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「パラダイムスイッチ」第3話

〇治安部隊特殊課 事務所内 応接室(夕)

 観晴と千代波が机を挟んで、ソファに座っている。千代波が観晴にエネルギーの使い方を教えている。

千代波「私ができるのは、物を浮かせたり、自分の身体能力を上げること」

 千代波は実際に近くの物を浮かせて動かし、普通の人ではありえないスピードで動いて見せる。

千代波「これをするには、エネルギーを体から外に出したり、全身に留めたりする必要がある。でもその前に、まずは君がエネルギーを感じることができないといけない」

観晴「どうやってーー」

千代波「(観晴の言葉を遮るように)エネルギーの大本はおでこにある松果体にある」

 千代波は観晴に近づき、指先を観晴のおでこのギリギリのところまで持ってくる。

千代波「毎日、どんな時でも松果体にエネルギーがあることを意識すること。それと……」

 千代波はポケットから手のひらに収まるぐらいの小さい丸い機械を取り出すと観晴に渡した。

 観晴は渡された機械をまじまじと見る。

観晴「これは清水さんと同じものですか?」

千代波「そう。先祖返りが見つかると大変なことになる。外で能力が暴発したときに言い訳できるように、これからはずっと付けといた方がいい」

観晴「分かりました」

千代波「使い方はさっき見せたのと一緒。機械を肩に乗せてボタンを押すだけ」

 観晴、実際にやってみる。機械が観晴の腕に絡みつく。

観晴「これが……。思ったより軽いですね」

千代波「ハリボテみたいなものだから。その中には何も入ってない」

 観晴は目を輝かせながら、自分の腕を何度も触る。

千代波「(ボソっと)君は分かりやすい人……羨ましい」

観晴「すみません、何か言いました?」

千代波「何も。次はそれを付けたまま1時間瞑想」

〇観晴家(夜)

 玄関の扉がガチャっと開く。観晴が入り、靴を脱ごうとする。初めての訓練で疲れた顔をしている観晴。

観晴M「つ、疲れた……。瞑想があんなにしんどいとは」

観晴「ただいま」

 慌てた様子で部屋から出てくる観晴母。

観晴母「お帰り。どこか行くなら行ってくれてもいいじゃない。電話も繋がらないし心配したんだよ」

観晴「ごめん。ちょっと用事があって」

 観晴の目が半開きになり、母の顔を見ず、下を向いている。

 観晴を見て、母は心配そうな顔をする。

観晴母「観晴。何かあったら何でも言ってね」

 観晴はハッとして眠気が覚める。心配そうな顔をしている母を見る。

観晴M「いくら母さんでも、先祖返りのことは言えない」

観晴「(笑顔で)ありがとう。でも大丈夫だから」

観晴M「母さんを心配させないように頑張らないと」

〇高校 校門(朝)

 観晴は千代波にもらった機械を起動し、肉体強化をしている風を装っている。 

 観晴が人質になったことは学校中に知れ渡り、じろじろと見られる観晴。

生徒1「あの人が?」

生徒2「人質になったんだって」

生徒3「怖いもの知らずだね~」

 ひそひそと小声で話している。

観晴M「全部聞こえてるよ」

 観晴の後ろからどんっと何かがぶつかる。

クラスメイト1「あぁすまん、ぶつかっちまったわ。おっと、これはこれは有名人じゃないですか」

観晴「大丈夫」

 早く自分の教室に行こうとするが、前をクラスメイト1.2.3に塞がれる。

クラスメイト1「俺があの場にいたらすぐに解決できたんだけどな。あれ、お前生身じゃなかったっけ?」

観晴「肉体強化ができるようになったんだ」

観晴M「苦しい言い訳だけど、押し通すしかない」

クラスメイト1「(ニヤリと笑って)そうか、そうか。それじゃ授業が楽しみだなぁ」

 クラスメイト1.2.3が観晴から離れていく。

クラスメイト2「あいつ、ほんとに肉体強化できたんですかね?」

クラスメイト1「本当にできるなら前からやってるだろ。自分の無力さから恰好だけでも真似したかったんじゃね? それか人質になって頭がおかしくなったか」

 大声で笑うクラスメイト1.2.3。

観晴M「確かに、これで生身と同じだったら俺でも頭がおかしい奴だと思うよ。それでも笑われたっていい。これが俺の唯一の希望なんだ」

〇高校 グラウンド(朝)

