
【備忘録】初の企業漫画案件、次はこうしたいレポ
実に長い戦いでした。短いようで長かった3ヶ月間。
読切の40P。企業漫画。
過去に40Pの一次創作同人誌を2冊出したこともあり、
「まあ今回もなんとかなるだろう」と軽い気持ちで、40Pで進めていくことを決めました。しかし。
描いても描いても終わらない。なぜ。
おかしい。過去に40P描いた時はこんなことはなかった。
どうしてこんなに筆が進まないのか。制作中の私は五里霧中で、その原因すら分かりませんでした。
納期は遅延し、当初の目算よりも2〜3週間ほど脱稿が遅れました。
途中で持病の腰痛が再発してしまったのもあり、休み休み進めつつ、作業環境を変更しながらの作画作業でした。
(クライアント様には大変ご迷惑をおかけしました…申し訳ございませんでした)
同人作家の友人や、漫画家の友人にアドバイスをもらいつつ、なんとか途中でペースアップして脱稿にこぎ着けました。
誰かに読んでもらうために、締め切りを設けて漫画を書こうとした方なら、ぶち当たるであろう漫画制作の壁はいくらでもあります。
数多の壁があると思いますが、私が今までそれらをどうやって切り抜けたのかを、抜粋して綴っていこうと思います。
どのように進めていったのか
まずは、今回の案件がどのような経緯を辿って納品に至ったのかを軽くご説明しようと思います。
基本的には、よくある漫画制作のセオリーを辿っています。
1.文章でプロットを作成
私が一からプロットを立てたのではなく、クライアントが提示してくださったおおまかな物語の流れを、打ち合わせを重ねつつ私がセリフや情景などを付け加え、修正しながら詳細に記していきました。書き直しや修正は4〜5回程しました。
2.美術設定、キャラクターデザイン
私は元々個人アニメ制作をしていたので、これはアニメ制作をやってた頃の名残です。
アニメでいう「設定資料」をこの段階で固めました。
キャラデザ、背景、服装、小物など。それらに該当する資料もこの段階で集めました。
早めに提示しておいた方が、ネームも書きやすいですし、クライアントさんもイメージがしやすかったのでは、と思います。
3.適当に描きすぎない、ギリギリ情景や表情が分かるネームを描く
自分だけで制作する同人誌とは違って、仕上がりの想定をクライアントに見てもらわないといけないので、できるだけ分かりやすく。
ですが、書き直しが一番多い段階なので、ネームを細かく描き込みすぎるのはNG。(という私的な見解です)
元々あったシーンが丸々カット、というのはよくありました。
プロット通りに作らなかったシーンの方が多かったです。
最終的に、5~6回は修正したと思います。いや、細かい修正を含めるともっとかも。
4.下書きをすっ飛ばして、線画
1番の反省ポイントがこのセクションでしたが、どんなやらかしをしたのかは後述します。とにかくここの進みが遅かったです。
途中から背景は3Dを使って作画しました。そうでもしないと、今でも終わってなかったと思います。
キャラ作画を一生やってました。
制作期間のうち、半数以上がここに注ぎ込まれていたと思います。
5.ベタ、トーン貼り
最終工程。気合いのゴリ押しで2日半で終わらせました。
最後は誰に言うでもない謝罪の独り言をブツブツ言いながらやってました。追い込まれすぎ。
クリスタのバケツ塗りツールには足を向けて寝れません。
納期遅延の原因になったこと、次はこうしようと思ったこと
1.プロット
