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深読み 米津玄師の『さよーならまたいつか!(『虎に翼』主題歌)』第25話


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2024年3月中旬
東京都渋谷区神南
NHK放送センター



NHK放送センター 別館



放送総局サイエンス・ネイチャー部
不自然描写究明研究所
UNNATURAL DESCRIPTION INVESTIGATION LABORATORY
(通称 UDIラボ)




尾頭君、米津玄師の毛髪からヨネヅ細胞を抽出しDNA解析するには、どれくらい時間がかかりそうかね?


ざっと見積もって、細胞の抽出に30分、DNA解析に1時間というところでしょうか、所長…


そうか… この案件に我々UDIラボの来年度予算がかかっている…

くれぐれも頼んだぞ、尾頭君、ミコト君…


お任せください、所長。

この時が来るのを私たち、ずっと待っていたんですから。


それにしても、なぜ米津玄師が作った『虎に翼』の主題歌『さよーならまたいつか!』と琉球諸島に伝わる海獣 輿禰頭(ヨネヅ)伝説に関係があると気づいたのかね?


だって所長、あのミュージックビデオの描写は、どう考えてもアンナチュラル(不自然)でしょう?

まるで米津玄師の「意思」のように破壊の限りを尽くす「あの暴徒たち」は、アンナチュラル極まりない…



うむ。確かにアンナチュラルだ。

歌詞と映像がまったくマッチしていないし、なぜ米津玄師は自分の分身のような暴徒たちによる破壊を楽しんでいる?

彼が命令したのか?



おそらく米津玄師は命令はしていないでしょう。

なぜなら「あの暴徒たち」は、それぞれが「米津玄師そのもの」なのですから。

「分身のような」じゃなくて「分身」なんですよ、所長。


あの暴徒たちは米津玄師の分身?

西遊記の孫悟空か?



喩えが古過ぎ、所長(笑)


では、いったいどういうことなのだね?


所長は沖縄で信じられている伝承「テルキムー」をご存じでしょうか?


テルキムー?

まっくろくろすけやススワタリみたいな樹木の精霊のことか?


それはガジュマルの古木に棲み着く精霊キジムナー。

私が言っているのは「テルキムー」です。



テルキムー…

どこかで聞いたような気もするが、何だったかな…


確かにテルキムーは漢字で照樹務と書きますが、これはただの当て字であり、キジムナーのような樹木の精霊ではありません。

テルキムーは、かつて沖縄本島の中部地区、浦添一帯を支配していたとされる人物です。


浦添?

米津玄師がミュージックビデオを撮影したA&W牧港店があるところじゃないか。



だからこの話をしてるんですよ、所長。

伝承によるとテルキムーは、ある日突然、浦添の牧港から単身で出航し、そのまま海に消えて帰らぬ人になったとされています。

私の見立てでは、琉球諸島西部で栄華を誇っていた古代文明を滅ぼした海獣 輿禰頭(ヨネヅ)は、このテルキムーが何らかの理由で姿を変えたものなのではないかと…



海に消えたテルキムーが、海獣 輿禰頭になって古代文明を島ごと滅ぼした?

いったいなぜ? 何のために?


この話は元々私がアメリカ大使館で見た機密文書で知ったもの…

だから所長、絶対に口外しないと約束ができますか?


アメリカ政府の機密文書?

なぜ君がそんなものを見ることが出来たんだ、ミコト君?


だってミコトのお姉さんカヨコはアメリカ政府のエリート官僚じゃないですか。

私がお願いして琉球古代文明消滅に関する極秘資料をちょっとだけ見せてもらったんです。

学生時代の "異性間交流" 仲間のよしみで…



だから絶対に内緒ですよ、所長。

バレたらお姉ちゃんがアメリカ国家公務員法違反で裁判にかけられちゃう。

下手したらスパイ行為と目され、国家反逆罪で重罪になるかも…


なんてこった… そんな危険な橋を渡って…

もしこれがマスコミにでも知られたら、大変なことになるぞ…

沖縄密約事件、いわゆる西山事件の比ではない…

私や放送総局長だけでなく、会長や大臣の首も飛ぶ…



虎穴に入らずんば虎子を得ず、ですよ所長。

リスクは承知の上です。

UDIラボの予算倍増、三倍増のため…


そうだな…

で、その極秘資料には何が書いてあったのだ?


それは、実に興味深いものでした…




NHK総合リスク管理室
情報解析センター



アメリカ政府の極秘資料?


そうだ。

尾頭・ヒロミショージ・夕子とミコト・メリーアン・パタースンは、大方その極秘資料を見たのであろう。

アメリカ政府のエリート官僚であるミコト君の姉カヨコに頼み込んで…


なるほど…

あのミコトって女には、すげー美人で超アタマいいねーちゃんがアメリカにいるって言ってたもんな…

ていうか、なぜ教官もその極秘資料を知ってるんですか?


神南恭一郎は元々CIAにいたのだぞ、呉羽…


あ、そうでしたね田木さん。

でもCIAにいたからといって、すべての機密情報にアクセス出来るわけじゃないっしょ?