 治安部隊入隊希望者の授業が始まっている。今回は持久力テスト。校庭を10キロ分走り、タイムを競う。

 観晴は走りながら、軽く目を閉じてエネルギーを感じようと努めている。

観晴M「集中。おでこに意識を向けて」

 しかし、全く感じることができない。

 何周も周回遅れになり、観晴の顔に疲労が見えるが他の生徒は顔色を変えずに走っている。

クラスメイト1「お前の機械はお飾りか? やっぱり頭がおかしくなっただけなんだな」

 クラスメイト1は大笑いしながら走り去っていく。クラスメイト2.3は遅れて観晴を追い越し、観晴の顔を見ながらくすくす笑っている。

 観晴、顔を歪める。

観晴M「先祖返りは俺に残された唯一の突破口だ。なんと思われようがやるしかない」

〇治安部隊特殊課 事務所内 応接室(夕)

T「土曜日・入隊試験まで残り16日」

 この日も訓練のために集まっている観晴と千代波。観晴が目を閉じ集中すると、観晴のおでこが少し光る。

 そのまま腕を伸ばし、エネルギーを腕の方に集中させようとするがおでこからエネルギーは動かない。

 大きくため息をつく観晴。

観晴「俺、入隊試験までに間に合うんでしょうか?」

千代波「私にも分からない」

 観晴、下を向く。

千代波「でも、弱音を吐く暇があるなら、訓練に時間を使った方が確率は上がると思う」

観晴「そうですね……」

 観晴は再度手に集中させようとするがエネルギーは移動しない。

千代波「少し休憩しよう」

観晴「時間を削って付き合ってくれてるのにすみません」

千代波「大丈夫。私も訓練できてるから」

 少しの沈黙。

観晴「清水さんはどうやってエネルギーを使えるようになったんですか?」

千代波「私は……」

 下を見ながら考え込む千代波。千代波の言葉を一言一句聞き逃さないように真剣に千代波の口を見つめる観晴。

千代波「気が付いたら使えてた」

観晴「そうですか……」

観晴M「(肩を落として)俺とは違うか……」

千代波「でも、あの時は、必死だったかもしれない」

観晴「必死?」

千代波「なぜ君はエネルギーを使いたいの?」

観晴「俺は……」

観晴M「あの人みたいになりたいから。絶望を希望に変えてくれるようなそんな人になりたいから」

 観晴の額が今までにないほど光る。それを感じ取る観晴と千代波。

 千代波が頷く。

 観晴が手を伸ばし、目を閉じて集中するとおでこにあったエネルギーがゆっくりと移動し始める。

〇治安部隊特殊課 事務所内 リーダーの部屋(朝)

T「治安部隊 入隊試験当日」

 リーダーに成果を見せようとする観晴。

観晴「ではいきます」

 観晴は目を閉じて集中する。腕を前に出し、エネルギーを移動させる。

 すると、コップが宙に浮く。

リーダー「おぉ」

 観晴の手からコップまでその距離わずか10センチ。

 コップを置く観晴。

観晴「ふぅ」

 リーダーは大笑いする。

リーダー「お前、それじゃあ手で持った方が早いじゃねぇか」

観晴「これが限界なんです!」

 死にそうなぐらい顔が青ざめている観晴。

観晴「こんなんじゃ試験に落ちますよ」

リーダー「落ちたとしても、何度でも挑戦すればいいだろ? せいぜいお前が笑われるだけだ」

千代波「君がやってきたことを見せればいい」

リーダー「立派な機械付けて、10センチ先の物を浮かせてたらいいんだよ」

 リーダー、またしても大笑い。

観晴「はぁ、行ってきます」

千代波「頑張って」

〇治安部隊 試験会場(朝)

 観晴は試験会場に到着し、外で試験開始を待っている。周りは試験を受ける人たちでごった返しになっている。まずは体力テストのため、みな動きやすい格好。

 観晴が後ろから声をかけられる。

???「うわっ、なんでお前がいんの?」


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