「深読み LIFE OF PI(ライフ・オブ・パイ)&読みたいことを、書けばいい。」(第256話)
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2020年 ✕月✕日
南の島
とある施設の中
タカナタカナタカナ?
そう。
♬TKNTKNTKN~♬
こんな歌声が森の奥深くから聴こえてきた。
なんだか、一度聴いたら耳に残るようなメロディーね…
うん。
その歌声のほうへ歩いて行ったら、小高い丘に辿り着いた。
その丘の上で猿たちは歌っていたんだ。
輪になって踊りながら。
輪になって踊りながら?
そうだよ。
いっぽんの「木」を囲むようにして。
木を囲んで?
北欧の夏至のお祭りみたいに?
そう。日本の「ぼん踊り」みたいに。
知ってる? ぼん踊り。
ボンオドリ?
ごめん。知らないわ…
「ぼん」の踊りなんだ。
みんなで輪になって「ぼん」を称える踊り。
何なの「ぼん」って?
うーん。言葉にするのは難しいな。
というか、「ぼん」が何なのかを完璧に言い表すのは不可能かも。
きっと、ややこしいものなのね。
そう。とてもヤヤコシイもの。
あの猿ヶ島の「木」みたいに。
え? どういうこと?
あの木は、とっても不思議な木だった。
異の木って感じ。
いのき?
そう。あれはまさに異の木って感じ。
どんな感じに異の木なの?
木のそばに近付いて見たんでしょ?
ううん。ちょっと怖かったから、しばらく遠目で見てたんだ。
あの歌の続きも気になったし…
「タカナタカナタカナ~」には続きがあったの?
こんな歌詞だ。
♬TKNを食べると~♬
タカナを食べる?
タカナって食べられるものだったの?
そうだよ。何だと思ってたの?
てっきり、彼らの神様の名前とか、それを称える言葉かと…
で、タカナを食べるとどうなるの? 歌詞の続きは?
こうだよ。
♬ATMが良くなる♬
ATMがよくなる?
2019年9月20日 朝
スナックふかよみ
信じられない…
それでは第二章のクライマックス、一人前の「おんな」になったスワと父の会話を解説しましょう…
太宰治『魚服記』
季節は秋の土用過ぎ…
紅葉シーズンも終わり、冬の始まりを迎えようとしていた頃…
滝のそばにある茶店をたたみ、炭焼き小屋へ帰る途中の出来事です…
突然スワは、父にこう尋ねた。
「お父(ど)」
スワは父親のうしろから声をかけた。
「おめえ、なにしに生きでるば」
「何をするために生きているのか?」
深いわ…
いきなりこんな哲学的なこと聞かれても、普通は答えられないわよね…
そう。普通は、ね。
だけどここまでの流れを見れば、父は当然わかっているはず。
自分が「何」をすべきかを。
スワは「それ」を確認したまでのこと。
確認?
これから「何」が行われるのか…
この物語の中で自分たちは「何」を演じているのか…
舞台の上にいる演者にとって、絶対に言ってはいけないことを、スワは口にしてしまったんだ。
というか、ふざけて太宰が言わせたんだね。
なるほど…
だから父親は、こんな反応を見せたんだ…
父親は大きい肩をぎくっとすぼめた。
確かにここで「ギクッと」は変かも…
隠していることがバレて、焦ってる感じよね…
真顔でこんなことを言ってくるスワにビビった父は、スットボケ作戦に出た。
そして、空気を読まないスワのビックリ・ドッキリ発言が飛び出す…
スワのきびしい顔をしげしげ見てから呟いた。
「判らねじゃ」
スワは手にしていたすすきの葉を噛みさきながら言った。
「くたばった方あ、いいんだに」
うまいわよね太宰…
「誰が」とは言っていない…
えっ?
「アタイ」という主語が省略されているんだよ。
「アタイが、くたばった方がいい」とスワは言ってるんだ。
アタイ?
それってジョゼが自分のことを言う時の呼び方ですよね?
十四のジョゼは次第に釣られて「アタイ」と言いはじめる。しかし車椅子が要って生理がはじまっているという「ややこしい」ジョゼは、女に煩わしがられて施設に入れられた。父ははじめは会いに来てくれたが、そのうち全く会えなくなってしまう。ただ自分のことを「アタイ」という癖だけ、ジョゼに残った。
そう。ジョゼが自分のことを「アタイ」と言うのは、スワがモデルだから。
ええっ?
