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深読み 米津玄師の『さよーならまたいつか!(『虎に翼』主題歌)』第3話


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2024年2月某日
(主題歌の依頼から三日目)
新宿 末広亭


おじさん「いやいや、戸は開けたままでいいんです。閉めんのはあたしがやります。ひとのうちへ来て何か用をしちゃいけませんよ。あたしがしますから。あのねえ、そこの梯子が急になってますから、よくつかまらないってぇと危のうございますよ。上が低くなってますからね、ちょいと頭かがめねえってぇと、髷ぶつけますからね。大丈夫ですか?」

お花「はい…」

おじ「あのなあ半公! 布団が一組しかねえからな!風邪ひかねえように仲良く寝るんだぞ!」

観客「あはははは(笑)」


(なるほど… 親に勘当されて家から閉め出しを食った若い男女が、物分かりの良すぎる叔父さんの家へ行き、デキてると早合点され一夜を過ごす話なのか…) 


おじ「おい、婆さん、見たか今の娘さんを」

おば「ええ、お爺さん、見ましたよ。あたし目が覚めちゃいました」

おじ「いい女だねぇ。俺も今までどこそこ小町やら観音様やら呼ばれてる女を見たことあるけど、あんないい女てぇのは初めて見たよ。半公の奴は普段からね、世の中で女くらい嫌いなものはありませんよ、なんてなこと言いやがってね、あん畜生の言うことなんざアテにならねぇな」

おば「そら、まあねぇ、お爺さん。誰だって年頃ですからねぇ」

おじ「まァ、そう言われてみりゃ、そうだな。しかし、ああいう若けぇのを見るってぇと、俺たちの若けぇ時分のことを思い出すなァ」

おば「んもぅ。およしなさいよォ、お爺さん… 決まりが悪い」

おじ「何を言いやがんでぇ、決まりが悪いってツラか。決まりの方で悪いって言うよ、お前なんざ」

観客「あはははは(笑)」

おじ「俺たちにもああいうことがあったという話だよ。なァ。一緒になった時なんざ、ちょうどあんなもんだったよ。俺が二十二でお前が二十。二つ違いだったなァ」

おば「そうでしたねぇ。二つ違いでしたねぇ。まァ、あはははは。あははははは…」

おじ「いつまで笑ってんだよ」

おば「だってお爺さん。いまだに二つ違い(笑)」

おじ「当たり前じゃねぇか」

観客「あはははは(笑)」

おじ「くだらねぇこと言ってやら本当に。うむ、上の方はどういうことになったのかね? おーい!もう寝たのか? どうした? 寝たかい?」


半「はい、今寝るとこですよ! ああ、困っちゃったなァ… お花さん、だから言ったじゃありませんか… あたしがいけないって言うのに無理について来るから、こういうことになっちゃうんですよ… こんなところに二人きりにされちゃって、どうするつもりですか? え? どうしたらいいんです?」

花「 あいすいません… あたしが無理について来ちゃったのが悪いんですから、あたしがこうして起きてますんで、どうぞ半ちゃん、寝てくださいまし…」

半「いいえ、あたしが起きてますからね、お花さん寝てくださいな」

花「半ちゃんの叔父さんの家なんですもん、どうぞ半ちゃん寝てくださいな」

半「わかんないなァ、あんたは。あたしが起きていますから、あなた寝なさいよ!」


おじ「なんだ、もう大きな声出してるな、おい。もうもめてんのかい? ちょいと早過ぎやしないか? 明日の朝んなったら、おとっつあんとこ行って話をしてやるから、今夜はケンカしねぇで早く寝ちゃいなよ! 寝ねえってぇと、おじさん上がってってなァ、お前たちが寝るまで、そばでジーっと見てるよ!」

観客「あはははは(笑)」

半「弱っちゃったなァもう… しょうがねぇなホントに…」

花「・・・・・」

半「じゃあね、お花さん、こうしましょ… こうやって二人きりで起きてるわけにもいかないんですから、寝なきゃなんないんですが…  かと言ってね、布団は一組しかありませんし… この布団、半分ずつで寝ましょう… ね? あたしがこのちょうど真半分のところに線を引きますから… 今ね、あたしがこうしているところが、ちょうど真半分ですから…(布団に線を引く仕草をする) ああ… 線を引いても消えちゃいますね、こりゃ… 弱っちゃったなァ… それじゃ、ここんところにこうやってシワを、えい…(布団のシワを真ん中に集める仕草をする)、こうやってハッキリつければ大丈夫ですから… ね? これがちょうど半分の線ですから。あたしはこっち側に寝ます。あなたはそっち側に寝てください。どんなことがあっても、線のこっち側へ入って来ちゃいけませんよ。いいですか? もし、この線を越えて来たら… あなたの身に、大変なことが起こるんです…」

