未来のおつまみ

2030年、娘がハタチになったとき、行くべき店は決めている。

駅から少し離れた古い焼き鳥屋は、私と夫のお気に入りだ。すでにだいぶ古いからあと11年もってくれるかわからないけれど、この間行ったときは歳を取った店長の側に娘婿っぽい人もいたし、きっと大丈夫。

夫と私は席に着くなり迷わずビールを頼み、息子はまだ17歳だからコーラで、娘には何がいいだろう。生搾りグレープフルーツハイ?梅酒のソーダ割り?

付き出しのキャベツにソースとマヨをべったりつけて、手でパリパリと食べながら、大学や高校の話を聞く。答えてくれないかもしれないから、そうだな、昔話でもしようか。

息子がいつまでも「遊具」を「ゆうぶ」だと言って譲らなかったこととか、娘が寝言で「ハンバーグー!」と絶叫したこととか。でようでようすごいへやへ、という2人のオリジナルソングも、ちゃんと覚えておかなくては。

大きな声でハタチの乾杯をしたら、一体どんな気持ちになるんだろうか。

夫はきっと「これこれ」と言ってアスパラを丸々一本揚げたものを4つ頼む。私はレバーとハツ、それからつくねと皮も外せない。そのとき娘と息子は、何を頼むだろう。想像しようとしても、大人のふたりが浮かんでこない。

ガラガラと引き戸が開き、「入れる?」と中を覗きこむお客さんと「すみませーん満席ですー!」と声をかける店員さんのやりとりを横目に見る。予約しといて良かったね、とニヤつきながら、私たちは賑やかな店内で揚々と焼き鳥を食べ、ビールを飲む。もうすぐ9時だ!なんて気にしなくていいよ。だってもう大きいもの。

アスパラの1本揚げは、きっと最後にやってくる。サクサクの頃をまとっていて、ええこんなに食べられないよ!と言ってもぺろりと食べられてしまう。母はビールをもう1杯、いいでしょお祝いなんだから、と夫を肘で小突く。

ゆっくりゆっくり、お腹がいっぱいになるまで食べたら、最後は娘に水を飲ませて、どうでした?って聞いてみよう。これから始まるハタチへの期待に、娘の頬が上気していたらいい。

それから、ほろ酔いの頭を外の空気で冷やしながら、家まで4人で坂を登ろう。

#夜更けのおつまみ #家族 #妄想

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