寂しい夜を忘れない
真っ暗な寝室で、子どもの寝息を聴く。
あたたかい布団と小さな寝息は、私を安堵させる。「寂しくない」という事実を噛み締める。
時折、思い出す夜がある。
大学で一人暮らしをしていた時、気が狂いそうなほど寂しい夜があった。いつも誰かが遊びに来ていた部屋に自分しかおらず、冷蔵庫が低く唸りをあげる以外、しんと静まり返っている。長く片想いしていた人と、「応援する」と言っていた友人が付き合っていたと知り、心の底からぞくぞくと寒かった。
寂しい。天井を見上げて思わず口に出してしまうほど、寂しい。ベッドに仰向けになり、目を瞑った。足元にコンポ、枕元にテレビがあって、部屋の狭さも、寝具の色も、ありありと思い出せる。寂しくて、どうしようもなくて、眠れなかった。
脳内にこびりついたあの夜を思い出し、寝息が聴こえるこの夜に「寂しくない」を実感する。
大きなダブルベッド、あたたかな布団、小さな寝息。自分が大好きな人たちが、自分のことを大好きだと言う。ぜんぜん、寂しくない。