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ホグワーツ城とリアルビール
かじかむ手で冷たいプラカップを持ち、震えながらビールをぐびぐびと流し込む。紙に包まれた小さなミートパイをがぶり。あたたかく優しい味がして、ほんのわずかな暖を取る。
正月のUSJは尋常ではなく混んでいて、それでも子どもたちはとびきりの笑顔を見せてくれた。テーマパークは、ほんとうは親にとってのご褒美。かわいい子ども達とのかわいい記憶を濃縮して体内に取り込む。
乗り物が苦手な私とライド系を好む家族ゆえに、よく待機時間が生まれる。私はそれが好きだ。にぎやかなパークをひとりで自由に練り歩けるから。
極寒だが、家族をハリーポッターのライドに送り出した後、私は売店で酒を買う。こんなに寒いのに冷たいビールしかない。列の後ろにいた若いカップルに「リアルビールww」と笑われる始末。
しかし、夜のホグワーツ城を眺めながらの冷たいビールと温かいミートパイは完璧だった。
荘厳な作り物の世界で、「こんなの!ほんものじゃん!」と見知らぬ子が叫ぶ。母親とおぼしき女性が「そうだよ」と優しい笑顔で応える。
しあわせとは、たとえば魔法の杖を4900円で買わされることなのだ。貧乏性の私の価値観では理解できない代物だけど、それを上回る愛情で買うんだ。「今日しか使えない棒じゃん」って内心は思っているけども、とびきりの笑顔で魔法の杖を振る娘には4900円を遥かに超える価値がある。みんな、この時間を買っている。
ホグワーツ城に見守られながらミートパイの最後のひとくちを口に放り込み、ビールを飲み干す。あとは家族が戻るのを待つだけだ。