今回は同人誌や商業漫画ではなく、クライアントと共同で進めていく企業漫画だったので、このセクションは詰めすぎるのではなく、おおまかなすり合わせとして経た方が早めに完成形が掴みやすいと思いました。
自分だけの制作や、漫画のプロである漫画編集者との打ち合わせでしたら、プロットだけでシーンが思い浮かんだり、おおまかな完成図が脳内再生できると思います。ですが、あくまでそれは百戦錬磨の編集者しか持っていない稀有なスキルなのです。
漫画や小説を普段あまり読まない方とお仕事をするのであれば尚更、視覚的な表現であるネームですり合わせをした方がいいです。思っているよりも早めに。
実際、プロットを詰めて「よし!これなら大丈夫」という境地に至っても、ネームに起こせば「このシーンは再考しよう」「セリフはこうした方が良い」と変更された所が非常に多かったです。
自分の中でイメージを固めるためにプロットを詰めるのは全く構いませんが、それができた上でクライアントとのすり合わせの段階に入ってきたら、早々に設定資料作成やネームに入った方がいいと思います。
2.美術設定、キャラクターデザイン
ここはあまり四苦八苦しませんでした。
多分、アニメを作っていた頃の経験が活きたのだと思います。
逆に言うと、ネームに入る前にこのセクションをすっ飛ばしていたら…かなりやばかったのでは、と思います。
アニメの設定資料風に設定画を作りました。
改善策を言うとしたら、紙に印刷してどんな状況でもパッと見ることのできる状態にしておいた方が、絵柄のブレが少なくなると思います。
3.ネーム
修正が一番多いセクションでした。
原則ここでシーンやセリフを固めました。
線画を描いてから修正…ということが起こるのであれば、大事なシーンの表情の書き込み不足だったということになりますが…。
ネームは、最も重要な漫画の骨子です。線画に入った後にネーム変更の依頼があれば、ほぼ一から作り直しになる場合もあるので、その際は追加料金をいただくし、納期も遅延します、というスタンスで取り組んだ方がいいです。
なぜなら、修正が大きくなればなるほど、該当シーンだけを修正するだけでは物語の辻褄が合わなくなるという事象が発生しかねませんし、納期が遅れてしまう原因にもなります。そうなれば、クオリティも下がりかねません。
線画に入る前に、「本当にこれでよろしいでしょうか」とクライアントに十分すぎるくらいの確認は取るべきだと思います。
例えるのであれば、建物を建てる時に図面を施工者に渡した後、施工が始まった後に変更した図面を渡す、という事象に近いです。
何度も言いますが、線画に入る前にネームは必ず固めましょう。トラブルの元になります。
ですが、クライアントにも理解していただける程度の描き込みをしたネームを作りましょう。大事なシーンで棒人間はだめです。意志がうまく伝わらなければ、後の大幅な修正につながります。
4.線画
ここが一番やらかしたことは先述しましたが…
色々あったのでまずは箇条書き。
下書きをしなかったがために、かえって時間がかかった
3Dになんとなく手を出していなかった
ペンの設定が漫画制作向きではなかった
色々やばいですね。順を追って説明します。
①下書き!!
なぜ飛ばした。なぜなんでしょうね。
これが最大の失敗でした。
多分過去の同人誌はそこまでの書き込みや手数がなかったので、これがなくてもなんとかなってたのだと思います。
ですが。
お金をいただく上で作る案件漫画なら、しっかり仕込みはすべし!
