「深読み INCEPTION(インセプション)㉑」(第219話)
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2019年9月20日 朝
スナックふかよみ
絵の他の部分は?
いったいどのように「サイトーの城の夢」で再現されているのですか?
『D'où venons-nous? Que sommes-nous? Où allons-nous?』
Paul Gauguin
あと、サイトーの城の中で…
フランシス・ベーコンの絵の「女の頭部」が消えていた件も…
Study for head of Isabel Rawsthorne and George Dyer
Francis Bacon
そうそう。話さなければならないことが、まだまだ山ほどある。
次はこの部分だね。
は? 2匹の猫も?
サイトーの城に猫なんて出て来なかったわ。
そう決めつけないで。よく見て欲しいな…
どこによ。猫の子いっぴき出て来ませんけど。
そうかしら?
居たでしょ、気まぐれ子ネコちゃんが(笑)
気まぐれ子ネコちゃん?
もしや「犬」同様に…
「2匹の猫」も別の形で描かれているのでは…
いいところに気付いたね。
「犬」は主人公ドムに「一体化」されていた…
ということは「猫」は?
妻モルに?
そういうこと。
しかもノーランは、ゴーギャンが描いた「ゆったりチェアー」まで再現している…
ああっ!
なにこれ…
この時、ドムは妻モルを「人間扱い」しなかった…
椅子を重くするため、「おすわり、ステイ」と言って椅子に座らせ…
モルが「私が居なくなって子供たちは淋しがってる?」と聞いても、こんなふうに答えたんだ…
「君には人恋しいなんて感情、想像もできないだろ」
そう言い残したドムは、椅子につないだロープを命綱にして、外壁を下って行った…
まさにイヌではなくネコ扱い…
そして機嫌を損ねたモルは、ドムの言いつけを守らず、プイッと椅子から離れてしまう…
気まぐれ子ネコちゃんに「STAY」とお願いしても無駄よね(笑)
そして、重しを失ったドムは、一気に下まで落ち…
ロープにつかまったまま宙吊り状態に…
まさにこの部分です…
ノーランは、あの猫が「2匹」ではなく、1匹が「移動した」と見たのね…
そして中央の人、確かにロープにぶら下がってるみたいに見えるわ…
そういえば、後ろに描かれている「黒服の女」って、モルっぽい…
遠くを見つめながら、ひとり佇んでいる「黒いドレスの女」のことだね。
そして少し離れたところに、何かをひそひそ話している二人組が描かれている。
モルですよ、あれは…
サイトーの城の展望デッキでのシーン…
ドムとアーサーは展望デッキで物思いに耽っているモルに気付き、「モルがいる。どうしよう?」と、ひそひそ話をしてましたから…
もう、そうとしか思えない…
そして次はこの部分。
桃色の果実を頬張る少女と、黒っぽい山羊のような動物…
うふふ。何か気付くことはないかしら?
何かって?
この部分、すっごく変なところがあるわよね(笑)
変なところ? どこに?
あっ…
あのヤギ、何だかデッサン狂ってませんか?
真横を向いてるのに、耳の位置がおかしいです。
ホントだ…
よく見ると、何か気持ち悪いわ…
表情もヤギっぽくなくて、ちょっと人っぽい…
だって、人だもの…
は?
実はこれが…
「消えた女の頭部の謎」の答えなんだよ…
フランシス・ベーコンの絵の片側だけしか使われなかった謎の答えですか?
そう。
モルがベーコンの絵を眺めているところを、よく見て欲しい。
何か気付くことはないかな?
あれ?
この耳の位置って…
そして、モルの口元にあるワイングラス…
その通り。
クリストファー・ノーランが、フランシス・ベーコンの絵の「片側だけ」を使った理由は、これだったんだね…
この部分を再現するにあたり、対になっていた「女の頭部」が邪魔だったんだよ…
クリストファー・ノーラン…
どんだけ…
ノーランがこれを思いついた時のドヤ顔が目に浮かびます…
Christopher Nolan
きーっ!ムカつく!
うふふ(笑)
ちなみに、あそこにフランシス・ベーコンの絵が飾られていたのは、夢の主である「アーサーのチョイス」だとされていた。
実はこれも『ストーカー』ネタなんだ。
どういうことですか?『ストーカー』にもあの絵が出てきましたっけ?
いや。絵は出てこない。
だけど「アーサー」が登場する。主人公REDの相棒としてね。
は?
映画版のストーカーは一匹狼だったけど、ストルガツキー兄弟の原作小説では、主人公REDに相棒アーサーがいるんだ。
そしてREDとアーサーは「ゾーン」へ侵入し、REDは「ゾーン」の中でアーサーを殺してしまう…
DOMも「サイトーの城」でアーサーを殺しました…
『ストーカー』原作小説の方では、アーサーはぐちゃぐちゃのミンチ状態になってしまうんだよ…
まさにフランシス・ベーコンの絵のように…
マジで…?
いろいろ考えてるよね、細かいところまでノーランは。
さて、ゴーギャンの絵に戻ろう。
次は「大きな《超越者》の像」だ…
あれは…
階段の間にあった、大きな仏像…
その通り。これはわかりやすい。
残るは左端の部分ね…
白い鳥、「オーマイガー!」の人、その隣で微笑を浮かべる女…
レオナルド・ディカプリオ演じるドム・コブは、サイトーの金庫から秘密文書を盗み出し、封筒の中に別のものを入れておいた…
サイトーが封筒を開けると…
それは「白紙」だった…
サイトーは怒りに震え、思わず「オーマイガー!」と心の中で叫ぶ…
そして、それを隣から覗き込んでいたモルは、微笑を浮かべる…
完璧ですね…
ドヤ顔、入ります。
きーっ!
二時間ドラマの帝王みたいな顔してムカつく!
以上、ゴーギャンの『我々はどこから来たのか 我々は何者か 我々はどこへ行くのか』と『インセプション』の関係…
これにてQ.E.D.…
ぐうの音も出ないとは、こういうことか…
あっぱれ。見事じゃ。
ノーランのタルコフスキー愛は本物ですね。
素晴らしいの一言です。
ところで教官…
『インセプション』の「コマ」が何の仕掛けも無い「ただのコマ」であり、そもそも「夢と現実」の区別など存在せず、実はずっと夢の中だった… というのはわかりました。
しかし『ストーカー』の「部屋」が何の仕掛けも無い「ただの部屋」であることは、どうして気付いたのですか?
だって冒頭のナレーションに「エイリアンの話とか全部嘘」って書いてあったでしょ?
そうですけど、物語の中でもそういうヒントは無かったのですか?
いっぱいあったよ。
あちこちに「この話は全部嘘」というヒントが散りばめられていた。
まさに『インセプション』みたいにね。
そうゆうの教えてよ。気になるじゃん。
そうだね。それじゃあ『ストーカー』と『インセプション』の関係にも触れながら、そのへんのことを解説しようか。
やれやれ。まいったね。まだ続くのかい。
君って人はまったく…
すみません。あと15分程度で終わります。
それでお開きにしましょう。
細かい作業が続いたから、肩こっちゃったんじゃない?
このへんでちょっとリフレッシュ・タイムでもどう?
確かに、絵解きは面白いですけど、ちょっと疲れますね…
ずっと画面を見てて、ずっと同じ姿勢でいると血流が悪くなっちゃうし…
ちょっと踊りたい気分です。体をほぐしてリフレッシュしたい…
そうじゃ!健全なる深読みは、健全なる肉体に宿る!
リフレッシュ・タイムはもちろんこの曲!
ミュージック、スターティン!
アンド…
レッツ、ダンシン!
つづく
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