絵を描くことと脳と体と心と、脳と体と心と絵を描くこと
描くことで私たちの脳や体、心にどんな恩恵があるのか」という話を通して、上手い下手に関わらず、絵を描くことでどんなメリットがあるのか調べた記事です。ただし書いたのは専門家でもない、心理学科出てはいるけど学士レベル(しかも卒業できたのが奇跡レベルの落ちこぼれ)の一般人です。
絵を描くことで得られるいろんな効果
「drawing improve brain」とか思いつくキーワードで検索してみたのですが、見つかる情報としては大体こんなところ。
・手を動かすことで脳を鍛えられる
・観察力が向上する
・集中力&忍耐力が高まる
・運動能力の向上
・記憶の定着を助ける
・コミュニケーション能力を高める
・空間認知能力を高める
・創造力を高める
・癒やしの効果
◯精密に手を動かすことが脳を鍛える
これは会員限定だけど、割と最近のNY Timesの記事。手作業は脳を刺激し、鍛えてくれるという話が紹介されています。
ものすごくざっくり言うと、
・編み物やガーデニング、塗り絵などの手作業をすることで記憶や注意力が向上し、不安や抑うつは低減する(ただし、手先を動かすこと自体の効果なのかは検証が必要そう)。
・手で文字や絵を描くと、タイピングよりも脳がよく働く。手を複雑に動かす行為が加わることでより脳が鍛えられ、注意力や記憶の形成、問題解決能力などにも関わる脳の衰えを軽減できる可能性。
ということらしいです。
これは手で文字を書くことの恩メリットについてのTEDトーク。
手書きの文字なら、真っ直ぐ線を引く、トメハネ払い、カーブやまるっとなるところ、などいろんな動きがあります。一方キーボード入力だと全て同じ「ポチッ」で済んでしまうので、脳のお仕事はそのぶん狭まってしまうみたい。
例えば漢字を覚えたいとき、手で何度も書いたほうが記憶にしやすい実感があると思います。
鉛筆や箸などの道具を自由自在に動かすことは「精密把握」と呼ばれていて、やはり脳を育ててくれると考えられているようです。
話が横道にそれますが(読み飛ばしていいです)脳はとてもデリケートで複雑な器官なので、「こういう活動の時に脳のどのあたりが使われているか」を調べるのは簡単ではありません。パカって開いてみるわけにはいかないので。
そのため脳の研究の歴史の中では、脳の特定の部位が損傷するなどして機能しなくなった人の症例が大切な手がかりになっていました。
例えば「脳のとある部分を損傷してしまうと言葉を話せなくなる」ということがわかれば、損傷してたその部分は言葉を話すことに関係した領域だと推測できます(個人的に、これを「ごん、お前だったのか現象」って呼んでいます)。
今はそれに加えてPETとかMRIとか、もっと簡単に脳の活動を測る技術が生まれていて、脳の研究がますます捗っているみたい。
「たかが絵を描くこと」の影で脳はめちゃめちゃ仕事してる
以下、絵を描くことの効能の話ですが、絵を描くとどれだけ脳が鍛えられる(=脳を使ってる)のかという話にもなります。
◯絵を描いたり観たりすることで観察力が向上する
観察力は画力を上げる上で欠かせない力で、美術予備校とか美術教育分野でも観察力を鍛えることに力を入れています。
観察と一口にいっても、観察して得られるものはいろいろあります。どんな形をしているか、どんな色か、どのくらいの距離感か。
私たちは意識しないでそれをやっているけど、人間が画像を知覚する仕組みはとても複雑で、今は機械学習や画像処理の分野でもそのメカニズムを一生懸命解明したり、応用したりしようとしています。つまり、「人間が無意識にやってることをコンピュータにやらせようとするとめちゃくちゃ大変」ということです。
カメラやると人間の目が取るだけ優秀なレンズなのか実感します。センサーも優秀。
ただ、人が画像を知覚するプロセスをわかりやすく簡単に説明してるソースがなかなか見つからなかった…。
芸術と脳の関係については実はいろんな本が出てます。自分自身も絵を描いたり芸術活動をしてる研究者さんが多い印象。
(わりと理系〜〜〜!な感じの本なのでアレルギーがない人向けかも!)
