子グループばかりで、リゾートライフをのんびりと満喫しています。

古着のボロいTシャツをまとい、ギラギラと乗り込んできた髪伸び放題無精髭の単身アジア人バックパッカーなんて僕くらいで、小綺麗な柄シャツを買おうかと迷ったのを覚えています。



荷を解いた宿には、フィリピンからハネムーンで来たという夫婦が泊まっていたのですが、彼らは不思議そうな顔をして、

「…なんでひとりなんだ?」

そう聞いてきました。
その時泊まっていた宿で、ひとり客は確かに僕だけでした。

いや、一人旅こそがいいんだ。今までもそういう旅をしてきたし、白壁の町を歩き、その町に思いをはせ、自分を見つめる。そうやってこれまでもやってきたんだ。

「いや、一人旅こそがいいんだ… 今までも… そういう…… so…… 」

何を言っても浮いているのはこちらな気がしました。



そんなサントリーニの中にあって、町の北西端にイアという街があります。島の中でも最も魅力を体現しているその可愛らしい風景は、まるでメルヘン絵本のようです。

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少し歩けば空とのコントラストが抜群に映える教会が現れ、結婚式が行われており、皆が祝祭の笑顔と眼差しを向けていました。

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さらに僕は、イアの街の、さらに最西端に向かいました。なぜならば、人々が皆夕日を見るために同じ方向に向かっていたからです。

ただ夕焼けを見るために町中の人たちが同じ場所に集まっていくなんてことあります?

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旦那の肩にもたれ子供と共に風景をかみしめる母親、背中から彼女を抱き寄せ愛を囁き合うカップル、孫を優しく見つめ赤く染まる町に幸せを見つけ出す老人――  

あと僕。

イアの町から臨む夕焼けはそれはそれは綺麗で、夕日が水平線に差し掛かり沈んでいくと町中から拍手と喝采が沸き起こります。

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なんだこの感情は。
これが寂しいという感情か。

……。

ようやく思いました。
ここは1人で来る場所じゃないんだと。
少なくとも2人以上でやってきて思い出を紡ぎ合う場所なのだと。


風景は最高に美しかったものの、どこか心の穴を抱えて僕は宿に戻りました。


隣の部屋からフィリピン人夫婦の夜の営みが聞こえてきました。


くっ…… なんてこった!
悔しいけど興奮する!


白と青の織り成す建物、コバルトブルーの海、照り付ける太陽――
身を任せていればいいんだ。

エーゲ海に独力の冒険感なんて多分必要ないんだ。
自己を見つめ直すことなんてないんだ。
予想もしない展開なんていらないんだ。

うぇーい。

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東京オカザキッチン|飯と旅
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