ツルガキ!天才クリストファー・ノーランの「クーパー三部作」解説決定版!/『MEMENTO(メメント)』編
まいど!ワイは鶴や!ツルヤナンボクや!
ええじゃろうだよ!
天才クリストファー・ノーランに衝撃を受けた、おかえもんです。
なんやねん、いまさら。
みんな知っとるで、ノークリが天才やっちゅうことくらい。
の、のーくり?
おっと、ついついギョーカイ用語で言うてしもうた。
ちなみに原案や脚本を担当する弟ジョナサンは、ノージョナて呼ばれとる。
今時そんな業界用語だれも使わないよ…
「ザギンでチャンネーとシーメー」じゃないんだから…
昭和を引きずりすぎ…
でもいちいち「クリストファー・ノーラン」って書くの面倒だから、今回は「ノークリ」でいこうか。
<ノークリ>
そんな理由か!
さて、なぜ僕が今回ノークリの映画について書こうと思ったのかを簡単に説明しておこう。
まず僕は、とある依頼を受けたんだ。「ノークリの作品について記事を書いてくれ」って仕事をね。最新作『ダンケルク』がアメリカで大ヒットしてるんで、日本公開に向けて雑誌や映画チャンネルなどでノークリ特集が組まれているのは君たちも知ってるだろうけど、まあその一環だと思ってくれ。
ふむふむ
でも、よく考えたら…
僕は観たことなかったんだよね、ノークリ映画を。
へ!?
凄い作品を撮る人だってことだけは知ってたんだけど、実はそれがどんな映画で、彼がどんな人なのかは全然知らなかったんだ。
前から思ってたんやけど、それでよう映画の仕事やれとるよな、オッサン。
約二十年間、世間と接触を絶っていたからね。暗い穴倉の中で。
でもノークリがバットマンの凄いやつを撮ったらしいってことは知ってたよ。ヒース・レジャーがとんでもないジョーカーを演じて、びっくりするくらいの傑作になったってことはね。でもこれまで観る機会がなかったんだ。
で、今回ノークリの仕事が来たんで彼の作品を観ることになったという次第。
こうして僕は、ついにノークリ・バージンを捨てる時が来たんだ。
次は春樹童貞やな。
デビュー作の『FOLLOWING(フォロウィング)』(’98)から彼の作品を全部観ようかとも思ったんだけど、それも大変なんで、ノークリが監督&脚本を担当した作品で、しかも確固たる原作があるわけではないオリジナル作品に絞ってみようと考えたんだ。
ノークリの映画に対する思想を、最も手っ取り早く理解できると思ったんでね。
そういうわけで、
『MEMENTO(メメント)』(’00)
『INCEPTION(インセプション)』(’10)
『INTERSTELLAR(インターステラー)』(’14)
の三本に絞られた。
3つならすぐに観れるだろうって、レンタルしてみたんだよね。
なるほど。
興行収入10億ドル越えのメガヒットを記録した代表作『ダークナイト』と『ダークナイト ライジング』を観ないでノークリを語るってわけだね。
おかえもんらしい。
いや、でもこれで正解だったよ。
映画三本観るだけなら普段一日あれば十分だけど、ノークリの映画は濃厚すぎた。噂通りだったね。しかも余りにも僕好みなんで、この三本を自分なりに消化するのに、それぞれ丸一日、合計で三日間もかかってしまった。
へえ!
もう、驚いたね。
映画を観てここまで快感を覚えたのは二十数年ぶりだよ。
二十歳過ぎの頃だったかな。アンドレイ・タルコフスキーにハマったとき以来だ。
思わず途中で何度も「ああ!」とか「おお!」って歓喜の声を出してしまった。ちょっとしたエクスタシーってやつだね。
キモいわ、オッサンのエクスタシー。
僕は三作品で確信したよ。
やっぱりノークリは天才だった!
たぶんみんな知ってる!
たとえそうだとしても僕は声を大にして言いたい。
彼は本当に素晴らしい!
