化学メーカー技術職が「改善の急所」を読む
「改善の急所」は、多くの製造業従業員におすすめの本である
「儲かるメーカー 改善の急所〈101項〉」という本があります。
改善コンサルタントである著者が、製造業を儲ける体質に変えるためのポイントを、シンプルに解説した新書サイズの本です。
著者が技術士(経営部門)ということもあり、手に取りました。
「改善の急所」は、多くの人が読めるように簡単にまとめられています。
しかし本質的であり、私は何度も読み返しています。
直接的に化学業界のことが書いてあるわけではありませんが、私の仕事(化学メーカー技術職)にも十分応用できる内容です。
この記事では、「改善の急所」を、私の所属する企業の観点で解釈した内容を書いていきます。
手は使っても、足は動かすな
物の運搬は、付加価値を生み出さない行為です。
実験で動かすのも、デスクワークで動作をするのも手です。
足が動いているときは、物の運搬や人の移動が動いているということであり、改善の余地があります。
もちろん、実験器具は保管場所から取り出したり片づけたりする必要がありますし、パソコンの隣で実験をするわけにはいきません。
なので限度はありますが、可能な限り脚を動かさない導線や、保管場所、あるいは実験の設計をすることが生産性を高めます。
デスクワークなら、マウスを使うことは脚を使うことと似ているかもしれない。
もちろん、使う必要はあるのですが、可能な限りショートカットやキーボードだけで済めば時間を短縮できます。
品質不良を見つけた時点で、徹底的に対応する
オリジナルの文章は以下。
工場でボルトが落ちていたら大問題。
製品に取りつけていたものが緩んだか、組付け忘れたものが床に落ちたかなどが考えられますが、品質に問題があることを示しています。
有機化学であれば、HPLCや1H NMRで不純物を見つけたら、徹底的に対応しろ、と翻訳できますね。
不純物を単離して構造決定、反応機構を推定する、不従物生成を抑制する条件を検討、精製で除く方法を見つけるなどの対応が必要です。
もちろん合成中間体であれば、その工程で副生成物を除く必要はありませんが、あとあと後悔したことが何度あったか・・・。
各反応工程ごとに精製をするのが基本/原則ですから、徹底的に対処するマインドは必要です。
コミュニケーションは、現場で現物を前に、声を出して行え
以下の記事にも書きましたが、口頭だけのコミュニケーションは危険です。
誤って伝わってしまうこと、理解することが多い。
パソコン上にデータを映し、ディスカッションする。
実験装置の前で、操作の確認を複数人で行う。
反応や取り出した液の様子を一緒に観察する。
上記のような対応をすることで、コミュニケーションが円滑になります。
前工程は後工程を実際に見る
オリジナルの文章は以下です。
製造現場では工程ごとに人員が配置されています。
その結果、作業者は自分の担当する工程のみに集中しがちです。
後工程の作業では不便な状態を放置し、後工程へと流してしまうということが起きてしまいます。
私の仕事では、テーマ内で実験を工程ごとに分担するということはありません。
単一の系であれば、実験は計画からデータ整理まで一人でやりきるのが基本です。
しかし、営業から技術者とか、研究開発から製造とか、マネージャーからプレイヤーという単位では、工程ごとに作業分担されています。
ここで後工程を見ずに仕事を渡してしまうと、トラブルを引き起こす原因になります。
営業側で要件があいまいなまま技術者に渡してしまったり、品質規格が不明瞭なまま製造に流してしまったり、現場の状況を把握しないまま仕事を割り振ってしまったりなど。
解決策は、前工程は後工程を見に行くこと。
後工程で何が起きているのか理解できれば、前工程でやるべきだが気づいていなかったことに対応できるようになります。
設計改善は現場改善に100倍優る
現場での改善は絶対に必要ですし、大変ありがたいのです。
しかし設計者は、設計改善に手を付けることが優先であることを肝に銘じておかないといけません。
私の場合、私が合成ルートを設計、チームメンバーに実施してもらうことがよくあります。
メンバーは条件を詰めて、なんとかルートを通してくれるのですが、本来であれば設計側でより良いルートを立てていれば、しなくて良い努力。
設計の精度は、製品の品質やコストに大きな影響を与えてしまいます。
設計の品質向上は、現場では達成できないインパクトがあるのです。