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深読み探偵おかえもん引退作品『BACK TO THE FUTURE(バック・トゥ・ザ・フューチャー)』第4話


前回はこちら



やられた…


カヘッ、カヘッ、カヘッ(笑)

これくらいで驚いてもらっちゃ困るぜ。

まだ映画冒頭10分間の中の30秒程度だ。

ここから次に「車」の話が始まる。


マーティが憧れていた車…

トヨタの4WD、ハイラックスだったな…

だけど『受胎告知』に「自動車」は関係ないだろ?



ばーか。関係ありまくりだ。

しかもアレはただの「TOYOTA」じゃねえ。

「STATLER TOYOTA」だ。


スタットラー?


では、このパパゲーノ様が「車の話」を解説して進ぜよう。

マーティのセリフ「Jesus !」からだ。



まずこんなやり取りが交わされた。


Marty : Jesus ! I'm starting to sound like my old man.

Jennifer : Come on, he's not that bad. He's letting you borrow the car tomorrow night.

マーティ「ああ神様。俺、親父みたいなこと言い始めてる…」

ジェニファー「なぜ落ち込むの。彼はそこまでイケてなくはない。明日の夜あなたが車を使えるのは彼のお陰なんだから」


マーティが「同じことを言い始めている」と落ち込んだ「my old man」とは「預言者イザヤ」のこと。

天使ガブリエルの「受胎告知」は、旧約イザヤ書の預言「そのまんま」だった。


Isaiah 7:14
それゆえ、わたしの主が御自ら
あなたたちにしるしを与えられる。
見よ、おとめが身ごもって、男の子を産み
その名をインマヌエル(神は我らと共に)と呼ぶ。


だからフラ・アンジェリコは、マリアの家の上部に「預言書の巻物を持ったイザヤ」を描いた…


『Annunciation of Cortona(コルトーナの受胎告知)』
Fra Angelico(フラ・アンジェリコ)


インマヌエルついでに言っておくと、若き日の宮崎駿が大きな影響を受けたフランス映画『Emmanuelle(エマニエル夫人)』の元ネタも、フラ・アンジェリコの絵『受胎告知』だ。

マリアの「胸を押さえているポーズ」や「はだけた上着、椅子の模様」から、映画の有名なシーンが作られている。



あの籐椅子は、そういうことだったのか…

宮崎駿も『エマニエル夫人』と『受胎告知』の関係に気付いていたのか?


当たり前だろ。宮崎駿をナメんな。

だからエマニエル夫人のパロディが出て来る『ルパン三世(TV第2シリーズ)』145話のタイトルは『死の翼アルバトロス』だったんだよ。

アルバトロス(アホウドリ)はラテン語で「押し入る・侵入する白い鳥」という意味だからな。



押し入る・侵入する白い鳥?

どこに?


「白い鳥」が侵入するのは「乙女マリアの中」に決まってるだろ。



ええっ!?


やれやれ。こんなことも知らないとは。

さあ「車の話」に戻るぞ。

自分の言ってることが「my old man」とクリソツなことに気付いたマーティは、道を運ばれていく「STATLER TOYOTA」の「HILUX」に目を奪われた。

そしてマーティは、時計台前広場に面したガソリンスタンドへ入っていった「HILUX」を指さし、ジェニファーに夢を語り始める。


M : Check out that 4x4. That is hot. Someday, Jennifer. Someday…

マ「見ろよ、あの4WD。最高だな。いつの日か、ジェニファー… いつの日か…」



指をさすマーティ…

そういえば『コルトーナの受胎告知』の天使ガブリエルも、指をさしているように見える…


だよな。

天使ガブリエルが指さす先には何がある?


指さす先にあるのは…

「my old man」である預言者イザヤと…

聖霊のシンボル「白い鳥・ハト」…



その通り、松坂桃李。

つまりこの映画の中の「車」には「聖霊」が投影されているということだ。


車に聖霊が?


「HILUX」は「至高の光」という意味だ。

聖霊の白鳩は、神聖なる三位一体エネルギー「神の光」を放っているだろ。


あ、なるほど…


しかもマーティは「4x4(four by four)」だと強調した。


ハイラックスが四輪駆動車だからだろ?


別に四輪駆動のピックアップトラックなんて珍しくも何ともない。

アメリカじゃ日本の軽トラみたいなものだからな。


じゃあなぜマーティは四輪駆動を強調したんだ?

