愛すべきカスタードプリン

歯医者

虫歯と欠けた歯の治療をしに行った。

音楽性の違いから退職した後、さすがに無職を死ぬまで続けるのもどうかと思い、特に目的もなく会社を作って以降、風邪の類は寝てれば治る、と、一度も病院にはかからずにきたが、流石にこればっかりは寝て治るものではないからだ。

※こんな適当に作った会社がもう第6期とは運がいい以外の何物でもないが、それはまた別の話

こう書くと、思い立ったが吉日、とばかりにすぐに行動を起こしたかのように思うかもしれないが、実際に歯が欠けてからもう一ヶ月以上経っている。旅行とか行ってる場合ではなかっただろうが、という苦言は甘んじて受け入れたいとは思う。聞く耳は持たないが。

そういう状況でもあり、さすがにもうダメだわ、と思った今日、突発的に電話したにも関わらず、たまたまキャンセルで空いた時間にすべりこめたのは、日頃の行いがよかったからだろう。

誰かがほめてくれるわけでもないので、自分で自分を全力で称賛するわけだが、まぁ、実際のところは、ガンジーも全力で殴りかかってくるレベルの雑さだ。

いや、そんなことはどうでもいい。

最後にかかったのがいつだったか記憶になく、おそらく15年は行っていないだろう歯医者な訳だから、この際、気になる箇所はすべて治す気でいた。実際、最初の問診の際にも書いた。なぜだか、保険が効かない治療でも大いに結構、という心意気でもあった。全くよくわからない戦闘モードだった。

詰将棋の本でも持ってくるのだった、と少し長めの待ち時間を過ごしていたが、そう思ったあとほどなく呼ばれた。

欠けた歯

治療箇所の確認も手早く終わり、まずは、今日来た目的の主題である欠けた歯の治療に入る。

実際には虫歯のせいですでに不安定だった歯がガムを噛んだ拍子に欠けた、という感じだったようなのだが...

その欠けた歯。食べてしまった。

いや、おまえ、と思うだろう。まぁ、聞けよ。

今でも、いつ、どこで、まで正確に覚えているのだが、細かいことは飛ばすと、さっき言ったようにガムを噛んだ拍子に欠けたわけだ。そのガムの表面はM&Mチョコのようなコーティングがあったので、それとの区別ができなかった。いや、ここもちゃんと覚えていて、ちょっといつもよりもジャリジャリするな、とは思ってはいた。その直後に舌が妙に尖ったものに擦れて痛い。歯にささったのか、と思っていたくらいだったんだ。家に戻って鏡で確認するまでは。

だが、違った。

歯が明らかに欠けていた。

それに気づいたときにはガムは紙に包んで捨てた後だし、欠けた歯の一部を食べた感触も、まぁ、あった。どうしようもなかったんだ。

そんなことは忘れて、今、舌が擦れて痛いのを我慢している自分をほめてやりたい、とか思っていた。

何の話だ。

元に戻そう。そう、歯の治療だ。

麻酔

パズーの支度のように40秒で終わる、みたいにそんなにすぐに治せるわけもなく、薬塗っとけばいいということもないので、ダメな部分を削って、いったん仮詰めし、後日、あらためて型をとり、出来上がりを待って、最後に型をはめ、調整をし、治療が終わる、という歯医者にかかりたくない理由の筆頭であろう治療に時間がかかる一連の工程が待っている。

こういうものは、歯医者の側も、これ以上短くできねぇもんは短くできねぇんだ!という至極当然の理由が筆頭にくるだろうものであって、世の中のほとんどすべての物事は、そんなものである。

また脱線したな。

X線で写真をとるわけだが、今時の撮り方に感心しながら、おそらく Windows7 だろう、撮った画像がすぐさま目の前のモニターに表示されていた。職業柄、モニターのメーカー、型番をチラチラ確認してしまう様、モニターから伸びるケーブルの先を確認している様は、さぞかし珍妙だったに違いない。

撮った写真というもの自体は、まぁ、なんかいわゆる「歯」の形にはなっていない部分があって、そこが虫歯との説明をしてもらったのだが、それよりはそれ以外に写っているもの、歯茎なのか、血管なのか、神経なのか、この隙間状のところには何があるのか、など、虫歯の位置・大きさなんぞよりも、そっちのがはるかに気になっていたが、そんなことを聞かれても困るだろう、と聞くのはやめておいた。聞けば教えてくれただろうとは思うが。

位置を確認したら、すぐさま虫歯の部分を削る、なんてことはない。

歯は近くを神経が走っているので、ただ削ると振動がモロに伝わっておそらく悶絶するに違いない。痛かったら手をあげてください、とかそういう問題ではないだろう。絶対に痛いだろうし、想像するのも恐ろしい。だいたいこれ、拷問方法であったよな、とか、攻殻機動隊でも出て来たな、とか、そんなどうでもいいことを考えていた。まったくどうしようもないやつだ、自分にあきれていた。

そこで麻酔をするわけだが...

これがまたとてつもなくまずい。

「イチゴシロップ味とかいろいろやりようがあるやろが。」と、クソまずい、としか形容のしようがない麻酔薬を心の底から恨みながら、この何年か一の苦しみを感じていた。

その一方で、うがいの素晴らしさに感動すら覚えた。

あのまずい舌にまとわりつくような味を洗い流せる感動をだ。

そんなアホなことをたかだか30分ほどだっただろうかの間に思いながら、今日できる最後の工程である仮詰めも終わった。

礼を言いながら、会計を済ませ、家についた時にはもう1時間半も経っていた。

意外と楽しんでいたような気がする。

愛すべきカスタードプリン

普段は、家でひとり仕事をしたり、ゲームをしたり、ゲームをしたり、ゲームをしていて、一ヶ月のうちほとんど家を出ることがないので、何かの用事で家を出る際には、だいたい、というか、まぁ、ほぼ毎回、何かしら、コンビニやスーパーでおやつを買うことが多い。

かなり寂しいやつではあるが、月に2、3回の楽しみ、という感じだろうか。

今日、たまたま寄ったコンビニで買ったのはカスタードプリン。おいしそうだった。

滅多に食べないおやつを楽しみに帰ったのに、何かが違う。

仮詰めだ。

この仮詰めした場所が気になって仕方がない。噛み合わせも微妙に狂ったのだろう。違和感が半端ない。妙なところが神経質やな、と自分にツッコミを入れてはみたが、何が変わるでもない。いや、何か変わることを期待していたわけではないが、ちょっとしたひとりボケとダジャレを言ってみるも、自分ひとりの部屋を心なしか寒くしたくらいだ。

そんな寒さなどどうでもいい。

今一番残念なのは、おいしそうだと買ったカスタードプリンを楽しめないことだ。

おれの愛すべきカスタードプリンは、味こそよかったが、晴れない違和感に負けてしまった。

今日の教訓は、歯医者で治療した日にはプリンを食ってはいけない、だ。

それがたとえどんなにおいしそうだったとしてもだ。絶対だ。

息子よ、父ちゃんな。歯医者にかかった日には大好きなものを食べてはいけない、という家訓を作ったから。よろしくな。