ツルガキ太陽がいっぱい5

ツルでもガキでもわかる『太陽がいっぱい』の解説【決定版!】<vol.5>「ガブのすべて」

【vol.4はこちら】

おかえもん、なんで大天使ガブリエルとイエス・キリストが争うんや?

そうだよ。ガブリエルはわざわざ神様のメッセージをマリアさんに伝えに来たんでしょ?

超いい人じゃんか!

ナンボク、ええじゃろう、その通りだ。ガブは天使界きってのイケメンでナイスガイだよね。

でも君たち、ガブの本当の気持ちを考えたことあるかい?

本当の気持ち…?そんなもん考えたことないな。

てか、ガブって懐かしい響きや。

ふふふ。じゃあまずはガブについて説明しよう。

ガブは神ヤハウェの信頼厚い側近だ。大天使ミカエルがヤハウェの親衛隊長だとすると、ガブは執事とか秘書官みたいなものだな。

偉大なる神にもなると、気安く人間界に出向くわけにもいかない。ここぞという時以外はガブに任せるんだね。ガブは神のメッセンジャーだ。だから今でも情報・通信事業の守護天使とされている。

えっ!通信事業の守護天使!?

じゃあよくGBって書いてあるのはガブのこと?

それはギガバイトの略だ。

神の側近っちゅうことは、スーパーヒーローやな。

そうだね。ユダヤ教でも宗派によって細かい違いはあるんだけど、基本的にガブは神の右腕だ。神の言葉を携えて、天界と地上界を行き来する。この世界の何よりも重要なものを取り扱うんだから、よほどの信頼関係がないと任せられない。

やろうと思えば、横領だって何だって出来ちゃうもんね。そこまで全てを任されてたら。

誰も見ていなければ、の話だけどね。

さて、ガブは旧約聖書の世界で神の使いとして大活躍をする。ユダヤ教には律法とかトーラと呼ばれるモーセ五書という聖典があるよね。創世記から申命記までの5つの書だ。でも、もうひとつモーセが書いたと言われるものがあるんだよね。それがタルムードと呼ばれる口伝律法だ。これをモーセに書かせた凄腕編集者がガブとされている。

えっ!どうゆうこと?

タルムードにある伝承によると、かのモーセは死の日を迎えた時、まだ志半ばだったので落ち込んだ。もっと書いておきたかったことがたくさんあったんだね。「あと13巻ほど書き残してしまった!」って慌てたんだ。

それ残し過ぎやろ。1日どころか1年かかるわ。

そこで神は禁じ手を使った。太陽の動きを止めたんだ。陽が沈まなければ1日は終わらない。つまり時間は進まない。その間にモーセに13巻を書き上げさせようと考えたわけだ。

神は万能やさかい、禁じ手でも何でもないやろ。ただ、あんまりこれをやり過ぎるのはよくないな。歴史がご都合主義になってまう。タイムパトロール隊にも怒られるわ。

ガブは大忙しだよ。13巻分の監修だからね。モーセを励まし続け、原稿を携えて天界へ行ったと思えば地上界にとんぼ返りの繰り返しだ。

さらにはモーセが13巻を書き上げて大往生した後に、横たわる死の床までガブが準備した。そしてモーセの魂を神のもとへと運んだのも、もちろんガブだ。

なんてエエ奴やねん、ガブは。

そういやトムも映画の中で死んだフィリップのベッドメイキングしてたな。偶然か?

ふふふ。偶然のわけないでしょ…

さて、ガブが大活躍をするもうひとつの話、旧約聖書のダニエル書を紹介しよう。

紀元前6世紀にバビロンのネブカドネザル王によってエルサレムが滅ぼされ、多くのユダヤ人はバビロンに連行された。いわゆるバビロン捕囚ってやつだ。

王はユダヤ人の中から美しく健康で優秀な少年を選抜し、英才教育を施し、官吏として登用した。ダニエルはその中でも抜きん出て優秀だったため、王に寵愛されてバビロン全州の長官にまでなったんだ。行政や司法の責任者だ。

なんでそこまで寵愛されたんや?

ダニエルには、夢解きの才能があったんだね。王が見た不思議な夢を、ダニエルがことごとく読み解いてあげたんだ。昔の人にとって夢は大きな意味を持っていた。神のお告げみたいなもんだ。悪い内容の夢なら、実現してしまう前に対処しなければいけないからね。

でもその能力には秘密があった。実はダニエルが夢を解いていたのではなかったんだ。

もしや、ガブが?

