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深読み探偵おかえもん引退作品『BACK TO THE FUTURE(バック・トゥ・ザ・フューチャー)』第8話「RE ELECT」


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さあ、Lou Christie(ルー・クリスティ)『LIGHTNIN' STRIKES』の2番に行くぞ。

2番もオモロイ仕掛けが隠されている。

あんたにそのトリックがわかるかな?



大いなる力が俺の短絡的思考を取り除いた
信じようと信じまいがそうなんだ
君のことしか考えられない
女の子は皆「騙されるのがオチ」と言う
だけどベイビー、とりあえず今だけは
その身を俺にゆだねてくれ
いずれ俺も落ち着く時がくる
その時は君が俺にとって唯ひとりのベイビー
だから、許して、そして水に流して
過去のすべてを償うから…

もし彼女が物分かり良すぎて
俺の真意を読み取ってしまったら
女「待って!」
男「待てない!」
女「待って!」
男「もう止められない!」

また落雷!(また!また!また!)
また落雷!(また!また!また!)


普通に聴けば1番と同じように、男の子が必死に言い訳しながら女の子を丸め込み、「H」をしようとしている内容だ。

男の子は1番と同じように、過去の出来事や未来の話を持ち出して女の子をその気にさせようとするが、女の子にその意図を見透かされてしまう。


と、いう風に聞こえるよな。

しかし『LIGHTNIN' STRIKES』がフラ・アンジェリコの絵『受胎告知』を歌にしたものだとわかっていると、全く別の内容に聞こえて来る。


『Annunciation』
Fra Angelico


1番は「男の子=天使ガブリエル」だったけど、2番は何だか違う気がする…

さすがに天使ガブリエルの立場を、ここまで引っ張るのは難しそうだから…


その通りだ。

いくら「言い換え」の天才でも、天使ガブリエルの話でここまで引っ張るのは難しい。

『BACK TO THE FUTURE』のように長い映画の中なら様々なシチュエーションで再現できるが、この歌はシチュエーションが「女の子に迫る男の子」と限定的だ 。


じゃあ2番の「男の子」は誰なんだろう…

マリアの家にいる男といえば…

「時計」からマリアを見ている預言者イザヤ?


ヒントは「過去のすべてを償う」というセリフだ。

男の子はそれを「許し」であり「水に流す」行為だと言った。

そんなことが出来る男の子は、この絵の中でただ1人…

というか人類史上、過去にも未来にも1人しかいない。


あっ… 贖いの小羊イエス・キリストか…


その通り。

正確に言うとイエス・キリストになる直前のもの、神の Spirit(精神・マインド)である Holy Spirit(聖霊)だ。



そういうことか…

だから、あの冒頭の歌詞だったんだ…


Nature is taking over
my one-track mind

自然の大いなる力は
私の精神(一直線の道)を取り去る


神はイエス・キリストの基になる精神「聖霊」を天から放った。

「聖霊」の通る「光の道」は一直線に処女マリアへと続くが、なぜか神は彼女の手前で「光りの道」を取り去った。

これでは「聖霊」が処女マリアの子宮へ入れないように見える。

冒頭のフレーズは、これを説明していたわけだな。



だからこう続くんだな…


believe it or not,
you're in my heart all the time

信じようと信じまいが
すべての時において、あなたは私の中にいた


まだ男を知らないマリアが処女のまま身籠ることは、神の計画として最初から決められていたことだった…


クリスチャンはそれを信じ、非クリスチャンはそれを信じない。

日本人のようにクリスマスの時だけ信じる者もいるが。


All the girls are saying that you'll end up a fool
for the time being, baby, live by my rules

女の子は皆「騙されるのがオチ」と言う
しかし今だけはベイビー
俺に従い、身をゆだねるんだ


マリアに忠告する「女の子」って誰だろう?

聖書の受胎告知の場面に登場するもうひとりの女性エリザベスはそんなことを言わない。

彼女も神の言うことを信じてヨハネを身籠った。


エリザベスは関係ない。

そもそもエリザベスはマリアの「おばさん」で「女の子」という年ではないだろ。


『The Visitation(聖母マリアのエリザベト訪問)』
Mariotto Albertinelli(マリオット・アルベルティネッリ)


じゃあ、マリアに忠告する「女の子」とはいったい…


この歌はフラ・アンジェリコの絵『受胎告知』を歌にしたものだ。

絵の中に「女の子」がいるだろう?

