我々はどこから来たのか?我々は何者か?我々はどこへ行くのか?《深読み 千と千尋の神隠し&タイタニック》vol.35
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2019年12月XX日
途方もない考えに取り憑かれた男の夢の中
第一階層『千と千尋の神隠し』
国道21号の分かれ道
たった一度の交わりでローズは身籠り、シングルマザーとして子供を産む…
そしてカルフォルニアへ向かい、ハリウッドで映画女優になり、飛行機に乗ったり、ゾウに乗ったり、巨大カジキを釣り上げたり、サンタモニカでローラーコースターに乗る…
これらもすべて『ヨハネの黙示録』に書かれている通りの未来…
それでは解説しよう…
ニューヨーク港へ上陸したローズの、その後の人生を…
『ヨハネの黙示録』第21章でヨハネに「結婚の準備を整えた花嫁」のビジョンを見せた御使は、その前にも、同じような内容を「別の形」で見せていた…
ジェームズ・キャメロンが映画の中では描かなかった「ローズの未来」は、そこに隠されている…
世界の終わりハルマゲドンが起こる前、第六の御使はこう言った…
「もう時がない。第七の御使が吹き鳴らすラッパの音がする時には、神がその僕(しもべ)、預言者たちにお告げになったとおり、神の奥義は成就される」
そして、天から聞こえて来る声は、こう告げた…
「さあ行って、海と地との上に立っている御使の手に開かれている小さな巻物を、受け取りなさい」
これを再現したのが、ジャックがローズに渡した紙片のメッセージと、待ち合わせ場所の階段…
「make it count, meet me at the clock」と「天使の像」…
ジェームズ・キャメロンが、ジャックにあのアングルでローズの手にキスさせたのは、後ろの天使像が持っていた「ラッパ」を吹いたように見せるため…
実際ジャックは「ラッパ」のリード部分の位置を視線で確認していたわね…
そして「小さな巻物」には、ジャックの紙片の他に、もう1つの意味が隠されていた…
それは、ジャックのDNA、染色体の中の遺伝情報だ…
2本の糸が渦巻状になっているDNAは、まさに「小さな巻物」と言える…
「わたし」は御使のところへ行って「あなたの小さな巻物をください」と言った…
「わたし」が「小さな巻物」を口にすると、これまで経験したことのない甘美な喜びが全身を包んだ…
これはまさにローズがジャックを受け入れたシーンそのもの…
しかし、体内の奥まで入った「小さな巻物」は、「わたし」の身体に異変を起こす…
口にした時の甘美な喜びとは打って変わって、奇妙な違和感、気持ち悪さをを「わたし」は感じた…
これはまさに「悪阻(つわり)」のこと…
わたしは御使の手からその小さな巻物を受け取って食べてしまった。すると、わたしの口には蜜のように甘かったが、それを食べたら、腹が苦くなった。
そして、第七の御使のラッパによって、地上世界に大いなる災いがもたらされる…
雷鳴のような爆音と、地震のような激しい衝撃…
見たこともない巨大な氷が人々を襲い、多くの命が失われた…
まさに、巨大な氷山に衝突して大破・沈没したタイタニック号のように…
しかし、世界の終わりのような大惨事が起きた後、『ヨハネの黙示録』は意外な展開をみせる…
壮絶な死のドラマの次に、生の物語が始まるのだ…
絶望の淵にあった人に「希望」を抱かせる、力強い生の物語が…
大いなるしるしが天に現れた。ひとりの女が太陽を身につけ、足の下に月を踏み、その頭に十二の星の冠をかぶっていた。
確かに「大いなるしるし」が「天に現れた」…
自由の女神の頭には、放射状に光線が突き出た「星の冠」がある…
そしてローズの頭上にも、差し出された傘によって「星の冠」がかぶせられた…
つまり「大いなるしるし」とは…
「自由の女神」だけでなく「ローズ自身」のことでもある…
まさに『ヨハネの黙示録』の通りに…
この女は子を宿しており、産みの苦しみと悩みとのために、泣き叫んでいた。
この時はまだ気付いていないけど、しばらくしてからローズは「体の異変」を知る…
そして、苦しみと悩みのために、泣き叫ぶ…
男性よりも遥かに社会的立場の弱い女性が、過去を捨てて偽名を使って生きていくだけでも大変なこと…
そこに、当時の価値観ではあってはならない「未婚の妊娠」だから、普通ならもう人生が詰んだも同然…
しかし、ローズの苦悩は一瞬にして吹き飛ぶことになる…
それどころではなくなったからだ…
また、もう一つのしるしが天に現れた。見よ、大きな、赤い龍がいた。それに七つの頭と十の角とがあり、その頭に七つの冠をかぶっていた。その尾は天の星の三分の一を掃き寄せ、それらを地に投げ落した。龍は子を産もうとしている女の前に立ち、生れたなら、その子を食い尽そうとかまえていた。
突如ローズの前に現れた「赤い龍」…
この後に「悪魔・サタン」であり「年を経たヘビ」とも呼ばれるから…
「赤い龍」とは、ローズの母ルースのこと…
それは湯婆婆…
ルースはこっちだ…
ごめんなさい。つい…
