『深読み カイト』中篇「アラシィ」
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2019年12月24日深夜
スナックふかよみ
米津玄師は、やはり天才だね…
よくもまあ『カイト』なんてタイトルを思いついたもんだ…
ここまで「嵐」というグループを言い表した言葉は、ないんじゃないかな…
嵐というグループを言い表してる?
いったい、どういうことなの?
では、話そうか…
『カイト』というタイトルに隠された秘密を…
ゴクリ…
カランカラン♫
(ドアが開く音)
メルカリ~じゃなくてメリクリ~!
タコ!?
ちょ、ちょっと…
ダメでしょ、そんなこと言っちゃ…
深代ちゃん、なんで分かったの?
相変わらず凄い嗅覚ね、食べ物に関してだけは…
はい、タコ焼きの差し入れ。
たこやき、ですか?
でも今日はクリスマス・イヴ…
クリパといったらタコパでしょ!?
タコパ?
タコ焼きパーティーよ!
うちの店、毎年イブの夜はタコパなの。いっぱい作ったから、お裾分け。
ホラ、あったかいうちに食べて食べて…
それじゃあ、いただきます…
ハグハグ…
美味しーい!
でしょ?
今年は本場大阪の名店秘伝のレシピで作ったのよ。
どうりで… モグモグ…
ところでさ、ちょっと聞きたいことがあるんだけど…
なあに?
タコ見かけなかった?
タ、タコ!?
明石から生きたタコを5匹仕入れたんだけど、気がついたら1匹いなくなってたのよね…
みんなで店の中を探したんだけど見当たらなくて…
もしかしたら、窓とか通気孔から下に降りて逃げたのかも…
い、生きたタコが?
ゴクリ…
うん... わかった…
もし見かけたら... 連絡する…
よろしく哀愁。
しかしアンタたちさ…
クリスマス・イブの夜だってのに、また深読み?
他にやることあるでしょ?
他にって、何を?
ハァ…
アンタに聞いたのが間違いだったわ…
解毒剤なんか飲ませないで、あのまま脳味噌が「沈黙」したままにしとけばよかった…
そしたら深読みなんてすることもなく、ごくごく普通の男としての人生が送れたのに…
そうよね… それが正しい選択だったのかもしれない…
だけど、あたしが選んだことだから…
深代ちゃん…
さっきから何の話をしてるの?
「解毒剤」とか「沈黙」とか…
ううん、何でもない…
深読み、しよ。
?
ちなみに今夜は何を深読みング?
米津玄師&嵐の『カイト』よ。
『カイト』って…
まだタイトルしか発表されてないじゃん。
誰かさん曰く…
「カイト」の三文字で、すべてが分かったんですって…
「カイト」という言葉の中に、嵐のすべてがあるって…
「カイト」の三文字で?
確かに「モノゴトは3語で伝わります」って言うけど…
そうなの?岡江ッチ?
イエス。
ちょっと面白そうだから、アタシも聴いてっちゃお。
うちの若い子たちも気になってるみたいなのよね。「カイトって何?」みたいな…
いったいぜんたい米津玄師は「カイト」にどんなカラクリを仕込んだのかしら?
教えて、岡江ッチ!
それじゃあ、まずは…
米津玄師の立場になって考えてみよう。
米津玄師の立場?
深読み十則その5「深読みする対象の立場で考えよ」…
深読みは、ターゲットの立場でモノを考えることから始まる…
対象に寄り添わない、独りよがりの深読みは、大きく道を誤るんだよ…
米津玄師の立場って…
嵐ラストイヤーの公式ソングを依頼された立場ってこと?
そう。
日本の芸能史に残る国民的アイドルのラストイヤーを飾る曲だ。
もし深代ママが米津玄師の立場だったら、どうする?
そうね…
『パプリカ』以上にテレビで流れまくるだろうから、気合入れて作ろうって考えるかな…
「嵐といえばカイト」みたいになるように…
だよね。僕も米津玄師の立場なら、そう考えるだろう。
この一曲で嵐が語れるくらいの作品にしたいと思うはずだ。
それじゃあ、その次はどうする?
その次?
やっぱ、いろいろ調べるんじゃない? 嵐のことを…
いろいろ調べるって?
やだアンタってば。まだあの本読んでないの?
物書きは「調べる」が9割9分5厘6毛!
貸したの何ヵ月前だっけ?
あ、ごめん…
読もう読もうと思ってるんだけど…
嵐のために最高の歌を書くのなら、まずは嵐のことを調べなければいけないよね。
そもそも「嵐」という名前には、どんな意味が込められているのか知ってる?
