アラフォーの背肉、お胸になる(ブラデリスの話)
背肉が、お胸になった。
谷間が出来た。
きゅっと、気持ちが上を向いた。
気を抜くと、アラフォーポエムを書いてしまいそうだ。私は少女のような心持ちで、これを書いている。誰かの背肉にも今すぐ伝えたくて。
木曜日。急遽、子ども達が実家へ遊びに行くことになった。祝日だけど夫は仕事で、つまり、私には一人きりの時間を過ごせる完全フリータイムが到来した。
平時ならフリータイムは銭湯一択だが、このご時世ではちょっと怖い。さっと行けて、満足度が得られる場所はないか。携帯のメモから、いつかやりたいことリストを出し、素早くスクロールしていく。
「ブラデリスでブラを買う」
そうだ、それがあった。運命に導かれるように、急ぎ足でお店に向かうことにした。
※きっかけになった記事はこちら
この岸田奈美さんのnoteを読んだときは、え!すごい!いいな、と素直に思った。けれど岸田さんは20代のぴちぴちで、こちとら産後10年のアラフォー。ハリが期待できない肉体。最寄りのお店はちょっと遠いし、まあいつか…とリストに書いたきりだった。
そもそも、産後のブラ選びの基準なんて「いかに早く乳が出せるか」だ。ゆったりとした、カシュクールみたいな授乳ブラ。社会復帰時にブラジャーは買ったが、ゆっくりフィッティングなんてできるはずもなく、ネットで買ったウンナナクールやアウトレットのトリンプだった。そうしてまた妊娠。※くりかえし
母乳で極限まで膨らんだ胸は、ほんの一瞬の巨乳時代を経て、風船みたいにしぼんでしまった。谷間なんて夢のまた夢。銭湯に行けば同じような形の胸をしたおばさんがごろごろいて、そんなもんなんだろうと諦めがつく。
いつからか、UNIQLOのブラとかイオンでも売っているノンワイヤーブラをつけていた。ノンワイヤーブラは胸が盛れるもので結構よかったのだが、あっという間に生地が伸びてしまった。そうしてまたUNIQLOへ。
そんなことを10年もしているのだから、私の乳の解散具合は相当なものだ。ブラデリスに対しても期待半分・恥ずかしさ半分。でも好奇心が勝ったから、えっちらおっちら、お店まで足を運ぶことになった。
店舗は百貨店の4階にあった。高そうな下着屋といえば、立ち入りにくいイメージだったのだけど、ひっきりなしにお客さんが出入りしている。周りのショップはガラガラなのに、ブラデリスには女性が吸い込まれていく。予約もしていなかった私は、20分ほど待ち、ようやく順番になった。
ではこちらへ。と案内された場所には試着室がいくつも続いていて、不思議の国のアリスみたい。ちょっと試着してみよ、みたいな気軽さではない。やり遂げるぞ、という気持ちになる。
はじめに手渡されたカルテには「当店を知ったきっかけ」という欄があり、SNSにチェックを入れる。採寸中に「SNSで知ったんですね」と言われたため、「はい、noteで」と答えたら、「ああ、メロンのですか」と返された。とても話が早くて助かる。
鏡に映る私は、全身がほんとうにぶよぶよで、見るも無残。重力とは、という体をしている。付けていったブラも明らかにサイズが合っていない。ちょっと悲しくなるけれど、お姉さんは慣れた様子でテキパキとゴム手袋をはめ、「ちょっと失礼しまーす」とブラデリスのブラを私に装着する。
言われた通りに90度のおじぎをして、脇から肉を入れてもらい、ブラの付け根を持ちながら上体を上げたら鏡の中がエライことになっていた。なんじゃこりゃ。谷間。モリモリの胸。
もっとグイグイ入れて固めて…みたいな大変なものを想像していたのだけど、ちょちょいのちょいで私の胸は大集合していた。
「魔法使いみたいですね」
思わず、お姉さんにそう伝える。書いてみると気持ち悪いこと言ってるな。でも本当に魔法みたいだった。背肉がすっきりして、胸にくっきりと肉が乗っている。
ちょっと溢れそうなので…とお姉さんに言われるまま、深めのカップver.を試す。乳が溢れる、その言葉を反芻して、私はもう満足していた。
次の予定まで時間が無いことを伝えると、せっかちな私に合わせて最速ですべてを案内してくれた。ブラ2つ、ショーツ1つ、ナイトブラ、何かもう一個パンツを買った。太ももとお尻の境目ができるパンツらしい。そんなもの私の体には若い頃から無い気もするけれど。
ブラ1つなら1万円位、なんだかんだで買ったから約3万円。今更モテたいわけでもないし、誰かに見せる用事もない。それでも迷わずに購入したのは、「自分のためになる」と思ったからだ。
背中の肉が姿を消し、お胸になり、メロンとまではいかないが、それなりの谷間が出来た。胸が大きくなると、胸を張り、すっと背筋が伸びる。きっと、何か嫌なことがあっても「でも、私いまEカップだし」と心の中で開き直れる。
そういう、生きるためのお守りに3万円を払ったのだ。帰ったらすぐにナイトブラに着替えて、新しいブラを棚に仕舞った。明日になるのが待ち遠しい!なんて気持ちもブラを買ったらついてきた。
私はうきうきとワンピースを着て、胸を張って今日を過ごす。