過去を回想した老ローズは、母ルースの「その後」については一切触れなかった…
元婚約者キャルの「その後」には触れたにもかかわらず…
これはあまりにも不自然だ…
母との間に重大なトラブルがあったと考えるのが普通だろう…
母が娘の生死を確かめないはずがない…
しかも、借金だらけの女主ルースにとって、政略結婚のコマである一人娘のローズを失ってしまったら、派手な生活が出来なくなってしまう…
ルースは何度も当局に問い合わせ、生存者名簿の中に「Rose Bukater」の名があるかどうか尋ねたはず…
だけど何度調べてもらっても「Rose Bukater」という名は載っていない…
そんな時、ルースはふとジャック・ドーソンのことを思い出す…
もし彼が生きていれば、タイタニック沈没の日のローズに関する情報を知っているかもしれない…
ルースがジャックの名前の有無を問い合わせてみると、こんな答えが返って来た…
「Jack Dawson は無いけれど Rose Dawson という名前ならある」
その瞬間、ルースは娘が生きていることを確信した…
おそらくローズはニューヨークに住んでいた…
過去を捨て、偽名で入国したローズは、家出人や不法移民と同じような状態…
そういうワケありの人々が大勢いる巨大都市でなければ、生きていく術はない…
当然ルースも同じことを考えた…
そして、ワケありの人物が身を寄せそうな場所を探り…
ついに「ローズ・ドーソン」を発見する…
しかし、ようやく再会できた娘は、あろうことか、妊娠していた…
しかもお腹の中の子の父親は、あのジャックだという…
ルースは怒り狂った…
大金持ちに嫁がせるはずだった一人娘の腹の中に、名も無き貧乏人の子がいる…
自分が贅沢な暮らしを続けるには、その子の存在をこの世から、消し去らなければならない…
母は娘にお腹の子の処分を迫った…
だけど娘は母の言うことを聞かなかった…
なぜなら、ローズにとってお腹の子は、ジャックが残した唯一の「あかし」…
その子がいなくなってしまえば、この世界にジャックが存在したという「あかし」は無くなってしまう…
説得に失敗したルースは作戦を変え、ローズの出産の時を待つことにした…
出産直後に赤ん坊を奪い、密かに亡きものにしてしまおうと…
しかし『ヨハネの黙示録』は、こう続く…
女は男の子を産んだが、彼は鉄の杖をもってすべての国民を治めるべき者である。この子は、神のみもとに、その御座のところに、引き上げられた。
ルースの恐ろしい計画を察知したローズは、母の目を盗んで出産した…
そして生まれた子を、密かに「神のみもと」に預けた…
ローズが唯一頼ることの出来た「神」のところに…
その「神」は、ローズの身の危険を案じていた…
もしも母ルースがこの事実をローズの婚約者キャルに教えたら、極めて深刻な事態になるからだ…
自分のフィアンセが、婚約中の身でありながら、夫以外の男の子供を身籠り、出産した…
そんなことをキャルが知れば、ローズに対して激しい憎悪と復讐心を抱くに違いない…
だから「神」は、ローズを遠い「荒野」へ逃がすことにした…
顔の広い「神」が「荒野」に用意した場所へ…
そこでローズは、42ヶ月、つまり三年半の間、匿われた
女は荒野へ逃げて行った。そこには、彼女が千二百六十日のあいだ養われるように、神の用意された場所があった。
あの頼れる「神」は、本当に顔が広かった…
元々アメリカ西部の経済界で活躍していたから、「荒野」にも人脈があったはず…
実際「神」は、ローズのように映画女優をしたこともある…
その「神」の名は、Margaret Brown(マーガレット・ブラウン)…
タイタニック沈没事故の際、女性ながら救助活動でリーダーシップをとり、人々から Unsinkable Molly Brown(不沈のモリー・ブラウン)と呼ばれた大富豪で社会活動家の女性…
若い頃に様々な苦労を経験してした彼女は、ジャックとローズの唯一の理解者だった…
それは銭婆…
モリー・ブラウンはこっちでしょ(笑)
すまん。つい…
モリー・ブラウンは私財を投じて社会活動をしていた…
女性が安心して働ける環境づくりや、シングルマザーになってしまった女性の受け皿づくりなど、女性の地位向上や社会進出を助けるために…
もしかしたらローズは、ニューヨークでまずモリー・ブラウンと連絡を取り、何らかの世話になったのかもしれない…
そうでもなければ、住所不定無職どころか、この世界のどこにも存在を証明する記録がない「ローズ・ドーソン」という人間は、生きていけなかったはず…
だからローズは出産後、すがる思いで彼女に我が子を託した…
我が子をルースの魔の手から守るには、そうするしかなかったから…
そしてモリー・ブラウンは、ローズ自身の身も守るため、「荒野」へ避難させた…
「荒野」とは、もちろん「HOLLYWOOD(ハリウッド)」のこと…
1910年代初頭、まだ誕生間もないハリウッドは、まさに荒野の中にあった…
つづく
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