バカがつくほどストイックなエンターテイナーであり、どこまでも己の感性に正直なイリュージョニストだ!
あんな人に僕はなりたい!
なりなはれ。
そうだね。待っててくれ。僕は必ず君たちをレッドカーペットに連れて行くからね。
そりゃ楽しみだ!
しかもね、僕が選んだ三作品は面白いことにテーマやストーリーが繋がっていたんだ。これにはさすがの僕もたまげたね。
記憶障害の男の復讐劇、階層化された夢の中で繰り広げられるバトル、人類の新天地を求めて宇宙に飛び立つ男の物語…、全然関係なさそうな作品なのに、共通した世界観が通底してるんだよ。
なんて奴なんだ、ノークリって奴は!
どれも名作やったけど、「繋がり」なんてあったか?
大有りだよ。
三作品とも「妻の死を乗り越えられない男」を主人公に描いた作品だ。
『メメント』では絶望的に、『インセプション』では悲哀的に、そして『インターステラー』では希望的に。
でも、それだけじゃない…
とんでもない「繋がり」があったんだ。
だから僕はこの三作品を「クーパー三部作」と呼びたい。
たまたま観た3つの映画を勝手に「三部作」にしちゃっていいの?
しかも「クーパー」って『インターステラー』でマシュー・マコノヒーが演じた主人公の名前だよね…
『メメント』と『インセプション』には全く関係ないと思うんだけど…
それがなんで「クーパー三部作」になるの?
クーパーはクーパーでも…
「車のクーパー」だよ。
ふぁ!?
さらに意味不明!
『メメント』で主人公の車はジャガーだったし、『インセプション』のカーアクションにもクーパーは出て来なかったぞ!
たぶんノークリも最初は「クーパー三部作」にする構想は無かったと思う。
でも『メメント』が公開された2000年に自動車メーカー「クーパー」を創業したジョン・ニュートン・クーパーが亡くなったことで、三部作の構想が徐々に浮かんできたんだと思う。(J・N・クーパーのwikiはこちら)
クーパー社共同創業者C・N・クーパー&J・N・クーパー
はぁ!?どゆこと?
ノークリの映画は一般的に「難解」って言われるんだけど、実は非常にシンプルに作られている。登場人物の名前が全てを物語っているんだ。キャラクターの名前の由来を考えると、難解とされる映画の構造もよく見えてくる。
そして彼の映画って、よく「どちらともとれる結末が特徴」って言われるけど、実はそんなことはない。ヒントは必ず映画の中に「わかりやすく」置かれているんだ。ただ、それを見逃すように上手い仕掛けが施されている。人間の性質や習慣を利用したトリックでね。まるで手品師が観客にやるように…。ノークリは本当にイリュージョニストなんだよ。
だからイリュージョニストを主人公にした『プレステージ』なんて映画も撮ったんだな!
「クーパー三部作」の第三作『インターステラー』は、その「ジョン・ニュートン・クーパー」に着想を得ている。彼は優秀なエンジニアだった父の影響で幼くして天才的メカニックエンジニアとなり、第二次世界大戦中にイギリス空軍で戦闘機の「計器の設計」に携わった。彼は十代半ばで父のもとを離れ、名門ホッカー社で修行していたからね。『ダンケルク』にも登場するスピットファイアが大量生産される前の主力戦闘機だった名機ホッカー・ハリケーンで有名なメーカーだ。そして終戦後に父とは別に自動車事業を立ち上げる。やがてこの父子の事業を合併しクーパー社が誕生、1950~60年代に世界のカーレースを席巻し、自動車の歴史を大きく変えた。
だから主人公は宇宙飛行士でジョセフ・クーパーと名付けられ、「計器」が物語の重要なアイテムとなっている。そしてニュートンつながりのアイザック・ニュートンに敬意を表して「重力」と「運動量保存法則」が映画の重要なキーワードになっているんだ。別々に見えた父子の「事業」が合流するところも一緒だね。
なるほど!言われてみれば、確かに!