その通り。

ガブがこっそりダニエルに神のお告げの意味を教えていたんだね。そのお陰でダニエルは大出世をした。王の代が替わりベルシャザル王のもとでも神官として登用されていた。そして大事件が起こった。

「壁に文字を書く謎の指事件」だ。

ワイ、その怪談話知っとるで!

それはお菊の指や!「バビロン皿屋敷」や!

それは播町。バビロンは今のバグダッド近郊にあった古都だ。

ある日宮廷での大宴会の席で、不思議な手首が現れた。

そして宙に浮くその手首は、指で壁に文字を書き始めた。「メネ、メネ、テケル、ウ、パルシン」ってね。そりゃあもうみんな大騒ぎさ。

王はさっそくダニエルに夢解きを頼んだ。そしてダニエルはガブから文字の意味を教えられた。

「ベルシャザルはアホボンや。先代と違うて王の器やない。バビロニアの富はペルシャとメディアで山分けになるやろな」

強烈な予言やな。で、どないなった?

バビロニアはペルシャに滅ぼされ、国土や富は分割された。

手首が壁に書いた予言通りになったというわけだ。

そういえば映画の中でトム・リプリーは、ホテルの壁でフィリップのサインの練習をしてたね。財産を奪うために。

あのシーンはこのダニエル書のエピソードがもとになっている。

この通り旧約聖書の世界で大活躍のガブだけど、イスラム教の世界ではもっと凄い存在なんだ。

そうなん?

ユダヤ教ではミカエルというライバル天使がいたけど、イスラム世界では天使の頂点なんだ。ガブは超スーパーヒーローなんだよね。

なんと、預言者ムハンマドにアッラーの言葉を伝えたのがガブなんだね。つまり、イスラム教の聖典コーランは、ガブがムハンマドに神の言葉を伝え書かせたものなんだ。ちなみにイスラム世界でガブはジブリールと呼ばれる。

ジブリ!?

そこは関係ないようだ。北アフリカで南の山や砂漠から吹く熱風ジブリからとったらしい。ちなみに海から吹くのは風様だね。

そういや昔、緑の豚がおったよな。最近見かけへんけど、どこ行ったん?

そこには触れちゃいけない。

聖なる色である緑と、怠惰と不浄の象徴である豚の組み合わせは、いろいろと問題があったとかなかったとか…

???

とりあえずガブがすっごいエライってのはよくわかったよ。でも、なんでイエス・キリストと争わなきゃいけないの?

そう、そこだね。

旧約聖書を大事にするユダヤ・イスラムの世界では、ガブはとっても偉い存在だ。神に次ぐ存在だね。所詮は人間である預言者たちなど相手にならないほど、遥かに高い次元の存在だ。

しかし、キリスト教の世界ではガブに強力なライバルが出現した。いや、ライバルどころではない。まったく敵わない存在だね。

それがイエス・キリスト?

そう。ガブにとって青天の霹靂だった。

まさか神に息子ができるとは思ってもいなかったんだ。

だって唯一神ヤハウェって、それ自体で完結している完全体だったはずだ。ギリシャの神々みたいに人間の女に子供を産ませるようなことをするはずがないと思っていたんだよ…

ボスの命令は絶対だ。ガブは従うしかない。神が選んだ娘マリアのもとへ行き、事情を伝えた。予想通り彼女にはドン引きされたけど、何とか納得させた。こうして神の子イエス・キリストが誕生したんだ。

そして神の子イエスは地上において、まるで人間みたいに振る舞い、誰彼構わず父の言葉を伝え始めた。これまで厳選された人間にだけガブが伝えていた神の言葉を…

ガブの心中、察するに余り有る。

とんだイノヴェイションや。ガブは失業やんけ。

しかもイエスを生んだ女までも人々の間で神扱いされ始めた。

イエスはともかく、マリアはただの人間だったはずなのに…

ガブにとってはダブルショックだ。突然の二階級降格だからね。

これは悲劇の始まる臭いがプンプンやな

ようやく舞台は整った。映画『太陽がいっぱい』のはじまりだ。

こっから映画が始まるの?

そうだよ。

次回は映画のストーリーにそって、隠されたもうひとつの物語を解説していこう。

やっとか。これvol.10までいくんとちゃう?

じゃあ、エンディングテーマでも聴きながらお別れしようか。

中山ミポリンもカバーしたCINDYの『天使の気持ち』だよ。

うる星やつらの歌のおねいさんだ!


vol.6へ続く…



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