#4 「病院出たら泣いてもいいよ」
先生から説明を受けて全ての検査の日程が決まり、
その先の入院・手術・治療の事も頭に入れて置くようにと言われ診察室を後にした。
岡「やっちったぁ」
これが診察室から出て一番最初の言葉。
ニュアンス的には何かとんでもない事をやらかした感じだった。
今の状況がまだ把握してきれてないが、とりあえずマネージャーと弟にはそれとなく連絡をした。
まだわからないけどがんの疑いがあるみたいだと。
ゆ「病院出たら泣いてもいいよ」
ゆうちゃんはそっと手を握って言ってくれたが
正直涙はない。
悲しい、寂しいよりも怖いが大きかった。
死ぬのが怖い。死んだらどうなっちゃうんだ?
この先の治療とかどうなるんだ?
手術で治るのか?
日が少し暮れた帰り道。
ゆうちゃんは明るく話しかけてくれた。
ゆ「夜ご飯なににする?」
岡「何にしようかね…」
ゆ「お肉食べよう!久々にガッツリさぁー」
岡「いいね…」
ゆ「明日は何する?なんか楽しい事しようね!」
岡「何しようかね…」
ゆ「まだガンって決まったわけじゃないもんね。」
岡「…そうだね…」
ゆ「あっ!自転車、朝の病院だぁ!取りに行かなきゃ!
よし、取りに行こー!」
岡「うん…」
明るく振る舞うゆうちゃんとうまく答えられない岡安は電車とバスを乗り継ぎ、自転車を取りに朝の病院に戻った。
朝の病院をタクシーで出る時は駐輪場に沢山並んでいた自転車。戻った時には2台だけが寂しく置かれていた。
朝を思い出す。
あの時は元気だったなぁ…
『オープン時間』ってなんだよ…
ゆうちゃん、病院は『受付時間』だよ…
『悪いものじゃないと思いますが…』
朝の病院の先生…
めちゃくちゃ悪いものが見つかったかもです…
自転車に乗って帰る二人の会話は空気の抜けたゴムタイヤのようにぺっちゃんこで全然弾まない。
ボーっとして道を間違えてしまった。
ゆ「おかちゃん、どこに行くの?」
岡「ごめん、間違えちゃった…」
どこに行くの?
あっ俺がどこか別の世界に行っちゃうのか?
…怖い…
家に着いて靴脱いで…
手を洗い、うがいして…
部屋着に着替えた…
すると、何かの糸が切れたように力が抜け、
じわっと目の前が滲み出し、
一粒の涙が頬を伝ったのを合図に多量に溢れ出てきた。
呼吸も不規則に大きな声でボロボロと泣いた。
自分の命が終わってしまう恐怖と
みんなと離れ離れになってしまう哀しさで
涙が止まらない。
ゆうちゃんは体をギュッと寄せて言う
ゆ「泣いていいよ、いっぱい泣きな、怖いよね、そうだよね。
大丈夫だよぉ…ううぅ」
一緒に泣いてくれた…
つらいよ、もうどうしたらいいんだよ…
つづく