記録(3) SAVE KAKOGAWA FES 2022
岡田市長との対談でヘロヘロになったのでチルテント(スタッフ小屋)でベッドに横たわって腰を伸ばす。先週やったギックリ腰を情けないことにまだ引きずっているのだ。初日で倒れているわけにはいかない。
最後のカヤックレンタルのお客さんに漕ぎ方をおしえ、川のスタート地点まで送っていく。日も暮れてきたので会場を回ってみた。
お客さんはだいぶ増えたとはいえ、回廊部分の飲食店ブースはあいかわらず過去のイベントのような大入満員にはほど遠い。去年11月末に開催した日岡山の夜市とは大違いだ。あのときは会場に並べた出店者が全店長蛇の行列になり、会場を行き交うのも難しかった。
お客さんが食べ物を手に入れるのが極端に時間がかかってしまい、みんなお腹は減るわ、出店者は売り損ねが出るわで、反省の多い会だった。
今回はその逆である。夜が近づいてきても思うようにお客さんは増えていない。
今回新しく参加した出店者を聴き取っても過去の回と比較しにくいので、朝市・夜市に何度も出てくれている顔見知りの出店者を聴き取って回る。ある店で訊いてみると「予想の半分以下」というではないか。「それってどれくらい?」
とたたみかけると
「2割くらい」
という恐ろしい答えが返ってきた。
冷や汗第2波がやってきた。
ほかの店で訊いてみても、3─4割という答えが多い。ここから、今日は出店者の予想販売数量のおそらく35%くらいしか売れていないことが推定できた。
もうひとつキッチンカーをならべたエリアが狭すぎて、それにも複数から不満が聞こえてきたし、自分の目で見てもあきらかに問題がある。
スタッフ小屋に持ち帰って共有しようとしたら、すでにキッチンカーエリアの問題は情報をキャッチしていた担当スタッフが検討を始めていたようで安心する。
残る問題は集客のほうだ。あと数時間で集客する方法はない。駐車場レスでの営業に踏み切ったのがアダになったかもしれないが、それを今さら言ってもどうしようもない。1日目の営業はこのまま流すしかない。
こういうときイベント運営者はひじょうに肩身が狭い。会場じゅうから怨嗟(えんさ)の視線がこちらを向いているような気すらしてくるのだ。これはなんどやっても消えない感覚である。いままで何度も経験した失敗によって、もうほとんど完璧にトラウマ化しているといっていいだろう。
会場に来てくれてこのイベントを盛り上げようと集まってきてくれているのは、毎週の朝市で会う出店者が多い。この5年間、200回以上の市場を営業してきた協力者たちだ。出店者というと出店料をもらうための金づるのように扱うイベント業者もいる。しかしおれたちのムサシオープンデパート朝市(MOD朝市)はなによりもまず「出店者がもうかること」を重要な目標にすえてやってきた。会場全体の売上を「経済効果」と呼び、そのもうけから10─15%のパーセンテージで出店料をちょうだいしている。出店者があまり売りあげできなかったときは主催者の収入も下がる。この経済効果の数値は前週の数値を朝礼で出店者全員に共有している。
売れても売れなくても固定で出店料を20000円よこせ、というような家賃固定方式は採らないようにしてきた。理由は、それだと出店者たちが「とりあえず出てみる」というチャレンジをしにくいからだ。
加古川で新しいローカルライフを作っていくには、本業にせよ副業にせよ新しい商売に「軽率に」チャレンジしてもらわないといけない。失敗してもダメージが少なければ、なんでもとりあえずやってみることができるではないか。
そういうプラットフォームにしたかったから、この朝市を続けてきたのだ。おかげで朝市の出店者が商売に自信をもち、実店舗を構えるようになる事例がすでに何軒も出ている。
なのに大きなイベントの集客に失敗するということは、街をこれから新しく再生させるためにこうして年月をかけて募ってきた仲間たちを、自分たちの能力不足によって苦しませることになる。年単位の時間とたくさんのカネ、人々の労力を使い続けて何をやっているんだかわからない。
手をこまねいていることしかできない情けなさ。会場の飾りにとめてあるランドクルーザーのボンネットに寝転がり、頭の中を整理する。パッと整理は付かないのだが、なんとなく「このままではやばい」ということだけは体感でわかる。会場で起きていることを一身に受け止める。
1日目の営業が終了した。いっせいに片付けが始まる。出店者があまらせた飲食物を冷蔵したがっている。冷蔵庫の電源確保や株式会社ムサシの冷蔵庫に入れられるすきまはないかなど、スタッフが問題を少しでも軽減しようと対策を練っているのが聞こえてくる。
とりあえず初日はもう終わった。手元の道具を整理して自宅に戻ってシャワーを浴び、デスクの前に座る。さて明日の営業開始まであと15時間ていど。何か策を打たなくてはいけないのである。(つづく)