ジョン・ニュートン・クーパーの父親は根っからのメカ好きだった。だから彼は物心ついた頃にはもうガレージの中にいて、父の機械をオモチャ代わりに育ったそうだ。
さて、その父の名前をチャールズ・ニュートン・クーパーという。「クーパー三部作」の第二作『インセプション』は、ジョン・ニュートン・クーパーの父であり、クーパー社の共同創業者でもあるチャールズ・ニュートン・クーパーから着想を得ている。
チャールズ・ニュートン・クーパーはパリで生まれた。イギリス生まれの父と、フランス人の母がパリを拠点にショーの仕事をしてたからだ。息子にも同じ世界に来てほしいという父の願いも空しく、チャールズ・ニュートンはメカニックとサイエンスの世界に引き込まれた。『インセプション』ではレオナルド・ディカプリオ演じる主人公コブがパリの大学で建築学を学び、教授の娘とパリで恋に落ちたという設定になった。義父の願いを「それでは食っていけない」と聞き入れないところも同じだ。
そして、コブが夢の中で使う偽名が「チャールズ」だったね。ニュートン由来の「落下」も映画で重要な意味を持っている。
辻褄が合ってる…
おかえもんの妄想の域を超えとるな。信用度90%や。
そしてチャールズ・ニュートン・クーパーの父の名を、チャールズ・レナード・クーパーという。チャールズ・レナードは、パリを拠点にフランスやスペインで活動するイギリス人舞台役者だった。妻はフランス人で踊り子だったらしい。
「クーパー三部作」の第一作『メメント』の主人公の名はレナードだ。ただ、この映画を作っていた当時は、まだ「クーパー三部作」の構想は芽生えていなかったと思う。2000年12月のジョン・ニュートン・クーパーの死によって三部作の構想の種がインセプションされたんだ。たまたま『メメント』で主人公に「レナード」という名を使っていたという偶然が、クーパー三世代の物語を基にした三部作の構想を生み出すことに繋がった。
なるほど。
祖父チャールズ・レナード・クーパーが『メメント』のレナード、
父チャールズ・ニュートン・クーパーが『インセプション』のコブ(偽名チャールズ)、
子ジョン・ニュートン・クーパーが『インターステラー』のジョセフ・クーパー
…ってわけやな。
でも、なんで映画で「レナード」って名前を使っていたことと、クーパー三世代の話が繋がったの?
たまたま「レナード」って共通の名前があるだけで、そこまで喰い付くかな?
それがね、また別の面白いシンクロがあるんだよ。
『メメント』の主人公レナード、通称レニーのモデルは、レニー・ブルースなんだ。
ダスティン・ホフマンで映画化された伝説のコメディアンやな。
いや、コメディアンやないな。映画で最後のセリフが「俺はコメディアンじゃない。俺はレニー・ブルースだ」やから。
そうだね。ちなみに『メメント』でもレニーはラスト近くでこう言う。
「俺は殺し屋じゃない。なされるべきことを実行してるだけだ」
おっと、ここからはいわゆるネタバレの世界だね!
おかえもんは遠慮も容赦もなく映画の核心に迫っていくから、真っ新な状態で映画を観たい人はここから先は見ないでね!