三位一体だから四ってこと?


違う。「STATLER」だから「4x4」なのだ。


は? そもそも「スタットラー」に何か意味があるのか?

ただ単に北米トヨタの現地ディーラーの名前だろ?


「STATLER」は「4x4」なんだよ。

「4x4」は「4人組のグループ」を指す言葉としても使われる。

四輪駆動車のタイヤのように四人がそれぞれの力を発揮するという意味だな。

たとえば、日本のフュージョン界を牽引した4人組バンドの CASIOPEA(カシオペア)とか…



カシオペア、めっちゃ懐かしい…

確かに『4x4(FOUR BY FOUR)』は彼らの代名詞的なアルバムだ…

このタイトルは、同じ4人組のリー・リトナー・グループと融合(フュージョン)するという意味でもあった…


そして「4x4」といえば、この4人組グループも忘れちゃいけねえ。

高校で行われるダンスパーティー「魅惑のハワイアン・ナイト」に出場するために頑張る4人組「4 by Four」…



聞いたことない4人組だな…

いかにも、ザ・80年代のB級ヒップホップって感じだ…

だけど、曲調もファッションもダンスも、一周回ってカッコいい…


いちいち感心しなくてもいい。この2つの「4x4」は例に挙げただけだ。

『バック・トゥ・ザ・フューチャー』にとって重要なのは「4x4」の「STATLER」だからな。


4人組のスタットラーってこと?


そういうこと。

日本じゃほとんど知られていないが、アメリカじゃ超有名な4人組…

グラミー賞3度の受賞を誇る、The Statler Brothers(スタットラー・ブラザーズ)だ。



この4人組は初めて見たけど、この『FLOWERS ON THE WALL』って歌は聞いたことがある…

クエンティン・タランティーノの映画『PULP FICTION(パルプ・フィクション)』でブルース・ウィルスが口ずさんでいた…



そう。だからブルース・ウィルスは車を暴走させる。

車内でスタットラー・ブラザーズの歌を聴きながら、バス(低音)の真似をしていたから。


あの低音の部分を真似していたから?

なぜ低音で「キャプテン・カンガルー」と歌うことと車を暴走させることが関係あるんだ?


あの低音は「roadhog」だからだよ。


ロードホッグ?


「roadhog」とは、車線を無視して道路のド真ん中を走ったり、アクセルを思い切り踏んで急発進をしたり、制限速度を守らずに猛スピードを出す、交通ルール無視の迷惑ドライバーのこと。

『パルプ・フィクション』のブルース・ウィルスも、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のマーティも、そうだったろう?


確かにそうだけど… なぜあの低音がロードホッグなんだ?


まあ、そのうちわかる。

それにしてもこの『FLOWERS ON THE WALL』の歌詞は面白いと思わんか?

どんな内容だったかな?


歌の中の「ぼく」は、友達もガールフレンドもいない高校生…

学校ではクラスメイトたちから空気扱いされ、何も出来ない奴だと馬鹿にされていた…

学校のダンスパーティーで自分が「壁の花(誰にも相手にされない人)」の一人であることも全然気にならないと言い、家で「トランプ」をしたりコメディ番組「キャプテン・カンガルー」を見て過ごすのも悪くないよとヘラヘラ語る…

だけど本当は、華麗な燕尾服に身を包み、密かに想いを寄せる女の子と踊りたいと思っていた…

自分の情けなさ・負け犬根性を必死で誤魔化している、哀れな「ぼく」の姿…


「ぼく」は「誰かさん」みたいだよな…

「トランプ」と「コメディ番組」とも縁が深い…



マーティの父、ジョージ・マクフライ…

ジョージをいじめるビルのモデルは「ドナルド・トランプ」で、趣味は家で「子供向け番組やコメディ番組」を見ること…

確かに『FLOWERS ON THE WALL』の「ぼく」みたいだ…


ちなみに「ぼく」が好きな『CAPTAIN KANGAROO』は「1955年」に始まったコメディ番組。

オープニング曲には「白い家」と「太陽」と「白い鳥」が出て来る。



「白い家」と「太陽」と「白い鳥」?

1955年といえば、マーティがタイムスリップした年だ…

でも偶然だろ?


ふふふ。はたして偶然かな?