それくらい調べなくても分かるわよ。
「世界中に嵐を巻き起こす」って意味でしょ。
だけど、その「嵐」は正式名称ではない。
正しくはアルファベットで「ARASHI」なんだよね。
ジャニーズ事務所のHPでもそうなってる。
え? マジで?
アタシもてっきり、漢字で「嵐」だと思ってた…
なぜ?
きっと米津玄師も同じことを思っただろう。
なぜ「嵐」ではなく「ARASHI」なのか?
そして「ARASHI」という言葉について、いろいろ調べて、あれこれ思索したはず…
だけど「ARASHI」の何を調べて思索するっていうの?
きっとジャニーさんの思いつきでしょ?
思い出してほしい…
米津玄師は、言葉や文字から様々なイメージを引き出す才能に長けていた…
例えば「米」や「光」という文字から「切り分けた果実の片方」という歌詞を導き出したりね…
つまり米津玄師は「ARASHI」という名前から、「カイト」につながるイメージを導き出したってこと?
間違いないね。僕なら、そうする。
でも「ARASHI」なんて「嵐」としか読めないじゃん。
そんなことないよ。
「ARASHI」は「AIに包まれたRASH」と読める。
AIーー!?
それって「愛」のこと?
そうだね。「愛に包まれたRASH」だ。
「RASH」って通勤ラッシュのラッシュ?
それは「RUSH」。
わかった!おしゃれ男子御用達の石鹸屋さん!
それは「LUSH」。
じゃあ何なのよ「RASH」って?
サーファーが着る「ラッシュガード」の「RASH」だ。
「無謀な」とか「向こう見ずな」という意味。
つまり「理性より感情が先走る」とか「やりたいことを止められない」というニュアンスの言葉だね。
それが「愛」に包まれている…
込み上げる熱い想いが、愛という優しいオブラートに…
というふうに読めるよね。
でもまだ「カイト」には辿り着けないわ。
では、「RASH」を別の角度から攻めてみよう。
実は「RASH」には「美しい布・タペストリー」という意味もある。
タペストリー?
キャロル・キングで有名な「つづれ織り」のこと?
そう。
その由来は、中世ヨーロッパでタペストリーのことを「ARRAS」と呼んでいたからだと言われている…
今でもポーランドでは「ARRASY」と呼ぶんだよね…
『至福の楽園』
ヴァヴェル城のタペストリー(Arrasy Wawelskie)
アラシィ!?なにそれ!?
ヨーロッパでタペストリーが盛んに作られた16世紀頃、その中心地はフランスとベルギーにまたがるフランドル地方の街「ARRAS(アラス)」だった…
だからタペストリー自体を「ARRASY」と呼ぶようになったというわけ…
「アラス」って、どこかで聞いたことあるわ…
たしか…
サン=テグジュペリの本のタイトルに「アラス」がついてたような…
さすが元文学青年。
『Flight to Arras』、邦題は『アラスへの飛行』もしくは『戦う操縦士』。
『星の王子様』のサン=テグジュペリが、何しにアラスへ飛んで行ったの?
侵攻してきたドイツ軍と戦うためだよ。
1940年5月、サン=テグジュペリが属するフランス空軍は、フランス北部、ベルギーとの国境近くにあるアラス地方で、ドイツ空軍と激しく衝突した…
しかしフランス空軍は大敗…
制空権を奪われ、補給路を断たれてしまい、多くの地上部隊がフランス北部で孤立してしまったんだ…
そうして、クリストファー・ノーランの映画で有名な「ダンケルク撤退作戦」が行われた…
そうそう。そうだった…
アラスの戦いで敗れたサン=テグジュペリはアメリカへ亡命し、そのあと自由フランス軍に志願して、北アフリカ戦線に配属されたのよね…
その通り。
だけど…
まるで絵画みたいに色鮮やかに織り込まれたタペストリーを、あのアラスにちなんで「アラシィ」と呼ぶなんて知らなかった…
そういえばさ…
「凧」にも…
色鮮やかに絵が描かれてるわよね…
あっ!
優しい愛に包まれた、込み上げる熱い想い…
そして愛に包まれた、色鮮やかなタペストリー…
それが「ARASHI」…
なんか「カイト」に近付いてきた感じがする…
これで「カイト」という三文字を読み解く準備が整った。
ここからが本番だよ。
あ、タコ焼きが!
ごめん。全部食べちゃった。ごちそうさま。
まだ欲しかったら上から持ってくるけど。
ううん。もうやめとく。
まだケーキも食べなきゃだし…
じゃあ始めようか。
天才 米津玄師が「カイト」の三文字に仕掛けたカラクリとは…
いったい何なのか…