ミコト君の姉カヨコとは、ちょっとした腐れ縁でね…

彼女経由でちょくちょく機密情報を教えてもらった。


機密情報って、そんなに簡単に教えてもらえるものなんですか?


呉羽、野暮なことを聞くんじゃない…

スパイ小説やスパイ映画でも、よくある話だろう…


スパイ小説やスパイ映画とかで、よくある話?

え? ええーーーーっ!?



ふふふ。まあ君たちの想像に任せるとしよう。


マジかよ…

教官をUDIラボとの合コンに呼んだら大変だ…

この人なら姉妹丼もやりかねねえ…


くだらない話はそれくらいにして極秘資料の話をしよう。

そこには失われた琉球古代文明の調査報告が記されていた。

当時、アジア一の栄華を誇っていた文明を島ごと滅ぼした海獣 輿禰頭(ヨネヅ)の誕生・出自にまつわるレポートだ。


つまり、海獣 輿禰頭が何者で、どこから来たのかってことですか?


そう。海獣 輿禰頭の誕生には2つの説がある。

1つは恐竜時代に生きていた巨大生物の生き残り説。

小笠原諸島沖の海底洞窟で眠っていた巨大生物が、海底火山の大爆発によって目覚めたというシナリオだ。


何だか、ありがちな話ですね。


ありがちな上に、この説ではなぜ海獣 輿禰頭が沖縄 八重山諸島 与那国島沖にあった高度な古代文明を滅ぼしたのか説明が出来ない。


そうですね…

古代生物なら人間の文明なんて興味もないはず…


そこで2つめの説が浮上した。

八重山諸島 与那国島沖に現れた海獣 輿禰頭は、沖縄本島の中部地区、浦添の牧港沖で行方不明になった秋津三朗眞人公が何らかの理由で変異したものであるという説が…


あきつさぶろうまひとこう?

何者ですか、そいつは?


秋津三朗眞人公の「秋津」とは日本国の昔の呼び方。

秋(FALL)になると水辺に蜻蛉(セイレイ)が飛ぶという意味だ。

そして「三朗」とは「さぶらふ(候ふ/侍ふ)」つまり「侍」のこと。

秋津三朗眞人公とは「日本国のモノノフ眞人公」という意味になっている。


秋津三朗って人の名前みたいに聞こえるけど、肩書きなんですね。

眞人公の苗字は何ていうんですか?


眞人公を今風に「姓・名」で呼ぶなら「牧 眞人」という。


まき、まひと…

どこかで聞いたことのあるような名前だな…


秋津三朗眞人公こと牧眞人は平安時代末期の人物で、名前の通り、自他共に認める日本一のモノノフだった…

当時の日本は長らく続いた貴族支配の時代が終わろうとしていた頃で、政治が熱かった時代だ…

日本国内のいたるところで激しい政治闘争が巻き起こり、もちろん牧眞人もその真っ只中にいた…

しかし、志やプライドが誰よりも高く、己の信念を絶対に曲げない主義の牧眞人は、裏切りや陰謀が渦巻く政争に敗れ、小笠原諸島へ島流しになってしまった…


政治の時代か…

加藤登紀子の『時には昔の話を』みたいですね…



小笠原に島流しになった秋津三朗牧眞人は、再びメインストリームへ返り咲こうと、ほとんどイカダ同然の小舟で流刑地からの脱出を試みた…

しかし嵐で小舟は遭難…

西へ西へと流され、日本から遠く離れた沖縄本島に漂着した秋津三朗牧眞人は、浜辺で発見された後、島の者たちからまるで救世主のように崇められた…


なぜ島の人たちは秋津三朗牧眞人を救世主だと思ったんですか?


それは秋津三朗牧眞人が鮮やかな青い衣を身にまとっていたからだ…

その頃の琉球にはこんな言い伝えがあった…

「その者、青き衣をまといて、金色の砂浜に降り立つべし」


なるほど…

たまたま青い服を着ていたから救世主だと勘違いされたのか…


そして秋津三朗牧眞人は琉球風にテルキムーと名乗り…

中部の浦添一帯を支配する王となった…



テルキムー?

なんだか樹木の精霊キジムナーみたいっすね。


「テル」は漢字で「照」と書くが、元々は「遠く離れた」という意味…

「キムー」は漢字で「樹務」と書くが、その本来の意味は「コミュニケーション・通信」というもの…

古代琉球では、ガジュマルなどの古い樹木は神と人をつなぐ媒体として考えられていて、特別な能力をもつ者が神々の意思を樹木を通じて人々へ伝える役目を果たしていた…

つまり秋津三朗牧眞人は、そういう能力を持っていたということなのだろう…


なるほど…

テルキムー(照樹務)は「遠く離れた通信」か…

神託のようにも取れるし、遠く離れた故郷日本への思いにも取れる…


沖縄でテルキムーと名前を変えた秋津三朗牧眞人は、現地の娘アケミを娶り、嫡男となるゴローをもうけた…

和名では牧吾朗という…


政治闘争とか島流しとかいろいろあったけど、ドロドロとした世界から遠く離れた沖縄で幸せそうな家庭を築けてよかったじゃないですか。

それなのになぜ単独で海へ出て行方不明になり、海獣 輿禰頭なんかに変異しちまったんですか?