スタットラー・ブラザーズには『Do You Remember These?』というヒット曲もある。

1950年代の文化を歌にしたものだ。



『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の1955年の世界そのもの…


ちなみにスタットラー・ブラザーズがグループを結成したのも「1955年」。

1955年に「Virginia(ヴァージニア)」の田舎町にある教会で、カントリー調ゴスペルソングを歌うグループとして活動を始めた。



スタットラー・ブラザーズも1955年?

ヴァージニアの教会で結成?


だからスタットラー・ブラザーズには、旧約聖書と新約聖書を歌にした『HOLY BIBLE 』二部作『OLD TESTAMENT』と『NEW TESTAMENT』がある。



旧約と新約を丸ごとカントリー調ゴスペルの歌に…

すごいな…


スタットラー・ブラザーズの凄さは、これだけではない。

彼らには、もう1つの顔があった。


もう1つの顔? 何だいそれは?


コメディ番組での「顔」だよ。


コメディ番組?


スタットラー・ブラザーズは1970年代にテレビのコメディ番組で、架空のバンド「Lester "Roadhog" Moran & the Cadillac Cowboys」を演じて人気を博した。



レスター "ロードホッグ" モラン&ザ・キャデラック・カウボーイズ?


低音バス担当の人物のニックネームが「ロードホッグ」なんだな。

おそらく彼は実生活で車の運転が乱暴だったのだろう。


なるほど…

ところで、ロードホッグの低音ダミ声のMC、何て言ってたんだ?

クセが強すぎて、よく聴き取れなかった。

ハイスクールがどうのこうの言ってたと思うけど…


彼らは Rainbow Valley(レインボー・バレー)という町にある Johnny Mack Brown High School(ジョニー・マック・ブラウン・ハイスクール)で開催されたダンスパーティーに出演し、あまりにも斬新過ぎる演奏で人々の度肝を抜いた…

そして、その場にたまたま居合わせた音楽関係者がレコード会社に電話し、すぐにレコーディングが行われ、発売されたレコードは大ヒット…

彼らは一躍スターになったという…


何だか『バック・トゥ・ザ・フューチャー』みたいだな…

ヒル・バレーという町にあるヒル・バレー高校で開催されるダンスパーティーに出演したマーティの演奏が人々の度肝を抜き、それを会場から電話で聴いていたチャック・ベリーがレコーディングしてスターになった…



「みたい」じゃない。これが元ネタなのさ。


え? 嘘だろ?


俺様が嘘など言うものか。

レスター "ロードホッグ" モラン&ザ・キャデラック・カウボーイズのギタリストは、チキン野郎と呼ばれるほどの臆病者で、緊張すると手が動かなくなって演奏が滅茶苦茶になるという設定だった…



あっ…



なあ? 俺様の言う通りだろ?


でも… なぜシナリオを書いたボブ・ゲイルは、スタットラー・ブラザーズを元ネタにしようと考えたんだろう…


おそらく、この歌だろうな…

スタットラー・ブラザーズが三度目のグラミー賞を獲得した歌…

The class of '57…



クラス・オブ・57?


日本で言うと高校三年にあたるアメリカの義務教育最終学年グレード12…

その1957年度卒業クラスの「その後」を歌った曲だ。


1957年の卒業生?

スタットラー・ブラザーズは1955年に結成されたんだろ?


スタットラー・ブラザーズが結成された1955年、彼らはまだ高校在学中だった。

高校のダンスパーティーで音楽を演奏したいから、同じ教会に通う仲間4人で始めたんだな。

だから高校卒業は1957年。


なるほど、そういうことか…

だけどこの『Class of '57』は随分と変わった曲だな…

延々とクラスメイトの「その後」が語られる…


トミーは中古車を売っている
ナンシーはヘアメイクをしていて
ハービーは食料品店を経営している
マーガレットのことはどうでもいい

ジェリーはシアーズのトラック運転手
シャルロットは追っかけに夢中
ポールは生命保険を売っていて
ついでに不動産も扱っている

ヘレンはホステスをしていて
フランクは製粉所で働いている
ジェネットは小学校の先生で
たぶんずっとそうだろう

ボブは市役所で働いていて
ジャックは研究所にいる
ペギーは長老派教会でオルガンを弾いている

Class of '57 は夢を抱いていた
僕たちは自分の手で世界を変えられると思っていた
世界は僕たちの望む通りに変わるんじゃないかとね
Class of '57 は夢を抱いていたんだ