もうみんな観とるから大丈夫やろ。
あの映画は、芸人と踊り子として同じ舞台に立っていたレニー・ブルースとその妻ハニーの物語だ。
チャールズ・レナード・クーパーとその妻も、舞台俳優と踊り子という関係だった。
ノークリは、この偶然の一致を面白いと感じたはずだ。ノークリ自身もイギリス人の父とアメリカ人の母の間に生まれたから、クーパー家物語には親近感を覚えただろうし。そしてここから「クーパー三部作」構想が始まる。
ちなみにレニー・ブルースの生涯はこんな感じだね。
ボルティモアの場末のナイトクラブで司会をしていた売れない芸人レニーとストリップダンサーだったハニーは結婚をする。そして二人は新天地ロサンゼルスに移るが、ハニーは交通事故の後遺症で薬物にハマりだし、ついには刑務所入り。レニーは幼い子供を抱えながら仕事に追われ、ストレスMAX状態での過激トークが客に大ウケ。そして当局に目をつけられ逮捕、裁判が始まる。しかし当時の著名文化人たちがレニーを支持すると、裁判や当局すらネタにするレニー見たさに劇場は超満員。タブー無しの過激トークはますますヒートアップ。しかし次第にレニーの体も精神もボロボロになってゆき、最後は自宅で注射器を刺したままモルヒネの過剰摂取で「事故死」を迎える。
確かに、なんか共通点が多いな。『メメント』と『レニー・ブルース』は。
だね。レニーっていう名前だけでなく、「事故による後遺症」「薬物」「過剰摂取による事故死」など、多くのアイデアを『レニー・ブルース』から得ている。
映画の中でレナードは何度も「俺をレニーと呼ぶな!」って言ってたけど、『レニー・ブルース』から名前を取ってることがバレるから、そう言ってたんだ(笑)
そうかもね。ちなみに『メメント』は観る人によって何通りかのストーリーが描ける仕組みになってる。そこがスリリングでさらなる謎を呼び、大ヒットに繋がったんだけど。
登場人物をざっと紹介すると…
レニー:短期記憶障害を持つ主人公。10分前のことを忘れてしまうため、メモや刺青で記憶を補う。
テディ:麻薬捜査をする刑事。レニーの妻殺害事件の担当になったため、レニーと知り合う。それ以来、復讐の協力をしている。
ナタリー:バーで働きながら、麻薬取引の仲介を担う。ジミーの愛人。
ジミー:麻薬ディーラー。レニーに殺され、着ていた服と車を奪われる。
サミー:レニーが保険調査員だった時の最初の調査対象。会計士だったが交通事故で短期記憶障害になる。
サミーの妻:記憶障害の夫を支えてきたが、保険調査員であったレニーに夫の病気を「心理的現象」とされ、保険金の支払いを拒否される。経済的・肉体的・精神的疲労が溜まり、最後に一か八かのテストを行い、事故死。
レニーの妻:自宅に押し入った強盗に強姦され、殺される。
いちおうオーソドックスな解釈は、
レニーは自分のことをサミーに移し替えていて、糖尿病だったのはのサミーの妻じゃなくてレニーの妻が糖尿病だった。そしてレニーの記憶障害を試すためにインスリンを何度も注射してしまい事故死。でもレニーは妻が強盗に「レイプされて殺された」ことに記憶を塗り替えて、犯人への復讐をしている。最初は人助けのつもりだったテディは、次第にレニーを麻薬取引に利用するようになり…
ってものだ。
でも僕の解釈はちょっと違う。
なんやて?
たぶんテディは真実を隠している。レニーの妻は糖尿病じゃなくて薬物中毒だった。だけどレニーが記憶障害になるまでは、夫婦で薬物を「楽しむ」程度だった。いや、もしかしたらレニーは麻薬の影響で記憶障害になったのかもしれない。劇中で「アルコールなどの過剰摂取で記憶障害になることもある」っていうセリフもあるからね。そしてレニーの妻は、記憶障害になった夫を支える立場になった。そのストレスでますます薬物の深みにハマっていったんだろう。事故による後遺症から薬物にハマっていった、レニー・ブルースの妻ハニーみたいにね。レニーが「仕事」を出来なくなったので、妻は生活費とクスリ代を稼ぐために売春を始めた。警察の押収薬物の横流し人であるテディと、売人のジミーは、そんな彼女と知り合った。たぶん彼女の名前はサミー。刺青の「サミー・ジェンキンスを忘れるな」とは、自分の妻のことだ。
ど、どうして?