ちなみに質感に関しては「質感認知」って言うものがあるそう。しかもかなり新しい研究。
この辺、視覚のみならず、触覚の領域とも連動してるんじゃないかと思います。たぶん、フワフワしたものを描くときには無意識にフワフワしたものを頭の中で思い出したりしていて、実際にフワフワしたものを触った時の脳波になってるとか。コレは単なる想像ですが。
描く方じゃなくて見る方の話ですが、絵画を観察して言語化し、分析力を磨くことを訓練に取り入れているケースもあります。訓練を受けているのは、お医者さんとか警察とか、ものを見て「なにか異常がないか」を見つける職業の人たちです。
未読だけどこういう本も。
「観察」の奥深いところは、その場で見たもの、つまりそこで得た視覚情報だけではなくて、記憶や知識経験などのいろんな情報が結びついている点だと思います。
例えば「名前がつくこと」によって知覚しやすくなる例もあって、ロシア語では「青色」を表す名前が明確に2種類に分かれているため、青色を見た時に他の言語圏の人よりも早くどちらの青なのかを区別できるそうです。
モデルさんを描くクロッキー会でも、「背中、なんか凸凹してるってことしかわかんない!」っていう我々の横で、先生が「ここが僧帽筋!ここが広背筋で!これが前鋸筋。ここから見えるのが◯◯筋で〜」ってあっという間に体表に見える筋肉を見つけていったことがありました。
見えてるものは同じはずなのに、名前を知っているかどうか、知識があるかないかで見えたり見えてなかったりする例だと思います。
というわけで、絵を描くために欠かせない観察力(と知識)。
企業の広告でも、生成A lイラストで指の数や形など明らかにおかしいものが世に出てしまうケースが散見されますが、それも「目」が育っていないことが原因なのかもしれません。
◯集中力が高まる
実際、絵を描き始めの時は5分も集中できなかったのが、練習を積むうちに数十分、数時間ぶっ続けで描けるようになった経験がある方もいるのではないでしょうか。
◯運動機能の向上
オタク、運動できねーじゃん!って思う人も多いかもしれないけどw、
例えば子供たちの運動機能の発達のためにも、絵を描くことは有効みたいです。
もちろん大人も。例えば過去にバズってたツイートで、「漫画家は射撃やらせるとやたら上手い人が多い」っていう話があったけど、それもたぶん本件と関係してるんじゃないかと思います。
ちなみに私は射撃はしたことないけど、コレはわりと得意です。
ブランクがあって描けなくなったとかスランプになってしまった、っていう時にも、ひょっとしたらこの筋肉の動きが衰えたり、なんらかの理由で調子が悪くなっている場合があるのかもしれません。
◯記憶の定着を助ける
絵を描くことで長期的に記憶力が高まる、という話ではないけど、文字でメモを取ったりするよりも絵に描いて覚えた方が、その後のテストで記憶がより多く保持されているという研究があるみたい。
TEDトークもあった
まだちゃんと読めてないけど、記憶を司る脳の海馬を損傷した患者の記憶力が絵を描くことで向上したみたいな話もあるっぽい?
◯空間認知能力
生まれつきにもある程度左右される要素。どんどん上手くなる人はもともと空間認知能力が優れているのかもしれません。
ADHDの人は本来苦手とする分野らしいのですが、神絵師でADHDを公言している人も多いので、あんまり単純に考えられない話かも。訓練や練習で鍛えられる能力でもあります。いろんな向きの立方体を描いたりとかもそのひとつ。
写真とか見て描くだけじゃなくて、実物を見て描くとより鍛えられそう。
◯創造性を高める
小さい子供の創造性を育むための情操教育としても取り入れられています。
創造性とスキルは自転車の両輪のようなものに感じます。
創造性って定義が難しいけど、個人の経験からしても、あおりや俯瞰が描けるようになると描ける世界が広がったし、デッサンができるようになるほど「イメージを具体的に頭の中でこねる」ことができるようになった実感があります。
描くものが思い浮かばない時ってインプットが足りないんだよーって言われがちだけど、基礎的な技術を上げることで拡がる部分もあるというのが個人の感想です(これも広義のインプットではあるんだけども)。
料理だって経験を積むと「このレシピのオリーブオイルをごま油に置き換えて中華風にしても美味しいかも!」とか、自分なりにアレンジしたりレシピを編み出したり出来ると思います。
