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田辺雄二42歳〜そして伝説へ〜
私の名前は、田辺雄二。42歳。彼女なし。40歳を超えて、なんだか腰が痛くなってきたどこにでもいる普通のサラリーマン。与えられた仕事を機械的にこなす毎日。嫌な気はしません、普通が1番だからです。私には"普通"くらいがちょうど良い。なぜなら、ただの中年だから。
そんな私ですが最近、転職して勇者になりました。
前々から転職は考えていたんです、デザイナーや建築関係、思い切って夢だった漫画家など、色んな人に相談して悩みに悩んだ挙句勇者になりました。
ちなみに、ここで私が言っている勇者というのは、RPGなどに出てくるガチな勇者のことです。私はガチな勇者になりました。
つまり、伝説の勇者です。
言い方を変えると、伝説の田辺雄二。
そして、伝説の42歳。
そして、伝説のバツイチ。
勇者の私には特技があります。薄記三級や、タスクを管理したり、剣に雷をまとわせたり、Excelで資料を作成したり、大地を切り裂いたり、色々できます。と言っても、雷をまとわせたり大地を切り裂くのはできるか分かりません。しかし、いつかはできるでしょう。というのも私はまだ勇者になって二ヶ月しか経っていないのです。
実は二ヶ月ほど前に、私はこのRPGの世界に召喚されました。
どうやって召喚したのか、なぜ召喚したのか特に説明はありませんでした。このRPGの世界に来てすぐの頃の私は、訳も分からないまま王の元へ案内されました。
王「おぉ、お主がこの混沌の闇に包まれた世界を救うためやってきた伝説の勇者か」
田辺「違います」
王「お主が、伝説の勇者の血を引く者だな」
田辺「違います」
王「さぁ、魔王を倒しに行くがよい」
私が勇者?
そんなわけがない。なにより私が伝説の勇者の血を引き継いでいるわけがない。
ただのB型だし。
そしてなにより、腰痛持ちの伝説の勇者なんているはずがない。
なので私は、勇者ではないと王に伝えようとしました。しかし相手は王様。怒らせたら最悪死刑も考えられます。しかし、サラリーマン時代に上司の頼みを怒らせないよう上手く断ってきた私なら、この状況を切り抜けられるはずです。
田辺「王様、申し上げにくいのですが、私は勇者ではありません」
王「さぁ、魔王を倒しにいくがよい」
田辺「こんな私が勇者なわけがありません。ただの一般人です。私が魔王討伐などできるわけがありません。途中の魔物に倒されてしまいます。なので王様、どうか私にご慈悲を…」
王「さぁ、魔王を倒しにいくがよい」
私が元いた世界では考えられないほどのパワハラでした。
こっちの世界に来たばかりの奴にそんな大事なこと頼むなよ。
社運をかけた一大プロジェクトを研修期間中の奴に任せるようなもんです。
私は断れず、支給された棍棒を受け取り魔王を倒すため冒険に出ることになりました。しかし、心のどこかでもしかしたら本当に勇者かも、という期待感もありました。
町を出てすぐの草むらにスライムがいました。弱そうです。これなら私にも倒せそうだ。
戦闘が始まりました。
スライムはこちらの様子を見ている。
私の攻撃。棍棒を振り上げる、が腰に激痛が。
私は、腰に深刻なダメージを受けた。攻撃できず。
スライムはこちらの様子を見ている。
私の攻撃。腰を庇いながら棍棒を振り上げる、が肩に激痛が。
私は、四十肩に深刻なダメージを受けた。攻撃できず。
スライムの攻撃。命中。
私は、出血。突き指。切り傷。擦り傷。裂傷。内出血。打撲。捻挫。脱臼。あばら4本。アキレス腱断裂。靭帯損傷。筋肉および腱の肉離れ。筋肉および腱の断絶。のダメージを受けた。
私はなんとか逃げることに成功し、傷だらけの体を癒すため宿に泊まりました。激痛に耐えながら眠りにつき、朝目が覚めると私は驚きました。あんなにボロボロだった体の状態が、一晩宿に泊まっただけで嘘みたいに悪化していました。
私はこの世界で異質な存在。回復すると思ったが、どうやらこの世界のルールが私には適用されないようでした。仕方なく、体をひきづりながら道具屋で薬草を買ってきました。塗ればいいのか飲めばいいのか分からず、とりあえず塗ってみると何の効果もなかったので、薬草をそのまま飲み込んでみました。すると数分経ち効果が現れ始め、みるみるうちにお腹を下しました。この時点で、勇者かもという期待は完全になくなっていました。
そして、RPGだから死んでも復活するだろうと思っていたので危ないところでした。もしあのままスライムに倒されていたら、この世界では伝説の勇者=伝説のカスという認識になってしまいます。
私は、大人しくしていようと決めました。
二ヶ月経ち体の傷が回復した頃、王の使いが私の元へやってきました。どうやら城に来いとの命令でした。
嫌だ。また冒険に行かせられる。あんな恐ろしい思いは二度としたくありません。行かなくてもいい理由を必死に考えました。
田辺「今日おじいちゃんの葬式があるので勇者休みます」
私は、勇者をサボろうとしましたが、無理やり連れて行かれました。
城に着くと王様に、勇者の剣の元へ案内されました。勇者の剣とは、王様いわく勇者にしか引き抜けない剣とのこと。
よかった。これで勇者ではないと証明できる。
そう思いながら、勇者の剣を掴んで上に引き上げると簡単に抜くことができました。どうやら、私は本当に勇者だったのです。
信じられませんでした。
そして現在、私は旅の支度を終えて二度目の冒険に出かけました。勇者の剣と共に自信を手に入れた私には恐れるものなどありませんでした。
町を出てすぐの草むらにスライムがいました。以前の私ならびびっていたでしょうが、今の私なら大丈夫。こんなザコ敵怖くありません。なぜなら私はこの世界を救う伝説の勇者なのだから。
戦闘が始まりました。
スライムはこちらの様子を見ている。
私の攻撃。勇者の剣を振り上げる、が肩も腰も痛くない。いける!命中。
スライムはダメージを受けた。
スライムの攻撃。命中。
伝説のカスは力尽きてしまった!