だって、わざわざレニーの妻とサミーの妻だけ名前が無いのも変だと思わない?劇中でも頻繁に登場し、とても重要なキャラクターなのに。明らかに不自然だ。そしてこれは重要なヒントでもある。レニーは自分の身に起きたことをサミーという人物にすり替えて、それを過去の事実だと思い込んでいる。たぶん「記憶障害になった顧客サミー」なんて実在しなかったのかもしれない。記憶障害であることは自分のこと、そして名前は妻の名前なんだろう。だから劇中であの二人だけに名前が無いんだ。
あと、劇中で「記憶障害になる前に日常的にやっていたことは、体が覚えている」っていう台詞があるんだよね。そしてレニーが行う動作で、普通の人が出来ない「ちょっと特別なこと」が3つあった。
①「モーテルの鍵を開けて他の部屋に侵入すること」と②「自家製注射キットを作ること」、そして③「満面の笑みで人を殺すこと」
①はたぶんレニーの以前の仕事が保険の調査員ではないことを示している。たぶんコソ泥なんかを繰り返して、クスリ代を稼いでいたんだろうね。だから②みたいに、あるもので注射セットを作ることも慣れていた。③は完全にイカれている。最初の殺人の時はラリっていたのかもしれない。いくら妻の復讐といえども、あの表情は尋常ではない。
きっとテディが都合のいいようにレニーの過去を作ったんだと僕は思う。いや、もしかしたらレニー自身かもしれない。ヤク中の奥さんじゃ復讐劇もイマイチ燃えないだろうからね。レニーが回想する妻の姿は、彼の中で都合よく理想化された妻の姿だ。
ジミーが死ぬ間際に「サミー…」って言ったのも、それを裏付ける。あんなところでレニーのタワゴトに出て来る人物の名前なんて呟かないよね。たぶんジミーはサミーと肉体関係があった。ヤクの売人と、金に困っている顧客という関係でね。レニーがわざわざコールガールを呼んで妻の代役をさせるシーンがあるんだけど、あれはきっと潜在意識のどこかで妻サミーの真実を覚えていたからだろう。
もちろんジミーの愛人ナタリーは、それに気づいてた。だからレニーに向かって「お前の嫁さんは売春婦だ!」って罵った。
おお!言われてみれば!
「ノークリ作品は実はシンプル。登場人物の名前でわかる」って言ったけど、『メメント』は非常に単純だ。
テディはTEDDY。でもTEDDIEとも綴る。だからこの映画は彼のDIEで始まり、そこに至る過去が描かれる。
ナタリーはNATALIE。LIEがあるから嘘をつく。レニーを利用して自分の身を守るためにね。
ジミーはJIMMY。レニーはジミーを殺して彼の服に着替える。そして車も奪う。「殺人の疑いをもたれるくらいなら死人に間違えられるほうがいい」ってね。つまり、しばらくはジミーになりすまそうというわけだ。だからMYがつく。
サミーはSAMMY。レニーの架空の過去で自分を投影した人物。そしてレニーはサミーを自らの手で殺している。だからやっぱりMYがつく。
わかりやすい!
でしょ?
ノークリ映画はすっごくシンプルな構造なんだ。でもそれを見失わせるイリュージョンがあちこちに仕掛けられている。ついついそっちに気を取られちゃうんだよね。答えは誰の目にもわかるところに置かれているのに。
なるほどな。手品と一緒や。やってることは超シンプルなのに、魔法に見える。
だね。
そうそう、大事なことを言い忘れた。
ノークリ作品の特徴のひとつが「安易に音楽を使わない」ってことなんだよね。昔のサントラってほとんど文字通りBGMばっかりで、数曲だけ歌詞付きの歌が入っていたんだけど、最近の映画は普通の歌がいっぱい使われている。映画のサントラなのか流行歌のベスト盤なんだかわからないくらいに。曲の歌詞で登場人物のセリフを代用することも多々あるよね。それはそれで楽しいんだけど。
でもノークリはストイックなエンターテイナーだ。
歌を流してもいいようなところでも、絶対に流さない。「この歌をもとにこのシーン作ったでしょ?」ってのがミエミエでも、やっぱり流さない。歌好きな僕なんかは、ついつい脳内補正をしてしまい、頭の中でBGMを流してしまうんだ。そして最後には架空のサントラを作ってしまう。ノークリ映画はそんな楽しみ方もある。そういう人はいっぱいいると思うよ。
『メメント』も?