マリアに対して「彼の言うことを信じちゃダメ。騙されるから気をつけて」と忠告しているように見える「女の子」が…


え?


その「女の子」は、かつて「男」からこう言われた。

「アレは絶対に食べてはいけない。もし食べたら死んでしまう」

その後「女の子」は「男」の言ったことを守っていたが、「男」は「女の子」のもとへ「長くて太いもの」を送り込み、言葉巧みに「アレ」を食べさせた。

そしてこの現場をこっそり見ていた「男」は、すべて自分の書いたシナリオであるにもかかわらず、人の言うことを信じやすい「女の子」の非を責め、彼女の子孫すべてに及ぶ重い罪「原罪」を背負わせた。

「男」に恨みをもってもおかしくない、この「女の子」の名とは?


イヴ…



そういうこと。

この絵に描かれている失楽園の時のイヴは、まさか自分の行動が神の壮大なプラン「人類救済計画」の重要な伏線になっているなんて思いもよらない。

だから「男の言うことを真に受けたら馬鹿を見るわよ」なんだな。


確かにそうだな。イヴは預言者ではないから神の真意など何も知らない。

きっと年をとってからも時々あの時のことを思い出し「人の言うことをむやみに信用しなければ、苦しみや悲しみ、自分を恥ずかしいと思う気持ちなど、知ることもなかったのに…」と悔やんでいただろう。

実際、死んだ後も天国へ行けなかったわけだし。


だから2番の歌詞はこう続く。


when I settle down, I want one baby on my mind
forgive and forget and I will make up for all lost time

わたしが落ち着く時、わたしの精神は1人の赤ん坊となる
許して、そして水に流して、わたしはすべての過失を償うだろう


「女の子」を指していたベイビーが、ここでは「赤ん坊」のベイビーに…

つまり「わたし」が「落ち着く時」とは、神の精神「聖霊」がマリアの子宮内に胎児として「落ち着く時」という意味か…


そうだ。ルー・クリスティとトワイラ・ハーバートのソングライティングはおもしろいだろ?

そしてサビへと続く。


if she's put together fine and she's reading my mind
(stop) I can't stop (stop) I can't stop myself
lightning's striking again (again and again and again)
lightning's striking again (again and again and again)


マリアは天使ガブリエルから突然「おめでとう。恵まれた女よ」と言われ、何のことだか分からず身構えた…

すると天使ガブリエルが「大いなる力があなたを覆い、あなたは男の子を身籠ります。男の子が生まれたらイエスと名付けてください」と言い、びっくりしたマリアが「待ってください。わたしはまだ男を知りません。そんなことはありえないでしょう」と拒絶した…

しかし天使ガブリエルが「これはすべて神の言葉。神には出来ないことはない!」と言うと、マリアは全てを悟り「let it be… お言葉通り、この身になりますように」と受け入れた…


そうだ。天使ガブリエルの言葉とは神の言葉だった。

神は基本的に直接人間に話しかけないことになっているので、代わりに天使や預言者を立てて代弁させるのだ。


神だけにカミナリ(神鳴り)の中から…



そして3番。もう説明は要らないだろう。

「picture」なんてネタバレまで用意されている。


There's a chapel in the pines
waiting for us around the bend
picture in your mind love forever
but till then…


松の木立の中にチャペルがある
この先を曲がったところで私たちを待っている
思い描いてごらん、あなたの心の中に絵を
愛は永遠、その時までは…


松の木立の中の結婚式場…

どっちのことだろう?

マリアの家のことにもとれるし、エデンの園のことのようにもとれる…


そうだな。どちらも結婚式をしているように見える。

マリアの家には天使ガブリエルとマリアがいて、2人の上に預言者イザヤがいる。

そしてエデンの園にはアダムとイヴがいて、2人の上に門番がいる。



続くサビも、どちらにもとれる。


if she gives me a sign that she wants to make time
(stop) I can't stop (stop) I can't stop myself
lightning's striking again (again and again and again)
lightning's striking again (again and again and again)

男「彼女が物欲しそうなサインを出してる」
女「やめて!」
男「やめられない!」
女「やめてったら!」
男「もう止まらない!」
また落雷(また!また!また!)
また落雷(また!また!また!)