Excelだって、ちゃんと身につける前は足し算引き算のやり方もわからない、何に使えるのか分からなかったのが、「この関数ならあれにつかえるかも」「この業務、マクロを使えば時短できるかも!」ってなったりします。
つまり創造性というものは知らんだれかに民主化してもらったり解放してもらうものではなく、素敵なものを見たり触れたり、手を動かして描いたり物を作ったりすることで育まれていくものなのです。
◯コミュニケーション能力を高める
絵を描く人間、コミュ障ばっかじゃん!!っていうツッコミもありそうなものだけど(私もそう)、絵を描くことがコミュニケーションのスキルを高める、という話もあります。感情表現が豊かになったり、思考や集団意識を高めたり。シャイな人、言語障害を持つ人のコミュニケーションの助けにもなるとのこと。
◯絵を描くことによる癒しの効果
これは有名だしイメージしやすいかも。アートセラピーの分野でも導入されています。
脳、きたえてこー
個人的な話ですが、私の両親も高齢になり、「あー、とうとう来たか…」と思う行動や失敗が増えています。そういうことを目の当たりにしていることもあり、認知機能が少しでも健やかでいてくれるように、自分で考えたり手を動かすことを手放してはいけないと痛感しています。
ゲーム脳だのスマホ脳だの、新しい技術が登場するたび、「そんなの使うとバカになるぞ」っていう人が現れるのは世の常ですが(※ソクラテス先生も文字なんか使うとバカになるぞってゆってる)(※ただ実際文字ができてから人間の記憶力が落ちたことを示唆する話もあるので何ともいえない気もする。古事記作る時、稗田阿礼さんがいったん全文記憶したって伝説もあるし)、少なくとも絵を描くことは、アウトプットした作品そのものの良し悪しだけでなく、自分自身を成長させてくれる行為であることがわかります。
脳とお絵描き上達
逆に考えると、脳のどういう機能が高まると絵が上手くなるのか?という話にも繋がりそう。
ただ、調べてみたら「絵を描いて脳を鍛えて記憶力を高めよう!」みたいな本はいっぱいあるんだけど、「脳科学を生かして絵が上手くなる本」みたいなのはあんまりない気がする。海外ソースは探しきれてないけど…。
それでも、これまで培って継承してきた経験やノウハウから、「こういう練習をするとこういう能力が鍛えられる」ということはいろいろわかっています。
これが脳神経分野ともっともっとリンクして、「こういう練習をすると脳のこの部分がこうなるので、その結果こういう能力が鍛えられる」というところまで細かくわかってくると面白いのになぁと。今は砂場で大きな山の両端からトンネルを掘ってて、まだちゃんと繋がってない印象。
例えば「1年後に一流大学入る」がかなり大変なチャレンジなのはわかると思うけど、「1年後に神絵師になる!!!」だとその大変さがイメージできません。実際は東大に入るのと同じくらい時間がかかって大変なことかもしれないのに。
そして、絵に関しては持ち前の才能の差というイメージを持っている人が多い気がします。どのくらい途方もない努力が必要かが知られていないからこそ、生まれつき才能を持ったラッキーな人たち、「ずるい」人たちだと思われがちです。
でも「デッサンが上手くなるには脳のこの部分の連携が必要で、こういう練習をすると鍛えられる」みたいなことがもっと科学的に解明されていくと、そういう誤解も少しはなくなるし、もっと効率的に上達する道も見つけやすくなるかも!
というわけで以上です。私が知らないだけでもっといろんな研究がされてるとは思うので、また今後いろいろ調べて書き足していきます。
おまけ
こちらは自らも画家である脳の研究者さんの著者。
調べてる過程で去年出会った、神経美学っていうジャンルがめちゃくちゃ面白い。
神経美学ってなんぞや?についてはざっくりこちらで解説してくれています。
石津先生はいろんなメディアでもお話しされてて、どれも面白いです。このシリーズ楽しかった!漫画の編集者さんとか、お話の面白さを言語化しないといけない職業の人にはかなり役に立つ分野じゃないかな?そのうち佐◯島さんとかが対談してそうな予感。
アートと脳についてはこの本も気になってるけど、やっぱり描く側より鑑賞する側サイドの話が多そう。
日本語版も出てた!まだ読めてない‥。
これも気になる!
という感じです。本記事は今後も足したり修正したりしていきます。