そう。この映画ではエルビス・プレスリーの『TEDDY BEAR』がマストだよね。
ぬいぐるみも出て来たし。
テディが出て来るからテディベアって単純過ぎやろ。
その単純さがノークリ作品の神髄なんだよ。
だってテディのキャラクターは「テディベア」から作られているんだから。
そうなん!?
テディベアって、テディの愛称で親しまれたアメリカ大統領セオドア・ルーズベルト(1858~1919)がハンティングでとどめを撃たなかった熊の名前なんだよね。
冒険家としても有名なルーズベルトは、ハンティングが趣味だった。ある時グランドキャニオン近くにハンティングに出かけた時、全然獲物を仕留められなかった。ガイド役を務めたハンターは責任を感じて、獲物を探し回った。そして一頭の熊を追い込んで、大統領が最後の一発を撃てばいい状態までお膳立てしたんだ。でもルーズベルトはそれを拒んだ。スポーツマンシップに反するとしてね。そして随行していた新聞記者たちに、演説をぶって記事に書かせた。この記事が大きな話題になってね、ルーズベルトの人気はさらに高まったんだ。そして熊のぬいぐるみ「テディベア」が誕生した。
なるほど。テディがレニーの殺人のお膳立てをするのは、この逸話がもとになってるからなんだ。
そう。だからレニーはテディのヒゲをからかったんだね。あのヒゲはルーズベルトとそっくりのヒゲなんだ。てか、顔つきも眼鏡もそっくりなんだけど。
わはは!ホントだ!
そしてノークリは、ことのほかセオドア・ルーズベルトがお気に入りのようで、「クーパー三部作」を通してルーズベルト由来の設定やキャラクターが使われているんだ。冒険心に富み、型破りでドラマチックな生涯を生きた人物だから、映画の題材にしやすいのかな。
「インセプション編」でも「インターステラー編」でも出て来るので覚えておいてね。僕にはその生涯を簡潔にまとめるパワーがないので、暇な時にwikiでも読んでおいてください。
映画の性質上、次回は相当長くなりそうだね…
せやろな。せやけど楽しみや、おかえもん版インセプション解釈が。
その前に『メメント』を観てみてね。やっぱりノークリは天才だ。何回観ても楽しめる。
ぜひ「おかえもん解釈」でもストーリーを追ってみて!
Amazonビデオですぐに観られるよ!
あと、9月にはスターチャンネルでも放送される。ノーラン特集でね。
よっしゃ!
久しぶりに観るか!そんでこの勢いで「クーパー三部作」を制覇するで!
しかし、これっていつの時代設定なんだろう?
携帯電話もPCも出て来ないよね。みんな固定電話使ってる。デジタル機器が全然出て来ない。
いちいち写真撮ったりメモなんかしないで、動画とったり音声録音でもしとけばいいのに…
それを言ってはいけない。
ノークリ・ワールドでは、デジタル機器はタブーなんだ。
たとえ近未来の話でも、スマホもグーグルグラスも出て来ない。科学者は手書きのノートと黒板で、とんでもなく複雑な計算式を行う。スーパーコンピューター並みのね。それがノークリ・ワールドだ。
サザエさんがダメになったんは、中途半端に現実世界に迎合したからやしな。やっぱカツオがスマホなんか持ったらアカン。
だね。
では次回の『インセプション』編もお楽しみに。
衝撃の事実が浮かび上がってくるよ。
わお!
『MEMENTO』(’00)
製作:エマ・トーマス、ジェニファー・トッド、スーザン・トッド
監督:クリストファー・ノーラン
脚本:クリストファー・ノーラン
原作:ジョナサン・ノーラン
出演:ガイ・ピアース、キャリー=アン・モス、ジョー・パントリアーノほか
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