ベティはトレーラーパークの経営者
ジャンはタッパーウェアのセールスマン
ランディは狂気じみた戦争へ行き
メアリーは生活保護を受けている

チャーリーはフォードで職を得て
ジョーはフレディの奥さんを奪った
シャルロットは億万長者をつかまえて
フレディは自ら命を絶った

ジョンは畜牛業界でビッグになり
レイは借金苦にあえいでいる
メイヴィスがヤバいことになっているのは
皆が予想していた通り

リンダはソニーと結婚した
ブレンダは僕と結婚した
僕たちのクラスは歴史のほんの一部分

Class of '57 は夢を抱いていた
だけど人生は日々の生活に追われる毎日で
あの頃に思っていたのと全然違っていた
モノゴトは単純な話じゃなくなってくる
18年も時間が過ぎてしまえばね
だけど Class of '57 は夢を抱いていたんだ
Class of '57 は夢を


何だか、この歌も『バック・トゥ・ザ・フューチャー』みたいだな…


「みたい」じゃねえ。「そのもの」なんだよ。

Things get complicated when you get past eighteen(18年も過ぎれば人生が酷く込み入ったものになる)を Things get complicated when you get past eighty's(80年代になれば人生が酷く込み入ったものになる)にしたんだな。



18(エイティーン)を、80's(エイティーズ)に?

確かに1980年代のジョージとロレインは、人生がひどく込み入ったものになっていた…


二人が結ばれた古き良き50年代は、誰もがバラ色の未来を想像していた。

科学はどんどん進歩し、経済はどんどん発展し、暮らしはどんどん豊かになり、夢のような未来が来ると信じていたんだ。

そんな時代だったから、ポピュラー音楽の歌詞も能天気な内容ばかりだった。


いわゆる「オールディーズ」の時代…



キャデラックに乗ったイケてる男と、服もメイクもばっちりキメた女が、くっついたり離れたりする他愛もない歌だな。

しかし60年代に入ると様々なことが狂い始め、70年代に入る頃には社会はすっかり混沌としていた。

だからスタットラー・ブラザーズの『FLOWERS ON THE WALL』が大ヒットしたんだ。

それまでのポピュラー音楽では決して主人公になり得なかった、絶望的な未来しかない負け犬高校生の歌だったから。


なるほど…

だからあの車のディーラーは「スタットラー」だったというわけか?

負け犬高校生の歌「FLOWERS ON THE WALL」がジョージ・マクフライで…

高校のダンスパーティーで度肝を抜いた「Lester "Roadhog" Moran & the Cadillac Cowboys」がマーティ・マクフライで…

想像と違った未来の歌「Class of '57」がロレイン・マクフライ…


そういうことだ。

ちなみにスタットラー・ブラザーズ本人たちも、映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』に自分たちが関係していることを気付いていた。


え? そうなのか?


だから映画公開の2年後、1987年に、こんなアルバムを発表した。

MAPLE STREET MEMORIES、「メイプル通りの思い出」だ。



なんだこれ…

車に乗って1980年代から1950年代にタイムスリップし、自分のハッピーエンドを見届けて、再び1980年代に帰って来る…

『バック・トゥ・ザ・フューチャー』そのものじゃないか…


この表題曲の他の曲も『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のストーリーそのものの内容になっている。

だからアルバムの最後を飾る曲は『Jesus showed me so(神は僕に奇跡のわざを見せてくれた)』なんだな。



せっかく神の奇跡の素晴らしさを歌っているのに、最後が「神は水をワインに変えた!」はないだろう?

変なオチのせいで感動が台無しだ。


『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の最後もそうだったろ?

気の抜けたビールを核融合装置「MR. FUSION」に入れて超絶エネルギーに変えた(笑)



あっ…


本当ならこのアルバムの曲を全部解説したいのだが、そんなことをしていたら話が長くなってしまう。

またの機会にしておこう。


にわかには信じられない…

それにしても、なぜ脚本家のボブ・ゲイルは、スタットラー・ブラザーズを「使える」と思いついたのだろう…


なんてったって、クラス・オブ・’57 だからな。


は? ジョージとロレインはクラス・オブ・'55 だろう?


そのうちわかる。では話の続きをしよう。

「STATLER TOYOTA」の「4x4 HILUX」を前にしたマーティが語る「未来の夢」の話…

というか、フラ・アンジェリコの絵『受胎告知』の話だな…



つづく




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