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指揮命令権の所在:偽装請負とは

業務の効率化やコスト削減のために、企業や自治体が業務を外部に委託するケースが増えています。しかし、外部に委託する業務の運用や、その仕組みの理解が不足している場合、労務管理に重大な問題を引き起こすことがあります。その一つが「偽装請負」です。本記事では、偽装請負の概念やその問題点について考慮します。

偽装請負とは

偽装請負とは、形式的には請負契約を装いながら、実際には労働者派遣と同様の業務形態を取ることを指します。労働者派遣と業務委託(請負)は、それぞれの業務運営方法や指揮命令系統に明確な違いがあります。これらの違いを正確に理解することが、偽装請負の本質を理解する第一歩です。

労働者派遣と業務委託の違い

労働者派遣

労働者派遣は、労働者派遣契約に基づき、派遣元(派遣会社)の労働者が派遣先(受け入れ企業)で業務を行います。これに際しては、派遣先が労働者に対して直接指示を出し、業務を管理します。指揮命令権は派遣先にあります。

業務委託(請負)

業務委託は、業務委託契約に基づき、委託元(発注者)が委託先(請負業者)に業務を依頼します。委託先は指定された成果物や納品期限に従って業務を遂行しますが、業務のプロセスや運用方法は委託先に委ねられます。指揮命令権は、委託先にあります。


偽装請負の問題は、表面上は請負契約に見えても、実際には派遣と同じ状況が発生している場合に起こります。これは、労働者派遣法に違反する行為であり、違法性を帯びた労働環境を生み出す危険性があります。

労働者派遣法が存在する理由は、労働者の保護と健全な労働市場の維持を目的としています。指揮命令権の観点からいえば、「派遣労働者は派遣先企業の指揮命令を受ける」との取り決めは、適正な労働条件や待遇の保障、不当な扱いを防ぐことを目的としています。また、指揮命令権を明確にすることで、派遣労働者、派遣元企業、派遣先企業の間の雇用関係を明確にし、労働者の権利と義務を保証しています。これにより、市場における労働の健全な運営を促すことが、労働者派遣法が存在することの意義です。

偽装請負の具体例と問題点

具体例:大津市の事例

2022年、滋賀県大津市の職員が、上司から偽装請負の実行行為を強要されたとして、市に対して損害賠償を求める裁判を起こしました。この事件は、近年における、偽装請負の典型的な事例として注目されています。

背景

50代の女性職員が教育委員会に配属されていた際、人権・生涯学習の推進事業に関する業務委託先の職員に対して直接指示を出すよう上司から命じられました。この度の場合は、女性職員がその違法性を指摘したが解決されず、結果、人事評価を下げられたり、異動を命じられたりしたとの内容をもとに、訴訟が起こされ表面化しました。

判決

裁判所は、委託先の職員に直接指揮命令を行うことが偽装請負に該当すると認定し、市に22万円の賠償を命じました。結果この判決は、業務委託の適正な運用に対する重要な指針を示す事例としても評価されることになりました。

この事例は、業務の指揮命令権がどこにあるかが、偽装請負の判断基準であることを示しています。その所在をもとに適切な労務管理を行わなければ、委託元は、法的なリスクを負うことになります。

偽装請負の発生原因

偽装請負が発生する主な原因は以下の通りです:

1. コスト削減の圧力

企業がコスト削減を目的として外部委託を選択する場合、委託先に対する管理を強化しようとする傾向があります。これが過度に進むと、指揮命令権が実質的に委託元に移行し、偽装請負が発生します。
前提として、業務委託に際しては、BPO(Business Process Outsourcing:プロセスを委ねる)との表現にもある通り、成果物が期限内に納品されることを前提に、プロセス(どのような仕方で成果物を作成するかを踏まえた運用)は、委託先に委ねられるものであると理解することが重要です。

2. 業務の複雑化

高度な専門知識や技能が必要な業務を外部委託する場合、委託元が業務内容や手順について「詳細の説明を超えた指示」を出そうとする場合が考えられます。それをどのように生かすかは委託先の判断ですが、過剰な干渉は委託先の自主性を侵害し、偽装請負の状態を生み出す可能性があります。

3. 労務管理の不備

委託元が委託先の労務管理を適切に行わない場合、労働者の指揮命令系統が不明確になり、偽装請負のリスクが高まります。例えば、委託元が委託先に、(事前に合意のある)委託先の営業時間を超えた対応を求める場合が、これにあたります。

偽装請負のリスクと影響

偽装請負が発覚するリスクや影響には、以下の内容が考えられます。

1. 法的制裁

前述の通り、偽装請負は労働者派遣法に違反する行為です。違反が認定されると、罰金や業務停止命令などの法的制裁を受ける可能性があります。

2. 企業の信用失墜

偽装請負が明るみに出ると、企業や自治体の信頼性が損なわれ、社会的信用を損なうことになります。またそれが、その他の顧客や取引先との関係にも悪影響を及ぼす可能性があります。

3. 労働者の士気の低下

偽装請負の環境下で働く労働者は、不適切な労務管理や不透明な指揮命令系統によるストレスを感じ、士気が低下する可能性があります。これにより生産性や品質の低下、委託先従業員の離職を伴う不利益を被る危険が考えられます。

偽装請負を防ぐための対策

偽装請負を防ぐためには、以下のような対策が重要です。

1. 明確な契約内容

委託契約を結ぶ際には、業務内容や納品期限、成果物の定義を明確にし、指揮命令権が委託先にあることを明示・理解することが必要です。

2. 適切な労務管理

委託先の労務管理を適切に行い、労働者の指揮命令系統が明確である状態を維持します。必要に応じて定期的な監査や評価を行い、労務管理の改善点がないかを確認します。

3. 教育と啓発

委託元社内の管理職や担当者に対して、偽装請負のリスクや対策についての教育を行い、適切な運用を促します。また委託先であるサービス提供事業者においても、適切な労働環境の維持の視点をもとに労働者の適正な認識を養うことが重要です。

4. 専門家の知見の活用

労務管理や法律の専門家の知見を活用し、契約内容や運用方法の適正性を確認することから、リスクを未然に防ぐ体制を整えることが重要です。

まとめ

偽装請負は、適切な労務管理を怠ることにより発生する重大な問題です。企業や自治体が外部委託を行う際には、業務の指揮命令系統の取り決めを明確に理解し、適切な契約内容と労務管理を徹底する視点や仕組みを持つことが重要です。適正な運用を行うことで、偽装請負のリスクの回避はもとより、労働者の働きやすい環境を確保することができます。この視点に際して重要なのは、委託元や委託先の如何を問わず、法令に代表される社会の仕組みをもとに、それを適正な仕方で活用することです。

指揮命令権、偽装請負に関して、インターネット上に公開されている情報を確認したところ、要点を踏まえてはいるが、一方的な否定や一部問題の強調、代替案や考慮の視点のない記事も見受けられました。「指揮命令権、偽装請負」といった言葉の表現についていえば、本記事でも考慮したように、それ程難しい意味合いではないと、私は考えます。

必要に応じ、ご確認ください。❀

適正な指揮命令

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