手数が多くなりそうな見込みのある線画は、下書きをおこした方が線画に迷いが起きないので、ほぼ本番の線画に近い下書きを用意した方がいいです。何も考えずに線画をかける、という状態まで持って行った方が結果的にきれいな線が描けます。
私は下書きを描かずに線画に入った所、⌘Z(取り消し)の鬼になっていました。何度も書き直しました。はみ出しも多いし、消しゴムを使うことも多かったです。
よっぽど手慣れていて、連載もずーっとやってる!という方ならここはすっ飛ばしても問題ないのかもしれませんが、自分はまだまだ…という自覚がある方は下書きを徹底的に詰めましょう。遠回りなようで、堅実な道を進むことができます。
②3D
クリスタの3Dは基礎中の基礎さえ覚えれば触ることができる、漫画用に特化しためっちゃ簡単な3Dです。
blenderとか、Mayaのような複雑さは全くないです。
元々標準で入っている素材もたくさんありますし、上記のサイトで配布されている素材もあります。ありがたいですね。
便利な機能はガンガン使いましょう。少しの操作を覚えるだけで作業効率爆上げです。詳細はググってね。
また、ネームの段階で3D素材を使うのも有効な手段です。
③ペンの設定
これまためっちゃ重要。
甘く見ていました。ペンの設定を。
先ほども申し上げたように、私の画風はアニメに影響を受け、その上アニメを作っていた人間なので、線を均一に引く癖がついていました。
アニメの線は基本的に均一なものです。
ですが、強弱のついた漫画用の線を引かないと画面の見栄えがしない、ということに後々気がつきました。
そのため序盤の十数ページを書き直す羽目に…大きなタイムロスになりました。
均一で単純な線を引いても魅力的な漫画を描く方もたくさんいますが、私には難しかったです。
線の強弱は後から付け足すより、筆圧でつけた方が工数も減ります。
漫画家の友人から伝授してもらった、おすすめのペン設定を置いておきます。
作業環境によって、同じペン設定にしても多少変わると思うので、ご参考までに。私の作業環境も記しておきます。
ちなみにipadだと、全く同じ設定にしても書き味が変わってしまいました。
お好みで微調整が必要です。
私が使用している板タブは、筆圧レベルが8192段階ありますが、iPadは1024段階と差がありますので、どちらかというと、この設定は筆圧レベルの感度が高い端末向けです。ipadでの漫画制作は均一な線を引くことの方が得意だと思います。
【PC】 Mac mini 2023 Apple M2チップ
【描画ツール】XPPen ペンタブ Deco LW
【ソフト】clip studio paint EX ver.3.0.4
【iPad】iPad pro11インチ 第4世代


このペン設定はどういう仕様なのかを説明しますと、ある一定の弱い筆圧で書くとかなり細めになり、力を入れるとグッと太い線が描けるような仕様になっています。割と振れ幅が広いですね。
筆圧レベルの段階が多めの液タブ、板タブ使用者の方はぜひお試しください。
4.ベタ、トーン
気合いをフル稼働して2日半で終わらせたので、あまり言うことはないのですが…
このセクションに取り掛かっていた時は、疲れすぎて満身創痍に近い状態だったので、頭があまり回っていませんでした。
なので、脱稿した後にトーンの貼り忘れをしている箇所が多く見つかり、微調整をしました。
ベタ、トーンをケアレスミスなく済ませるには、スケジュールに余裕を持って、落ち着いて進める。
まあ、当たり前のことなんですけどね…笑
クリアな頭でやれば、ミスも減ります。
本来ならたった2日半で済ませるものではないと思います。
余裕を持って3〜4日くらい見ておきたいです。
5.番外編 腰痛再発
これも大幅な遅れの原因でした。
爆発(ヘルニア、ぎっくり腰の再発)には至らなかったものの、これはやばい…という状態まで行きました。
昇降デスクを導入して、1時間おきくらいに立ったり座ったり、を繰り返していたら腰が爆発せずに済みました。
1時間おき、というのがミソです。立ちっぱなし、座りっぱなし、どちらも体に良くないです。
なので、電動式の昇降デスクがおすすめです。昇降が楽なので。
立って作業をすると、眠いとき目が冴えるのでおすすめです。
個人的には、これがあればめっちゃ高い椅子(ハーマンミラー、オカムラなど)は買うまでもないのでは、と思っています。
あとはもう少し運動をがんばりたいです。
まとめ
結構きつかったので「もう描きたくねぇ…」となっているわけではなく。
これだけ改善策があると次の漫画制作がすごく楽しみです。もっといい作品が作れるかもしれない、とわくわくしています。
今回は企業漫画案件向けの備忘録を書きましたが、所々同人誌や商業誌にも活かせるのでは、という点もあるので、これからもメキメキと上達していきたい所存であります。
2024年10月現在、納品した漫画はまだ非公開ですが、URLや一部ページ、資料の掲載許可が下りればまた公開したいと思います。
では、ここまで読んでくださってありがとうございました!