花「大変なこと? いったいあたしに何が起きるの?」

半「そんなことはいいんです… とにかく絶対に入って来ちゃダメですよ… 入って来ると、あたしゃ怒りますよ!」

花「そんな怖い顔して言わなくたって… 入っちゃいけないよって言われたら、あたしゃ入りませんよ。誰が入るもんですか。入りゃしませんとも… 寝ちゃうとわかんないけど」

半「!?」

観客「あはははは(笑)」


(部屋に二人きりの男女の間に線を引く? どっかで聞いたことのある話だな…)


半「あんた、向う側むいて寝てください。ね? あたしゃこっち側むいて寝るから。お互い背中合わせで。いいですね?」

なんてんで、たいへんな騒ぎですな。木曽殿と背中合わせの寒さかな、と言って、この背中合わせというのは何かこっからスースー風が入って来るそうで、寝にくいそうですな。二人が寝られないでモソモソモソモソしているうちに、一転にわかにかき曇りまして、ポツリ、ポツリと降ってきた雨が、盆を返したようにザーっと降ってきた。

花「は、半ちゃん、雨が降ってきました… ねぇ半ちゃん…」

半「そりゃ雨だって降るんですよ… お天気ばっかりじゃ、くたびれるから… 何ですかもう… 雨にかこつけて、こっち来ようとしたりして… そっち行っててください… しっ!」

花「しっ、だなんて言わなくたっても… あたし雨が降ると淋しいんですよ…」

半「淋しくてもこっち来ちゃいけません! 来ちゃいけないことになってるんですから! まったく油断も隙もありゃしない…」

観客「あはははは(笑)」

そのうち、ピカって光るってぇと、ゴロゴロゴロゴロ…

花「半ちゃん!カミナリ様!やめて!」

半「やめてって、あたしが鳴らしてるんじゃないんですよ。上で鳴らしてるんだ。上に掛け合いなさいよ」

そのうちに今度は音が変わってきて、カリカリカリカリッ!目の前に焼き金をあてられたようにピカーッと真っ白になる。ガラガラ、ズシーン!ってんですぐそばへ落っこった。あまりの怖さにお花がアレーっと言って半七の懐へ飛び込むと、髪の油と白粉の匂いが半七の鼻の中へぷぅ~んと入ってきた。思わず我を忘れた半七が、お花の着物の胸元をグッと開く。すると半七の目に官能的な赤い長襦袢が飛び込んできた。半七の熱い視線を感じたお花は、恥ずかしそうに両手で乳房を抑えながらこう言った。

花「半ちゃん… やさしくして…」

生唾を飲み込んだ半七が、胸元を抑えるお花の両手ごと長襦袢を左右にグッと開く。すると、透き通るように真っ白なお花の乳房が出てきた…

というところでテープがパチーンと切れちゃって、つづきがわからなくなりました。宮戸川、お花半七馴れ初めでございました。

観客「パチパチパチパチパチ!」


(ははは。テープが切れて続きがわからないってオチ、おもろいな)


トントントン… トントントン…

ん? 何?


うふふ。やっぱり米津さんだったか。


ふ、深代ママ? どうしてここに?


今日ね、うちの常連さんが出演するの。


ああ、なるほど… だから「今夜は9時頃に開店します」だったんですか…


米津さん、ここへ来る前にうちの店に行ったの?

それはどうもごめんなさい。


まさか時間つぶしに入った寄席で深代ママに会うなんて…

ちなみにその常連さんって、誰なんですか?


たぶん、そろそろ出番だと思うんだけど…

あっ!あの人の出囃子だ…

♩~♬~♬~♩~♬~


ずいずいずっころばし? あの人がそうなんですか?


観客「パチパチパチパチパチ!」


つづく




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