支援者とつながる方法
今思えば幸運だったこと
障害者雇用の就活は当事者ひとりでするのはなかなかたいへんです。だからといって、いきなり公共の窓口に相談に行くのも敷居が高い。いったい何からどうすればいいのかわからない場合も多いと思います。就職はいずれしたほうがいいかもしれない。でも今すぐそんな気分になれない。そういう人もいると思います。
たろうも通信の高校を四年半かけて卒業し、大学受験をめざしたものの断念。それからとりあえず就活すると言い出したのですが、先の見えない不安な状態でした。ほんとは働きたくない気持ちもあったかもしれません。だからといって、何するでもない今の状況も受け入れがたいようでした。中学からずっと、もうじゅうぶんひとりで考え続けてきたので、そろそろどうにかしたいといちばん願っていたのはたろう自身だったのかもしれません。
そんなたろうにとって幸いだったのは、早い段階から今のありのままの状態を話せる相手がいたことでした。
医療とつながる
不登校時にたまたま体調を崩し、救急車で運ばれた先の小児科の医師との出会いが始まりでした。その医師が思いがけず母親であるわたしの話をとてもよく聞いてくれたのでした。当時ガリガリに痩せていたたろうのようすが尋常でなかったからかもしれません。退院後、しばらくわたしだけがたろうの話を聞いてもらうために通院しました。そのうちたろうもいっしょに来るようになりました。そうして少しずつ時間をかけて信頼関係を築いていきました。
学校とのかかわり
同時に、中学の担任にすすめられ、わたしはスクールカウンセラーの先生と面談することになりました。何度も固辞していたのですが、担任の先生が忙しい中粘り強く訪問してくれるので、ふとその気になったのでした。
わたしはカウンセラーという職業の人に会うのははじめてで、正直期待していませんでした。ところがやはり相手はプロでした。初対面のわたしを緊張させることなく熱心に話を聞いてくれました。そして思いがけずねぎらいのことばをかけられ、わたしははからずも泣いてしまったのでした。そのとき、わたしはだれかに何かしてほしかったわけではなく、ただ話を聞いてもらいたかったのだと気づきました。
カウンセラーや医師とはたしかに相性もあります。プロとはいえ同じ人間です。それぞれ癖や欠点があります。人格者で優しくなければカウンセラーや医師になれないわけではありません。なかでもカウンセラーは話を聞く技術を持つプロです。人の話を聞くことは案外むずかしい。はじめて会う人ならなおさらです。人の話を聞くには技術が必要であることを思い知ったのでした。それからわたしはスクールカウンセラーの呼びかけで集まった不登校母の会に参加しておしゃべりするようになり、ずいぶん救われました。
発達障害者支援センターとつながる
その後、小児科医師に精神科の医師を紹介してもらい、精神科で発達障害と診断され、定期的に通院するようになりました。
たろうのからだはとくに病弱というわけではありませんでしたが、やはり人がたくさんいるところや物音に敏感で疲れやすく、睡眠も不安定なので、昼夜逆転しては過眠になるので、学校に通うことはできませんでした。
こうした特質を理解できず受け入れられないこともまた、大きなストレスになっていたようです。
医療とは別に、わたしは発達障害者支援センターに相談に行きました。
中学を卒業して義務教育が終了すると、スクールカウンセラーとのつながりがなくなって心細かったからです。
発達障害者支援センターは当時まだ新しく、以前は自閉症の相談窓口だったのですが、いつの頃からか発達障害の相談ができるように変わっていました。相談の予約をすると、たっぷり面談時間をとって、これまでの経緯をくわしく聞いてくれました。家族三人そろって行きました。ここで出会った担当の支援相談員Yがその後長年にわたってたろうを支えるチームの中心的存在です。
発達障害者支援センターというのは各都道府県に設置されることになっています。活動には地域差があり、場所によっては利用しにくいところもあるかもしれません。
たろうは定期的に面談をして近況を報告したり、当事者会に参加しています。障害者支援センターYの紹介で地域生活支援事業の日中一時支援を受けるようになりました。これもさまざまなものがあるのですが、たろうが利用しているのはフリースペースカフェで、ときどき集まっておしゃべりやゲームをするような居場所です。この事業の責任者は精神保健福祉士Nで、たろうのよき話し相手のひとりです。のちにたろうがお世話になる就労移行支援事業所のサービス管理責任者に就任することになり、N同様長いおつきあいになります。
話し相手はどこかにかならずいる
人のつながりを求めて積極的に活動したわけではありません。たまたま苦し紛れにたどりついたご縁が結果的に長いおつきあいになったに過ぎません。どちらかといえば引っ込み思案で人見知りな家族です。安心して話を聞いてもらえる場所を見つけられたことは幸運でした。
この頃は、お金を払えば相談にのってくれるコンサルタント業が盛況です。手っ取り早いしあとくされなさそうで便利なサービスだと思います。私的な相談ほど身近な人にはしにくいものですから。
たろうはスピーディに解決することはできなかったけれど、地味な日々の積み重ねで安心と信頼を獲得してきました。少しずつ貯金してきてよかったと思っている人と似ているかもしれません。
どこでどんなふうに人とつながるかわからないものです。<六次の隔たり>という仮説では、知人を6人たどればどんな人ともつながれるといいます。話し相手はどこかにかならずいます。
そしてこうでないといけない方法もありません。
自分にできることを気長に続けていけるといいなと思います。
何をすればいいかわからない方は、まず支援者とつながる方法を考えてみてはいかがでしょう。