秋津三朗牧眞人には、矛盾した2つの顔があったのだよ。


矛盾した2つの顔?


1つは、誰よりも人の暮らしを大切にする平和的な顔…

山を削り谷や川を埋める直線的な都市化を憎み、人と自然が調和する世界をこよなく愛する顔だ…

そしてもう1つは、誰よりも兵器や戦争に興奮する顔…

大量殺戮にカタルシスを覚えてしまう暴力的な顔だ…

その相反する2つの自分に板挟みになった秋津三朗牧眞人は、仕事場である浦添城に籠もるようになり、妻と子の待つ家にほとんど帰らなくなってしまったのだ…


ひどい…そんなの自分勝手すぎる…

奥さんも子供も可哀想だ…


そしてある日のこと、テルキムー秋津三朗牧眞人は浦添の港から単身船に乗り、海へ出たまま本当に帰らぬ人になった…

悲しみに暮れた妻アケミと嫡男ゴローは、港のそばにある洞窟で帰りをずっと待ち続けたという…

その港は秋津三朗牧眞人の姓をとって牧港と呼ばれるようになり、妻子が待ち続けた洞窟は牧港テラブのガマと呼ばれ観光名所になっている…



何だか『テルーの唄』を思い起こさせる話ですな…

テルキムーだけに…



だけど、なぜテルキムー秋津三朗牧眞人が海獣 輿禰頭になったとわかるんですか?


行方不明になったテルキムー秋津三朗牧眞人の船は、まもなく浦添沖で見つかった。

無人のまま海上を漂っていたのだ。


海上で船が見つかった? 無人で?


船の中には遺書のようなものが残されていた…

「私は好きにした。君らも好きにしろ」

と書かれた紙が…


本当に勝手な人だ…

だけど、そのメッセージはおそらく妻子に向けたもの…

テルキムー秋津三朗牧眞人が海獣 輿禰頭になった証拠とは言えないのでは…


その遺書と共に、ある詩が残されていた。


詩?


しぐるるや しぐるる海へ 歩み入る
どうしようもない私が 歩いている


海へ… 歩み入る…


浦添沖で海の中へ歩み入ったテルキムー秋津三朗牧眞人は、何らかの不思議な力によって巨大海獣となり、かねてより憎しみを抱いていた直線的な巨石文明が栄えていた島を襲った…

ちなみに生前その島を訪れたテルキムー秋津三朗牧眞人は、同行した配下の者にこんな愚痴をこぼしていたという…

「まっすぐな道でさびしい」


海へ歩み入ったテルキムー秋津三朗牧眞人…

直線的なもの・自然と調和しない人工物や文明を憎んでいたテルキムー秋津三朗牧眞人…

何だか辻褄が合う…


そして海獣 輿禰頭は琉球の霊能者ユタによって動きを封じ込まれた…

一説によると、海獣 輿禰頭は大量の泡盛と痺れ薬を飲まされて、身動きがとれなくなったそうだ…


何だか八岐大蛇(ヤマタノオロチ)みたいですね…

神話や伝説って奇妙な共通点がある…


すると、身動きのとれなくなった海獣 輿禰頭に、不思議なことが起きたという…

海獣 輿禰頭の頭部に、不思議なことが…


頭部に不思議なことが起きた? 何ですかそれは?


海獣 輿禰頭の頭部を覆う毛髪の一本一本が、無数の人の姿になったという…

海獣 輿禰頭が、無数の人型 輿禰頭に分化したのだ…



ええっ!?

ま、まさか、それがあのミュージックビデオの暴徒たち…



A&Wはアメリカ的大量消費文化の象徴…

米津玄師がテルキムー秋津三朗牧眞人と海獣 輿禰頭の遺伝子を受け継ぐヨネヅ一族の末裔なら、あり得ない話ではない…


ば、馬鹿な…


そう。まるで馬鹿な話だ。

まあ所詮は伝説、噂話のたぐい。科学的にも論理的にも証明は出来ないだろう。


だけどUDIラボのリケジョ2人組は、そんなことを本気で調べようと…


真実へは様々なアプローチがある。

たとえ素っ頓狂なアイデアでも、まかり間違って真実に辿り着くこともあるのだよ。

確率はほぼゼロに等しいがね。


しかしあの二人は、ああ見えて侮れませんよ神南恭一郎…

これまでにもいくつものアンナチュラルな出来事を解明してきた実績があります…


そうだな。若い娘だからといって侮ると痛い目にあう。

私がカヨコに食らったように…


やっぱりミコトのねーちゃんと何かあったんですか?


まあ過去の話だ。今更ここでしても何の益にもならない。

そんなことよりも我々の考察の方が大事だろう。


教官はどう考えているんですか?

あの歌詞とミュージックビデオを…


私が思うにあれは…



つづく



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