アダムはイヴにビンタされてるみたいに見えるからな。

しつこくキスをせがんで平手打ちを喰らい「いてててて…」と言っている。

そしてマリアの方は上着を脱がされて「やめて!」と言っているように見える。



不謹慎にもほどがあるけど、確かにそういう風にも見える…


これと同じことを考えたのが秋元康だ。

おニャン子クラブのデビュー曲『セーラー服を脱がさないで』も、フラ・アンジェリコの絵『受胎告知』が元ネタ。



女の子が言う「お勉強してる」とか「週刊誌」は、マリアが熱心に読んでいた「旧約イザヤ書」のことか…


マリアは「乙女の妊娠」について書かれたページを読んでいた。

だからオチは「もったいないから、あげない」なのだ。


マリアは永遠の処女だから?


それもあるが、この歌のオチ「もったいないから、あげない」は「畏れ多いから、アドナイ」のジョークになっている。

旧約聖書では神の名を口にすることは畏れ多いことだとされていた。

だからユダヤ人は神を普段「アドナイ」と呼んでいた。

敬虔なキリスト教徒も滅多なことでは「Oh my God !」や「Jesus Christ !」と言わず、別の言葉に置き換えて言う。


なるほど。確かにそうだな。

それにしてもフラ・アンジェリコの絵『受胎告知』は凄い。

洋の東西を問わず、ここまで芸術家に影響を与えるなんて…


別名「カミナリの受胎告知」だけに、イマジネーションを刺激するのだろう。


そういえば、なぜ「落雷」だったんだろう?

この絵の存在を知っていれば納得だけど、そうじゃなければ意味不明だ…

衝撃的な出来事に直面した時に「雷に撃たれた」という表現はあるけど、この歌みたいにそう頻繁にあるものではない。

なぜこの歌は肝心なところでいちいちビリビリするんだ?


いいところに気が付いた。

時計台広場のシーンが「再選」という言葉から始まる理由はここにある。



は?


選挙で選ぶことは英語で何と言う? 再選は?


なぜそんなことを聞く?

選挙で選ぶことは「エレクト」で再選は「リ・エレクト」だ。

市長の選挙カーにもデカデカと書いてあるじゃないか。


カヘッ、カヘッ、カヘッ(笑)

今のお前の発音では「ERECT」と「RE ERECT」だな(笑)


え?


選挙で選ぶは「ELECT」、再選は「RE ELECT」。

お前の発音では「勃起」と「再勃起」だ。



ええっ!?


あの歌のサビ「lightning's striking again」とは「電気が再び流れた」つまり「また勃起した」のジョークなのさ。

電気に関係する単語は頭に「エレクト(elect)」がつくからな。

実際、電気を意味する「エレクトリシティ(electricity)」は「激しい興奮」という意味にも使われる。

身体に電気が流れることは滅多にないが、お前も若い頃はしょっちゅう勃起していたろう?


確かに中高生の頃は『毎度おさわがせします』みたいにすぐチンチロリンと…



フラ・アンジェリコの絵『受胎告知』の天使ガブリエルも「前かがみ」の姿勢で描かれている。

中二の心で見れば、そういうシチュエーションに見えるだろ?



確かに先入観なしでこの絵を見たら、そういうシーンに見えるかも…

何だか天使ガブリエルが木村一八に、マリアが中山美穂に見えてきた…



先入観はクリエイティブの敵だ。

宮崎駿も先入観を捨てていたからこそ、千尋が落ちた川に「コハク」という名をつけ、それを竜の姿で描いた。



は?


電気を「エレクトなんとか」と呼ぶのはギリシャ語で「琥珀」を意味する「エレクトロン」が由来。

琥珀は「こする」と静電気を発する。

つまりハクは「エレクトするロン(龍)」だから「コハク」なのだ。



そういう意味だったのか…

宮崎駿のドヤ顔が目に浮かぶ…



ずいぶんと長くなったが、これで時計台広場のシーンに、フラ・アンジェリコの絵『受胎告知』と、ルー・クリスティの歌『LIGHTNIN' STRIKES』が、落とし込まれていることがわかっただろう。

次はその前のシーン「ヒル・バレー高校(廊下&体育館)」を解説しよう。




つづく




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