だけどスワちゃんは自分のこと「アタイ」なんて言わないわよ。
それが、もうすぐ言うのよね(笑)
は?
ちなみに、ジョゼが自分のことを「アタイ」と言う理由の説明で、なぜか田辺聖子は「車椅子と生理」の話を織り交ぜた。
「車椅子と生理」という組み合わせが「ややこしい」から、最終的にジョゼは父に見捨てられたと。
これも、スワと父の関係とよく似ている…
父親は平手をあげた。ぶちのめそうと思ったのである。しかし、もじもじと手をおろした。スワの気が立って来たのをとうから見抜いていたが、それもスワがそろそろ一人前のおんなになったからだな、と考えてそのときは堪忍してやったのであった。
確かにそうかも…
それにしてもなぜ「車椅子と生理」が「ややこしい」話なのかしら?
クルマイスで血を流すからよ。
仕方ないでしょ? 足が不自由なんだから。
そうじゃない。
クルマイスで血を流す、よ…
は?
さて、スワのネタバレ寸前発言に父親は我を失いかけたが、やや冷静さを取り戻し、こう言った。
「そだべな、そだべな」
「その通り、その通り」
認めたということですね。
これは、死ぬのが「アタイ」であることを踏まえた返事。
もしもスワが「おめえは、くたばった方あ、いいんだに」と言っていたら、父は「そだべな」とは答えなかっただろう。
なるほど。
「誰が」を伏せたまま「死んでしまうこと」を父が認めたので、スワはこんなリアクションをする。
第二章のオチだ。
スワは、そういう父親のかかりくさのない返事が馬鹿くさくて馬鹿くさくて、すすきの葉をべっべっと吐き出しつつ、
「阿呆、阿呆」
と呶鳴(どな)った。
「くさ」の三連発?
バカバカしくて草生えたwwwってこと?
「くさ」は「w」ではない。「くさ」とは「X」だ。
X?
ギリシャ語では「Xa、Xi、Xe、Xo」を「クサ、クサイ、クセ、クソ」と読む…
そして「X」は「キリスト」や「十字架」を意味する…
「Xmas」の「X」だね…
「かかりくさ」とは「架かり、X」という意味。
あっ…
「クルマイスで血を流す」は、そういうことだったのね…
そして太宰は、スワの駄洒落で締め括った。
ダジャレ?
「あほう、あほう」が?
あれは「あほう、あほう」と読むのではない。
えっ?「阿呆」は「あほう」ではないのですか?
うふふ。おばかさんね(笑)
え?
馬鹿になれ!
文代さんも月夜さんも、ひどいです…
そんなに人を馬鹿呼ばわりしないでください…
うふふ。あなたじゃなくて「阿呆」のことよ(笑)
あれは「アタイ」って読むの。
アタイ?
「阿呆」とは、中国江南地方で「おばかさん」を意味する言葉で、本来は「アータイ」と発音する…
それが禅僧によって日本に持ち込まれ、西日本を中心に広まり、後に「アホ」となった…
「阿呆」は「アータイ」…
つまりスワは最後に「わたし、わたし」と言った?
そういうこと。
まずスワは「誰が」を伏せて「死んだほうがいい」と言った。
父も「誰が」を伏せたまま「その通り」と答えた。
だからスワは最後に「アタイが」と付け加えた。
これが、あの会話の真相だ。
なんと…
アタイが死ぬ…
それを預言してたのね…
それでは、問題の第三章に…
待て。
え?
スワは、ススキが好き。
はい?
『ジョゼと虎と魚たち』の中で田辺聖子が「スキーが好き」と駄洒落を言ったのは、スワの「すすき」のことじゃ。
すすき?
そういえば、スワちゃんはずっと「すすき」を手にしてたわね…
何か意味があるのかしら?
「すすき」は漢字で「芒」と書くからだよ。
漢字の「芒」が理由?
「芒」とは、イネ科の植物特有の、穂先のトゲトゲのこと。
種子についている細かいトゲトゲの毛を意味する。
へえ、そうなんだ。
光が当たると黄金色に輝く、あの細かい毛が「芒」だったのね。
だから「光線のトゲトゲ」も「芒」というのよ。
五芒星や六芒星の「芒」ね。
太宰がスワに「すすき」を持たせたのは、これを想起させるため…
第三章で描かれる「問題の場面」には、この「芒」が隠されている…
ええっ?
それでは第三章を見ていこう…
つづく
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